前潟都窪の日記

2004年11月14日(日) 38度線に響く銃声

 ▼38度戦で響く銃声
 勇が母や妹とはぐれたのは、突然聞こえた銃声が原因となった。
「川を渡ったり、国境を越えるときには、遅れないように、大人の男の人の後について歩くんですよ。幸子は母さんが、手を引いていきますからね」と母が言っていたので、勇は知り合いの後藤さんの小父さんの後ろについて、一生懸命歩いた。そこへ威嚇射撃ではあったが、銃声が聞こえて隊列が乱れ蜘蛛の子を散らすように、岩陰へ隠れるグループや構わずにどんどん行進を続けるグループとに分かれたのである。

 勇がついて行った後藤さんは行進派だったので勇も後藤さんの後ろについてどんどん歩いた。ところが、一時岩陰に身を寄せた母は勇達のグループから遅れをとったという次第である。

 国境を無事突破して、小休止したとき母と妹に再会した。勇はあまり心配していなかったが、母の方は勇の体がマラリヤのために衰弱しているので、勇が、皆から落伍してしまったのではないかと、勇の顔をみるまでは心配で心配でたまらなかったそうである。母はこのとき勇を日本へ連れて帰れないかもしれないと覚悟したと後に述懐している。

 後年今は亡き母の法事でその時の様子を妹の幸子が語って聞かせてくれたが、髪を振り乱して「いさむはおらんか。いさむ返事をしなさい」と発狂したようにあちこち人混みの中を駆けずり廻っていたという。年配の人になだめられて漸く、隊列に戻ったらしい。


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