前潟都窪の日記

2004年10月13日(水) 自分史的連載小説・・・定年退職万歳

定 年 退 職 万 歳・・・自分史的連載小説        
                         前潟都窪      
1.鎮南浦時代
 ▼妹の誕生
 オンドル以外の部屋の硝子窓には幾重にも花のような形をした氷の結晶が張りつき、軒下には氷柱が何本もぶら下がっていた。
「坊ちゃん今日から、お兄ちゃんになるんだから、ここでお利口さんしているんですよ」
とその日駆けつけてきた産婆さんがオンドルで遊んでいた勇に言った。
「うん、赤ちゃんが生まれるんでしょう」
と得意な気持ちになって,勇は積み木で遊んでいた。
 そのうち隣の部屋で泣き声がして、手伝いにきていたオムニ(朝鮮語で女の人)が
「女の子だよ。坊ちゃん妹ができたよ」
と教えてにきてくれた。昭和15年2月1日のことであった。
 父が日本鉱業鎮南浦精錬所の分析技師として奉職していたので、勇は朝鮮の鎮南浦で都窪作治、恵子の長男としてこの世に生を受けた。幼い頃のもので勇の記憶に残っている一番古い思い出は、妹幸子が誕生した日のことである。その日は子供心にも何か異変が我が家に起こりつつあるということを本能的に身に感じながら、オンドルで遊んでいたのである。
 勇が生まれた昭和12年という年は、7月に北京の南西6km、永定河にかかる蘆溝橋付近で、日本軍の一隊の演習中に発砲事件が起きた。以後8年間に及ぶ日中全面戦争に突入するきっかけとなつた「蘆溝橋事件」であり、時代は軍部が戦争へ向けて牙を磨きつつあり、軍国主義の気分が横溢しつつあった。


 < 過去  INDEX  未来 >


前潟都窪 [MAIL]

My追加