日々萌え。
月瀬さくら



 この想いが届くならば

2006年11月18日(土)
甘やかして甘やかされて。
好きなようにさせていたら柔らかく笑うから。
そんなのもいいかな、と思った。




「膝枕?」

自分でも少し高くなったな、と思うくらいの声。
その口から珍しい言葉を発した跡部は、準備万端、と言わんばかりにソファに座って
膝を叩く。
わざわざ端に座って空けてくれたスペースは素直に寝ろ、と言っているようで。
どうしようかと突っ立ったままでいると催促するようにペチ、と再び膝を叩く音。
当の跡部は何を考えているのか読めない表情で、ただこちらを見つめている。
「どうしたん、突然」
「別に。いいから黙って寝ろよ」
きゅ、と少し眉を寄せたのを見てこれ以上不機嫌にさせてはまずいかな、とも思う。

そろそろと近寄ってゆっくりとソファに乗り上げて、恐る恐る頭を跡部の膝に乗せてみたらなんだか体験したことの無い気分になった。
「…失礼しまーす」
「なんだよそれ」
馬鹿だな、って言いたげに笑う跡部の顔を見上げて。
そういえばこんなアングルで跡部を見上げたことなんて今まで無かったんじゃないかと思う。
「重ない?足痺れん?」
「平気だ」
跡部の指が眼鏡にかかった前髪をよけて、優しい手つきで髪を撫でるように梳く。
なんか悪いものでも食べたんじゃないかと思うくらい雰囲気の違う跡部にこっちは戸惑うばかりだ。
そりゃ彼女が出来たら膝枕、とかそういうものに憧れてはいたけれど。
でも跡部と付き合ってからそういう事は無縁だと思っていたし彼にそんな部分を求めているわけじゃなかった。
一緒に馬鹿な話してテニスしてそんでもって傍にいて。
それだけで満たされるなんて随分と幸せなことだと自分の事ながら思う。

「何か、あったん?」
なんの理由も無しに彼がこんなことをするわけないと思って静かに聞いてみれば、急に不機嫌に歪められる綺麗な顔。
「なんだよ、嫌ならはっきり言え」
「いや、そういうわけちゃうよ。珍しいなと思っただけ」
「だったらいいだろ。黙って寝てろよ」
理由を問うのはNGだ、と判断して口を閉じる。
嫌ではないしむしろ幸せすぎてどうしようかと思うくらいだし、彼がいいと言うのならばこのまま好きにさせておくのが良いのだろう。



後頭部に感じる膝の感触はやっぱり女の子のそれとは違って柔らかくはないし、髪を梳くその指だってテニスをしているから決して綺麗とは言えない。
でも、こんな行為を普段は頼んだってしてくれない愛しい恋人は、なんだか今日は自分からこんなことをしてみたりもするし。
その表情が悔しいくらい綺麗だったから。
こんな日もたまにはあっていいかなと思った。

今度は跡部を膝枕してみよう。
照れながらも素直に頷いてくれるであろう彼は、きっとそのまま本当に寝てしまうだろうから。
その、閉じた青い瞳にキスをして、柔らかい髪を撫でて。
自分も同じように幸せだと、伝えられたらいい。













−−−−−−−−−−−−HAPPY BIRTHDAY ゆずこ。



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