2005年10月09日(日) |
山形国際ドキュメンタリー映画祭(その1) |
2年に一度開催されるこの映画祭、私は3度目の参加。 何本も見ていると、中には睡魔に襲われる作品も出てくるのだが、今年に限ってはそれがまるでなく見た映画全て興味深く、寝るヒマ無し。 今回は、1本を除いてすべてコンペ作品を見た。 もっと時間があればコンペ以外も見られたのだが残念。 それにしても、世の中、知らないことだらけだ・・といつも思う・・。
◆「ファイナル・ソリューション」Final Solution [インド/149分]ラケッシュ・シャルマ
早朝に東京を出発してまだ頭が働かない状態で見たこの映画、しょっぱなから、ずしーん。 インドにおけるヒンドゥーとイスラムの対立を捉える。 2002年、インド西部の地方でおこったイスラム教徒虐殺事件を証言を交えて検証。 ヒンドゥ原理主義者(でいいのか?)が民衆を煽り立て憎しみへと向かわせる。 これはナチスはもちろんスーダンだとかルワンダだとかイスラエルだとか…いやになるくらい世界各地で繰り返されている構図と同じだ。 その事実をふまえつつ、映画の後半では虐殺のあった州で行われた選挙に焦点が絞られる。 遠い遠いファイナル・ソリューション(最終的解決)への道を探る。 ティーチインで この映画は、当時、当然ながら上映許可はおりなかった。が、その後ヒンドゥ右派の政権が失脚すると上映可となる。監督は即この映画を大量にダビングしてビデオやDVDで無料配布する。そのための予算は最初から組み入れていたそうだ。で、見た人は最低でもそれぞれ5本はダビングして周囲に配って欲しいとお願いしているという。著作権はいらないという。ひとりでも多くの人に事実を知ってもらいたいというこの心意気!ぐぉっと感激。
◆「ダーウィンの悪夢」Darwin's Nightmare [オーストリア仏ベルギー/107分]フーベルト・ザウパー
これには、今までに無いほど打ちのめされてしまった。 この日知り合った人と映画が始まるまでいろいろとおしゃべりをしていたのだが、終わってからの私、動揺のあまりまるで通常の会話が出来ず。失礼なことをしてしまった。(彼女とは次の日ばったり出会って非礼をわびたけど)
舞台はアフリカのタンザニアのビクトリア湖。 40年程前に誰かが放流したナイル・バーチという巨大補食魚から始まる。 生態系を壊しながらも一大産業となるナイル・バーチにからむビジネス。 が、富を得るのは一部の人間と外国の企業。 地元では貧困・飢餓・それに付き物のストリートチルドレンの発生・売春・HIVの蔓延・そして武器輸送疑惑。 ここでも世界中で見られる構図そのものが繰り広げられている。 魚を石油とか果物穀物とか鉱物とかに置き換えると全く同じ事が起こっていることに今さらながら気づき愕然とする。 ・・これら内包する沢山の問題を、巧みに織り交ぜながら提示していく構成が素晴らしい。 また、武器調達疑惑という大きな問題も、映画の前半からその芽を微妙に繰り返し入れ込み誘導している手腕はかなりのものだ。 この日はティーチイン無しの上映のみ。監督の来る日には私はもう山形にいないよ〜。 あぁぁ、監督の話が聞きたい〜。 →東京での上映会
◆「アンコールの人々」The People of Angkor [フランス/90分]リティー・パニュ
4年前の山形でこの監督の「さすらう者たちの地」を見た時、睡魔に襲われた記憶が…。 なのでちょっと不安を覚えつつ見た。 アンコール・ワットの遺跡周辺で生きる人々を描きつつ、その後ろの長い歴史を美しい映像で描き出していく。 多分カメラの位置とかセリフとかも計算され尽くされているようで、これドキュメンタリーなの?という人がいそうだ。いや充分にドキュメンタリーだと思う。 過去の全てを飲み込んでゆうるりと時の流れるこの映画、ハードなハードな「ダーウィンの悪夢」の後、丁度よかったように思う。
◆「ミュージック・クパーナ」Musica Cubana [ドイツ/90分]監督:ヘルマン・クラル プロデューサー:ヴィム・ヴェンダース
ヴェンダースからキューバの若手ミュージシャンの映画を撮らないかと言われて撮った映画だそうである。いわば「ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブ」若手版だ。 6年前にやはり山形でこの監督の「不在の心象」というセルフ・ポートレートっぽい映画を見ているが、どえらく傾向が違っているのでびっくり。
話は、キューバのピオ・レイバという大御所シンガーが、陽気なタクシー運転手をマネージャーにし、才能溢れる若手をそれぞれスカウトしバンドを作り、最終的にワールド・ツアーに出るというもの。 話は単純ながら音楽が楽しい。それぞれのバンドはキューバのソンやルンバやらヒップホップやらが入り乱れて最高に楽しい。
で、最終目的のワールド・ツアー先は東京なのだ!いきなり首都高やら渋谷が写されてびっくり。そして“東京キネマ倶楽部”というクラブで実際に行われたライブ映像が流れる。 映画前半は普通の面白さなのだが、後半の東京でのパートはまれにみる程のライブ映像かもしれない。凄い!面白い!舞台と客席が一体となるとはこういうことなのか。バンドのメンバーも観客も心から音楽を楽しんで楽しんで愛しているのが伝わってくる。 この映画は、何と来年の3月に公開が決まっているそうだ。
てなわけで、ハードな映画から始まり、途中ほっこり癒され、最後には心から楽しい気分で一日を終えることができたのだ。 今年山形に来るにあたって、へこむ出来事があり、やめようかとも思っていたのだけれど、来て本当によかったと心から思ったのだった。
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