「お邪魔しま〜す」
「お〜、いらっしゃい」
1ヶ月ぶりに見る、彼の顔。
変わってるとか変わってないとか以前に 「あぁ、こんな顔してたんだよね」 という感じでした。
つい最近まで、ものすごく愛してた人だ。
今見ても、Tは私にとって、世界一カッコいい。
カバンを床に置き、とりあえず座る。
「久しぶり〜〜♪」
後ろから、Tに抱きしめられた。
「久しぶりだねぇ〜〜♪」
そう言って、Tの頭をポンポンする。
“男”というよりは、まるでネコみたいで 突き放すことはできなかった。
彼も、元カノ,,,というよりは、 お姉さんか、飼い主のようにしか思っていないだろう。
そう思って、ひっつく事は拒否しなかった。
だけど・・・
ちょっとひっつきすぎ!
「もうっ、あんまりこういう事したらダメでしょっ!」
「だって〜〜、淋しかったんだもん〜」
「淋しくても、別れてるんだからケジメはつけないとダメなの!」
それでも言う事を聞かないT。
「はいはい、淋しかったんだねぇ〜」
仕方がないから、頭を撫で撫でしてあげた。
ほんと、ネコみたい・・・・。
カワイイなぁ(*´∀`)
『きみはペット』の、スミレちゃんの気持ちがわかるかも・・♪
そんなふうに、油断していた時。
Tが顔を近づける。
「あっ!? そ、それはだめっ!」
「なんでぇ〜〜〜?? キスしたいぃ〜〜〜」
それからしばらくTの ちゅー♥攻撃をかわすハメに・・・。
あまりにも私がうまく逃げ続けたもんだから、 Tはむきになり、ついに腕力で無理矢理ちゅーをした。
顔をそむけようとすれば、顔を抑えられ、 Tの胸を押して逃れようとしても、Tは動かない。
それに・・・・長い! 長いぞ!!!
ようやく唇が離れたあと、なんだか気まずかった。
Tは嬉しそうにしていたけれど。
拒否していた私は、どんな顔をしていいのやら・・・。
それからも、Tはちゅー♥を狙った。
たまに、捕まった。
そして、Tから甘い台詞のオンパレード。
「今日は、何時までいてくれるの?」
「yuuに会えるの、すっごく楽しみにしてたんだよ」
「俺の事、もう嫌いになった・・・?」
「こんなこと、yuuにしかしないよ」
「好きだから、したいって思うんじゃん」
「やっぱり好き」
「もう一回、付き合う・・・・?」
「どうしたら、好きだって信じてくれるの?」
私は、別れる前に裏切られたと思っていた時の心境を話した。
「あまり会えないと、冷めちゃう時ってあるじゃん。 あの時は、そう思えたから・・・。 今、yuuを目の前にしたら、やっぱり好きだって思った」
「でも、私が帰ったら、また冷めちゃうんじゃないの?」
「そんな事無いよ!」
「たぶんTは、淋しかった時に、今も嫌いじゃない元カノと 久しぶりに会って、それでそんな錯覚を起こしてるだけなんだよ」
「錯覚じゃないよっ! ほんとに好きだよ!」
「手近にそういう相手がいるから、そこに甘えたくなっちゃった だけなんだと思うよ? 落ち着いてよく考えて!」
「落ち着いてるって!」
だめだ、私が何か言えば言うほど、Tは冷静じゃなくなってくる。
だけど・・・・
ここまで言うのなら、本気なのかなぁ、とも思った。
もしTが本気なら、私はどうしたいだろう?
本当にそこまで想われてるのなら、戻るのが幸せかもしれない。
・・・・いや、だめだ。
今はまだ、Tが本気だか何なのかわからない。
もしかしたら、ちゅー♪の先に進みたいための、 うまい口説き文句なのかもしれない。
きっと、この子は淋しいだけなんだ。
もし今、目の前にいるのが私じゃなくても Tは同じ事をしてるかもしれない。
今は、何がなんでも「戻ろう」と言ってはいけない。
結局、なんだか曖昧なままだった。
それから、バス停近くの店に、夕飯を食べに行く事にした。
Tがぎこちなく手を繋ぐ。
店に入り、談笑しながら食事。
ちょっと居酒屋風で、楽しかったな・・・♪
食事が終わって、そのままバス停へ。
建物の陰に腰を下ろし、バスを待った。
2人で、寄り添いながら。
バスが来ると、Tは私に、短いキスをした。
「じゃぁ、バイバイ」
「・・・もう一回」
そしてまた、バイバイのキス。
Tは、何を考えているのだろう?
私は、どうしたいんだろう?
Tに「好き」と言われた時・・・いや、 Tと会う前日から、それまで好きだと言っていた 社長さんのことは、頭から消えていた。
バスの中でも、電車の中でも、想うのはTのことばかり。
まるで、社長さんの存在で堰き止めていた気持ちが 少しずつ溢れてきているようだった。
正直、ハグハグとかキスを求められる事を 期待していなかったといえば嘘になる。
実際にされても、全然嫌なんかじゃない、嬉しかった。
ただ、別れている、という事実が、私にそれを拒否させた。
簡単に受け入れていては、別れた意味がない・・・・。
そんな“チョロイ女”になってはいけない。それが盾だった。
けれど、Tへの気持ちが、その盾を案外容易く壊してしまった。
家に帰って 「今日は楽しかった。ありがとう♪」とメールをした。
Tからも、すぐに「俺も楽しかったよ〜!」と返事がくる。
そして、私は部屋に置いてきたものを、何一つ 持って帰っていないことに気がつく。
それをTに言うと
「またおいで♪」
との返事。
「うん」と返信すると、「じゃぁまたね」
あらら・・・・・つれない返事。
会ってた時とは、えらい違いね。
それから10分後、勇気を出して
「私、まだTの事好きかもしれない。 Tがもう落ち着いてるんなら、聞き流しといて!」
そうメールをした。
返事は、来ない。
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