2004年08月04日(水) |
キャプテン 〜横浜高校・村田浩明〜 |
◆神奈川大会決勝 7月28日 横浜スタジアム 神奈川工 000 000 000 | 0 横浜高校 110 140 14/ |12
校歌を歌い始めた頃、村田の目には涙がたまっていた。応援席に走り出し、挨拶を終えると、それは大粒の涙として頬を伝った。優勝インタビューは、泣きながら。涙のインタビューが終えると、選手による村田の胴上げが始まった。監督よりも部長よりも、誰よりも早い胴上げだった。 「横浜高校のキャプテンをやっていて、初めて良かったなと思いました。今までの苦労が全部報われました」 村田はキャプテンとして過ごした約1年間をしみじみと振り返っていた。 「誰かほかのヤツが悪いことをしても、全部自分のせい。監督や部長に怒られるのは自分ばかりで、毎日のように辞めたい辞めたいと思っていました。キャプテンなんてやるもんじゃないって」 春の大会中、「横浜のキャプテンってどんなもの?」と訊くと、村田は「つらいです」と即答した。 「キャプテンになった頃は、『よし、やってやろう』と。でも、やっていくうちに思った以上につらいことが分かって…。もう、みんなが言うことを聞いてくれないし、チームはバラバラ。今の代は個性が強いと言われているけど、強いなんてものじゃないです」 昨秋は横浜隼人に3回戦でサヨナラ負け。常勝を求められる横浜にとっては、あまりにも早い敗戦だった。 「横浜高校は名門だけに成績を残さないといけない。過去の先輩たちの栄光を汚すわけにはいかない。かなりのプレッシャーがありました」 横浜隼人に敗れたあと、チームはバラバラに。村田自身も、キャプテンのプレッシャーに押しつぶされ、ついには練習中に呼吸困難に陥り、病院で点滴を受けることに。村田はキャプテンを降りることを決意した。代わりに主将を務めたのが玉城秀一。それでも、玉城を主将に添えたチームはわずか2週間しか続かなかった。 「監督に『やっぱり、お前がやって欲しい』と頼まれて、もう一度キャプテンに復帰しました」 チームは村田を求めていた。個性の強すぎる横浜をまとめるには村田しかいない。再びの決意で村田は主将に就任した。
春。村田は甲子園にセンバツ準優勝旗を返しにいった。一人で歩いた甲子園のグラウンド。悔しい思いばかりが胸にこみ上げてきた。 「つらすぎました。でも、センバツから帰ってきて、本当にチームがひとつにまとまった。みんなが『夏は甲子園に行ってやろう!』という気持ちが強くなって、チームがいい方向に進んでいきました」 チームは春の県大会を優勝し、関東大会も制覇。昨秋から見事な復活を遂げた。村田は準々決勝の桐光学園戦で決勝タイムリーを放つなど、攻守に活躍。主将として選手として、横浜を支え続けた。 桐光学園戦後、渡辺監督はこう話していた。 「チームで誰よりも甲子園に出たいと思っているのは村田。あいつは誰よりも練習している。今日のタイムリーは野球の神様が打たせてくれたんでしょう」 夏。村田の名はスタメンから消えた。入部前から即戦力と噂されていた緑中央シニア出身の1年・福田永将が評判どおりの活躍を見せ、レギュラーに定着。インサイドワークと肩に優れた村田は終盤から登場する「抑えのキャッチャー」として、試合出場を果たした。 再び桐光学園と対戦した準々決勝。試合後、敗れた桐光学園の3年生が、村田のもとへ千羽鶴を渡しに来た。中学時代、川崎北シニアでチームメイトだった片根勇介の姿もあった。 「村田〜、福田なんかに負けてんなよ。応援してるからなら、絶対甲子園行けよな」 「おう、ありがとう」 「あと、お前、手のサイズいくつ? これ、やるよ」 そういって、片根が村田に差し出したのがバッティンググローブだった。 「新しいんだよ、これ。でも、全然使ってないから、お前にやる」 「ほんとか? いいのかよ?」 そう言いながら、村田は嬉しそうに受け取った。(ただ残念ながら、サイズが合わなかったため、バッティンググローブは涌井の手に) 2年センバツに続く、自身2度目の甲子園に向け、「自分の仕事をきっちりとこなしたい」と村田は言う。1年にスタメンを奪われ当然、心中穏やかではないはず。それでも、「チームのためにやるだけ。使ってもらったときに自分の力を出します」とキャプテンらしいコメントを残す。 村田の帽子のツバには、太く黒い文字で「鬼強心」と書かれている。村田の造語であるが、「どんなときでも、鬼のように強い心を持ち続けたい」という思いが込められている。 キャプテンとしての1年間、苦労ばかりが続いた。日々、気持ちが揺れ動く中、「鬼強心」を自分に言い聞かせ、神奈川制覇を成し遂げた。次に狙うは、もちろん98年以来の全国制覇。 「チームワークさえしっかりしていれば、優勝できる」 個性派揃いのチームをどれだけまとめられるか。横浜の全国制覇は、キャプテン村田にかかっている。
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