神奈川大学野球春季リーグ開幕戦。第1試合が終わったあと、横浜国大の部員と第2試合を見ていた。序盤、1死一塁の場面だった。 「今、背中向けた」 と、野球部員が言う。 ピッチャーが投球を終えた後、キャッチャーがピッチャーへ返球する。返球にあわせ、二遊間がピッチャーの後ろへカバーに入る。といっても、ショート、セカンドともわずかに2〜4歩、少し動くだけである。そして、自分の守備位置へ戻る。 このときである。ショート、セカンド、そしてピッチャーを含めた内野手の誰もが、下を向き、一塁ランナーに背中を向けながら、守備位置へ歩いていた。 「誰も、ランナーの動きを見ていない。スキがありますよね」 守っていたのは、過去に何度も神奈川リーグを制している名門チームだった。 俊足で走塁センスがある選手なら、二塁を陥れることができる。それぐらいの凡ミスだった。
先週の日曜日、神宮球場で行われた―社会人「六大学対抗戦」。第1試合の早大―NTT東日本戦を、東大・河原主将と観戦していた。中盤、早大の守備のとき、ショート左寄りへの平凡なゴロが飛んだ。鳥谷が無難に捌き、ファーストの武内へ送球。このとき、セカンドを守る田中が、一塁ファールゾーンまで走ってきており、しっかりとカバーをしていた。 そのプレーを見て、「田中、いい選手だよね」と、私はひとり言のように呟いた。河原も言う。「目立たないけど、良いですよね」。河原は実際に対戦していて、それを感じたようだ。「去年の秋の開幕戦、東大は早稲田に16−0で負けたんですけど、9回に入っても、田中は今みたいに、ファーストのカバーに入っていたんですよ。もう、体に染み込んでいるんでしょうね。すごい選手だと思いましたよ」
第2試合、法大のスタメンショートは1年生の大引だった。試合中、大引は常に目配りをしていた。キャッチャーがピッチャーへボールを返すときはもちろん、どんな状況においても、常にランナーをしっかりと目視し、ランナーに対しスキを見せない。遠めからではあるが、キョロキョロと目を動かしていたのが分かった。
田中も大引も、プレーに派手さがないため、あまり目立つことがない。でも、田中は早くから早稲田のレギュラーを掴み、大引は1年生でスタメンショートに起用された。当たり前のプレーを、どんな場面でも当たり前にこなす姿を見て、その理由が分かった気がした。
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