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2003年09月27日(土)
「忘れないよ!ヴェトナム」田口ランディ

「忘れないよ!ヴェトナム」幻冬舎文庫 田口ランディ著
この本は田口ランディの処女作だそうだ。一般的にいって処女作にはその作家のほとんど全てが詰まっているといわれている。そういう意味ではこのベトナム紀行文としては、はなはな不完全なこの作品も意味があるのかもしれない。この本の中に彼女の作家としての可能性の全てが詰まっているような気がするからだ。
私自身としては1ヶ月前に行ったベトナムを懐かしむ気持ちでこの本を手にとったのだ。1ヶ月の旅の間彼女は初めてのベトナムであるにもかかわらず、とうとうガイドを雇うことも無く、自力でベトナムに住むことになる。だからいったのはほとんどホーチミンの街とメコン川周辺に限られている。紀行文としては不完全といった所以である。彼女は精力的な『取材』というものをほとんどしていない。一日中ホテルの中でノンベンダらりと外を眺めているだけだったりする。テーマも決めていない。途中「目標」として掲げた「10m級のマングローブを見る」ということもついに実現せずに終っている。ただ、彼女のベトナム体験は私の体験することの無かった可能性としての旅に満ちていた。
この本は紀行文とはいえない。むしろ小説だと思う。もちろんほとんどが彼女の体験した事実だとは思うが、事実はこの作品の中では重要ではない。いろんな人に逢って、だんだんと「旅する」モードに入り込んでいって、「自分は何者なのか」に気がついていく過程、それがこの作品の真骨頂だ。ああ、また旅をしたくなった。