日々あんだら
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2006年07月26日(水)


(α-7+AF17-35mmF2.8-4(D)、SUPER CENTURIA200)


僕は口が軽い子供だった。
…いや、今でも軽いと言っていいだろう。(笑)
口止めされてないことはだいたいなんでも喋っちゃうので要注意。
打ち明け話をする時には、先に「誰にも言うな」って口止めをしよう。(笑)



確か僕が保育園の頃だったと思う。
台所で母親がご祝儀袋にお金を入れていた。確か親戚のおばちゃんへの出産祝い。
「いくら入れるん?いくら?」ってしつこく聞いたら、「絶対誰にも言うたらあかんで」と言われた。
「うん!いくら?」と二つ返事をしたら金額を教えてくれた。
確か5千円だったと思う。

それを聞いた僕はそのまま事務所(実家は小さな会社をやっていて、事務所と隣接していた)に駆け込み、
働いていたおばちゃんに「おいわい、ごせんえんやってー!」と叫んだ。
当時の相場で5千円というのが高かったのか安かったのか知らないが、もちろんそんなことは問題ではない。
僕は母親にこっぴどく叱られた。
散々叱ったあと、母親はとても冷たい目をして僕に言った。



「もうあんたは信用できん。もう絶対なんにも教えん」



幼心にもすごくショックだったのを覚えている。
もちろん、自分が悪いことはわかっていたけど。
それからも母親からはことあるごとにこのことを引き合いに出され、「あんたは信用できん」と言われ続けた。
25年以上経った今でも時々言われる。

その反動かも知れないけど、それ以来「言うな」と言われたことは絶対話さないようになった。
未だに母親からは「口の軽い子」と言われてるけど、あれから口止めされたことを他人に喋ったことはない。
(…と思う。←若干自信なし。^^;)
僕にとって口止めは絶対だし、「信用される人になる」ということは僕の中でとても大きなウェイトを占めている。
約束はできる限り守ろうとするし(どうしても無理な場合は謝るけど)、約束を破られることが大嫌いだ。
(そう言えば昔付き合っていた人に「ひでの約束は重い。そんなんだったらもう約束なんかできない」って言われたことがあった。僕にとっては軽い口約束でも守らないといけないものなんだよ…)




今、一緒に仕事をしている女性の先輩がいる。仮にAさんとしよう。
去年の冬、りなさん夫妻の写真を撮るために一緒に神戸の中華街を歩いていた時、
当時別の部だったAさんが男性と歩いて来たのにバッタリ出くわしたことがある。
職場の中でAさんの男性関係の噂を聞いたことはなかったので、
おもしろい場面に出くわしたと思う反面、内緒にしとかなあかんのかなー、とも思った。
月曜日、出社したらすぐにAさんに呼び出され、「絶対誰にも喋らんといてや!」と口止めをされた。
それを了承して、会社の中ではどんなに仲のいい人にも喋らなかった。
課長や、一緒に仕事をしている先輩(Bさん、Cさん)と飲みに行って、
「Aさんって彼氏いるんか?」とか、「お前(僕のこと)、Aさんはどうや?」とか、
そういう話題になっても知らないフリを続けた。


今年の春からAさんはウチの部に異動になって一緒に仕事をするようになったんだけど、
1ヶ月くらい前、課長と僕とAさんで出張に行った時、新幹線の中で
「実は12月に結婚して退職しようと思ってるんです」と打ち明けられた。
彼氏の存在を知ってた僕はともかく、課長はひっくり返るくらい驚いて(なんせ「彼氏は絶対にいない!!」と断言してたのだ。笑)、あまりびっくりしてない僕を問い詰め、「実は前にデートしてるのを目撃したことがあるんです」と打ち明けると、

「なんだよ、お前も冷たいなー」

と拗ねた顔をしていた。
その日もAさんからは「皆さんには時期を見て私から打ち明けるので内緒にしといてくださいね」と言われ、
課長も僕も了解した。


今日、今さらながらAさんの歓迎会ということで、Bさん、Cさんと5人で飲みに行った。
その席上で、AさんからBさんとCさんに対して12月に結婚することが打ち明けられた。
2人はまずは驚き、そしてAさんを祝福し、その後Bさんが僕に向かって言った。


「課長と、お前も知っとったんかい?」
「はい、前に聞いてました」

その瞬間、Bさんの表情が一変した。

「なんでワシらに黙っとるんや!!!」手にした扇子でテーブルを叩きながら責められた。
「ごめんなさい、私が言うなって言ってたんです」とAさんが言っても、
「いや、アンタはええがな。ワシが腹が立っとんはコイツや」と僕の顔を見て言った。


「なんでワシらに黙っとっるんや?ワシらは家族みたいなもんちゃうんかい!」

僕は他人から口止めされたら血を分けた親兄弟にだって、よっぽどのことがない限り言わない。
(黙っていることが、明らかに自分や周りの人の不利益になったりするなら話は別だけど。)
母方の祖父が末期がんだということがわかった夜、重みに耐えられなくなった母親が僕にだけ打ち明けた。
その時も「誰にも言うたらアカンで」と言われたので、父親にも話さなかった。
父親が末期がんのことを知ったのはもっと後のことだ。
そのことで父親がどう思ってるのかは知らないけど。


「ワシもCもこっそり打ち明けられたら他人になんか喋るかい!なんで口止めして言わんのや!?」

僕が喋ったことがAさんにバレなければいいのか。
バレるとかバレないということと約束は全く別なんじゃないのか。
少なくとも僕は「バレなかったら約束を破ってもいい」とは思えない。
僕の中で『約束』ってそんなに軽いものじゃない。


「ワシらも隠し事とかしとらんやろうが!」

僕だって、自分の結婚のことだったら隠したりはしなかった。
他人のことをなぜ僕の口から話せる?
それは本人の口から言うべきことだと思ったし、今もその思いは変わっていない。



言いたいことは頭の中で渦巻いていたけど、僕はひたすら謝り続けた。
でもBさんの怒りは鎮まらなかった。
Bさんの言っていることもわかる。
たった5人の課で秘密を作られていたのだ。おもしろいはずもない。
それに僕の前任者が部内恋愛をしていてそれを最後の最後まで隠し通していたことで
未だに傷ついているのも知っている。
ウチの部に来て3ヶ月のAさんより、2年間一緒だった僕に隠されていた方がショックが大きいだろう。
「ワシらは家族みたいなもんちゃうんかい!」って言ってもらえて、僕もとても嬉しい。



でも、あの時の母親の目が忘れられない。
「あんたは信用できん」という言葉は、僕の耳の奥に刻み込まれてしまった。
それはもう、心に刺さった、決して抜けることのない棘のようなものだ。
たとえ時間が1ヶ月前に戻ったとしても、僕は2人にこのことを打ち明けたりはしない。


結局、帰る時までBさんの怒りは解けなかった。
「お前は見損なった。もう知らん!!」と怒鳴られた。
仲のいいCさんと2人で歩いていく後ろから着いて行ってたら「ワシはCと飲みに行くんじゃ!」と
野良犬に対するような手つきで追い払われた。


すぐ熱くなるけど元々がさっぱりした性格の人なので、明日の朝には普通に接してくれるかもしれない。
明日は無理でもちょっとずつ関係が戻っていくかもしれない。
そうなったら、きっと僕も今まで通り接することができるだろう。

でも「お前は見損なった」という言葉。僕を追い払った手つき。
心に突き刺さった新しい棘は、きっと抜けない。


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