日々あんだら
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2006年05月09日(火) ハービー・山口さん




僕が勝手に師匠と思っている写真家さんが2人だけいる。
まあ基本的に写真の知識(絞りとかシャッタースピードとか露出補正の仕組みとか)はデジカメの説明書や雑誌で覚えたし、写真の表現についてはネット上に溢れかえっている写真を見て学んだ(真似したとも言う^^;)ので、独学なんだけど。

その2人の師匠には写真に対する心構えとか、写真に込める気持ちとかを教わったように思う。


1人は内田ユキオさん。お会いしたことはない。
でも彼のエッセー集『ライカとモノクロの日々』は僕のバイブルである。何回読み返したかわからない。
僕の『underline』というサイト名は、この本の『アンダーライン』というエッセイから取らせてもらったものだ。
初めてモノクロで撮ってみたのも内田さんの写真を見て興味を持ったからだし、
レンジファインダーのCLEを買ったのも彼の影響である。(内田さんはライカ使いだけど。^^;)



そしてもう1人がハービー・山口さんである。

去年の春の頃、僕は数ヶ月に渡って行き詰っていた。
その頃撮っていた写真が、1年前に撮った写真となにも変わらないような気がして。
あの頃は自分の写真は「マンネリだ」と思っていたし、「これってhideさんの写真だねー」と言われるたびに嫌になっていた。
写真を初めて2年半程度で自分の「型」なんかできるはずがないと思っていたし、
「型」のようなものがあったら、それは単なるマンネリだと思っていたから。
なんとかその殻を破ろうと、普段撮らないもの(=そんなに撮りたいとも思っていないもの)を撮ってみたり、
構図をあーでもないこーでもないといろいろ考えてみたり。
でもそんな小手先の手段で打破できるわけもなく。
その頃撮ってアップした写真も結構評判が良かったんだけど、自分では全然満足してなかった。


その頃、東京・四谷でハービーさんのワークショップに参加した。
十数人の受講者だけの小さなワークショップ。
ギャラリーの小さな事務所にぎゅうぎゅう詰めになってハービーさんのお話を聞き、
作品のスライドを見せてもらった。

その中でこんなお話があった。
小さい頃から体が弱く、友達もいなくて孤独だったハービーさんが20歳の頃の話。
ある日ハービーさんは公園へ行き、バレーボールをしている中学生くらいの女の子を撮っていたそうだ。
その時、そのバレーボールがハービーさんの方に飛んできて当たりそうになった。
ボールは余裕を持って交わせたんだけど、その瞬間に女の子の目に浮かんだ感情、
人への思いやり、優しさ、慈しみ、そしてボールが当たらなかったことへの安堵…
その一瞬にハービーさんは人の瞳の持つ美しさを全て見たそうだ。
もちろんボールを避けていたのでその瞳を撮ることはできなかったんだけど、
その時に「今の瞳を撮り続けよう」と決心されたそうだ。
「今、彼女が見せてくれた人間味溢れる美しい光を撮り続けよう」と。


そのお話の後、作品を見せていただいて「なるほどな」と思った。
ハービーさんの写真は(ご自分でも仰ってたけど)古典的だ。
特別すごいテクニックは使ってないと思うし、構図が目を見張るほど奇抜なわけでもない。
でもその人その人の一番いい表情を捉えていると思う。一番美しい瞳をフィルムに焼き付けている。
それは風景でも同じで、その場所の持つ一番いい空気を感じることができる。

「ああ、ハービーさんは何十年もその思いを持ち続けて写真を撮って来たんだ」と実感した。
その何十年もの積み重ねが今のハービーさんの作品であり、人柄そのものなんだと。
そして「たかが2〜3年カメラをかじっただけの僕が、なにを悩んでるんだ」と恥ずかしくなった。
別に何かを無理に変える必要なんてないのだ。
ただ1つのものをひたすらに撮り続けているだけで、こんなにも素晴らしい写真を撮る人がいるじゃないか。

目の前にかかっていた靄が突然晴れたような気分だった。




その後、ハービーさんに自分たちの写真を見てもらうことになった。
誰も前に出ようとしなくてイライラしてきたので、僕が一番に見てもらった。
いろんなジャンルの写真を見てもらって、褒められたのは人を撮った2枚の写真だった。
「君は人のアクティビティを捉えるのが上手いね」とお褒めの言葉までいただいた。
「もっと人を撮るといいよ」と。


実はそれからなのである。
今みたいに人をガンガン撮るようになったのは。
ただ撮るだけではなく、その人のいい表情を撮ろうとするようになったのは。
そして、「笑顔をテーマにした個展を開きたいなぁ」と思うようになったのは。


あれから1年、笑顔をテーマにした個展を開くことができ、たくさんの人に見てもらえた。
写真を撮っていて以前のようにモヤモヤしたものが残ることはない。
同じような構図で同じように撮っていても、人の自然な表情は毎回違うので全然飽きないし、
マンネリだなんて全く思わない。
写真を撮ることも見ることも、1年前よりずっと好きになっている。

あの日、ハービーさんのお話を聞けなかったら、僕の写真を見て褒めてもらわなかったら、
もしかしたら今頃写真をやめていたかもしれないと思う。
そういう意味でハービーさんは恩人だし、やっぱり師匠なのだ。(一方的に言ってるだけだけど。笑)




そのハービーさんの写真展がGW中に大阪であったので行ってきた。
前日までご本人が会場にいらしたらしいけど、その日は残念ながらいらっしゃらなくて
お会いすることはできなかった。
でも会場にかけられた写真はどれも素晴らしくハービーさんの写真で、
1枚1枚から優しい波動を感じることができた。
特に好きだったのは、シンガーのcharaさんを撮った1枚。
砂浜に立ったcharaさんがなんの飾り気もない笑顔を見せている写真。
ホント雷に打たれたみたいになってしばらく動けなかった。
他の写真に移ってからも2回くらい戻って来て眺めてしまった。
「これ、買えるなら持って帰って壁に飾る」と呟いてサイジョーさんに笑われた。
そう言いながらも、その写真を見て悔しいと感じていたのは身の程知らずなんだろな、きっと。


僕にとって写真は趣味でしかないけれど、これからも周りの人たちの素敵な表情を撮り続けて行けたらいい。
そしていつかハービーさんにお会いできた時に直接お礼を言いたいな。
きっともう覚えてらっしゃらないだろうけど。


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