甘えた関係

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2003年01月03日(金)
麝香

東京に行く新幹線のなかで『ウエハースの椅子』を読んだ。
この本を読むと、「恋人」が欲しくなる。
ポストまたは役としての「恋人」を。
そして、現実と比較しては実際にはしない傲慢な溜め息をつき、あたしの目元が少し緩む。
まぁいい、なんて言葉を声に出しそうになる。
それからゆっくり、気持ちは恋人の方向へ。
カウントダウンは、甘栗を食べながら迎えた。
社交辞令がニガテなあたしは、紅白を見たくない。
その主張を、『うん、それでもいいんじゃない?』、恋人はやんわりと受け入れた。
あたしはそれに安心をした。
もし、その主張を退けられていたら、泣かない自信がなかったからだ。
時々、なんでこんなことで?ということであたしの感情は急上昇または下降をする。
恋人の腕時計がカチコチという音を聴きながら、「あと30秒よ」、なんてことを教える。
恋人はあたしの真正面に座っていて、甘栗を剥きながら、『ふぅん』、とその度に相槌をうつ。
あたしも甘栗を食べている。
秒針が、ついに零時を越す。
その現象に思わず、「あ」、と言う。
恋人はすかさず、『あけましておめでとうございます』、と言う。
さっきまで興味ないそぶりで甘栗を剥いていたくせに。
先を越されて思っていたよりもずっと悔しい。
さっきまで腕時計を耳に押し当てていたくせに、あたしはそんなこと実はまったく興味なかったんだから、というフリをする。
ちょっとサービスで可愛い子ぶってみただけよ。
目を覚まして。
あたしがこんなこと本気でするわけなじゃない?
思い切り爪を食い込ませて甘栗を剥き、出来るだけぞんざいに見えるように、口にほうりこみながら、「あけましておめでとうございます」、と返す。
脳裏の片隅で、恋人という存在と新年を迎えたのは初めてだわ、と今更ながらに気づく。
まぁわるくない。
そう、この人は今のあたしにはまぁ悪くない。
むしろ、最高に近いのかもしれない。
「今年もよろしくね」、と付け足す。
『こちらこそよろしくね』、と返される。
そして、『互いに出来るだけ関わっていこう』、とも。
無理はしなくてもいい?という言葉を飲み込んで、「そうだね」、と頷いた。
付け足された言葉に、想像していたよりもずっと、気が重くなった。

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