2007年08月23日(木) |
おめでとう、佐賀北高校! |
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第89回全国高校野球選手権大会最終日は22日、兵庫県西宮市の甲子園球場で決勝が行われ、佐賀北(佐賀)が5−4で広陵(広島)を破り、初優勝を果たした。佐賀県勢では76回大会の佐賀商以来13年ぶり、公立校では78回大会の松山商(愛媛)以来の全国制覇。(時事通信)
オレは高校野球のテーマソングというと、「栄冠は君に輝く」よりもどうしても「君よ8月に熱くなれ」の方が好きだ。これは1981〜88年まで朝日放送の「熱闘甲子園」のテーマソングとして使われていた。その作詞者である阿久悠先生はつい先日お亡くなりになってしまったのである。オレは心からそのご冥福をお祈りしたい。さて、オレがこの曲を好きな理由はやはりその歌詞にある。
まためぐり来る夏の日に心ふるわす人がいる
あれが確かに青春と胸に瞼に刻み込む
時よ止まれよ ただ一度 奇跡起こした若者に
雲が湧き立つ甲子園
君よ八月に熱くなれ
この歌を口ずさむと、なぜか胸にこみ上げるものがあって、涙ぐんでしまうのである。「時よ止まれよ ただ一度 奇跡起こした若者に」あの甲子園の高校野球というのはかつてどれほど多くの奇跡を生み出してきただろうか。一つでも負けてしまえばそれでおしまいのあのギリギリの戦いの中で、必死にプレイする高校球児たちの与えてくれた感動をオレはいくつも思い出す。
オレがまだ中学生の頃、母の郷里である鹿児島県・坊津町に夏休みのたびに帰省していた。その1974年の夏、テレビでは準々決勝を鹿児島実業と東海大相模が戦っていた。鹿実のエースは後に巨人入りした定岡である。試合は延長戦になり、みんながテレビの前にかじりついて鹿実を応援していた。放送時間が終了になっていったん打ち切られたのに県民からの抗議でまた再開され、終わりまでテレビで観ることができたのである。センターに抜けそうな火の出るような打球を飛びついて捕った鹿実のセカンドの超ファインプレーは今でも覚えている。ちなみに東海大相模の5番打者は現巨人軍監督の原辰徳だったそうだがそちらは全く覚えていない。延長戦の末に東海大相模を下したことで絶対に決勝進出だと思った鹿実は準決勝で防府商業に敗れたのだが。
1985年といえば阪神タイガースがセリーグ優勝、その勢いで日本シリーズでも西武ライオンズを下して日本一になった年だが、高校野球ではあのPL学園の清原、桑田コンビが活躍した年だった。PL学園は宇部商を決勝で下して優勝した。オレは清原や桑田の活躍をテレビで観ながらワクワクしてたことを思い出す。ただ彼らはあまりにも完成されすぎた強さであり、奇跡でも何でもなくただ順当に勝ったという感じだった。
今年の夏、大阪代表の金光大阪は初戦で早々と敗れたこともあり、オレはあまり熱心に高校野球を観ていなかったのだがオレの父は時間があるとずっとテレビで野球を観ていた。8月19日(日)の午後もオレの父はいつものようにテレビの前で食い入るように画面を見つめていた。それは佐賀北と帝京との準々決勝だった。「ええ試合なんや!」父はそう言って画面を指さした。試合は延長戦に入っていた。優勝候補の帝京に対して、ここまで何とか勝ち上がって来れたものの佐賀北の方が分が悪いように思ったが、しっかりと五分の戦いで延長戦に持ち込んでいるのである。佐賀北の守りがすばらしい。併殺を取るそのすばやさにはほれぼれするくらいだった。よく練習して鍛えられてるのがわかる。帝京がスクイズ失敗で絶好のチャンスをつぶし、佐賀北がサヨナラ勝ちを収めたその瞬間、父は感動の涙を流していた。「よかったなあ、がんばったなあと」喜んでいた。それを観ていてオレも父と一緒にその佐賀北を応援したくなったのだ。佐賀北が開会式直後の戦いで甲子園初勝利を収め、そして引き分け再試合をも勝ち抜いてきたということもその時に知った。ちゃんと勉強して進学を目指す地方の普通の公立の進学校の生徒たちが、ここまで勝ち上がってきたということにオレは不思議な感慨を覚えた。
準決勝は佐賀北と長崎日大という九州勢同士の対決だった。この試合、佐賀北は3得点すべてをタイムリーヒットではなく犠牲フライや相手のミスに乗じて奪い、見事な投手リレーで完封した。派手さはないがやはり見事な戦いぶりだった。そして決勝戦を迎えた。
佐賀北の決勝戦の相手は春の選抜で3度優勝している高校野球の名門、広陵高校となった。広陵は一回戦で昨年の覇者の駒大苫小牧を下し、準決勝では春の優勝校の常葉菊川を倒している。まぎれもなく今大会随一の強豪校である。試合は7回までに広陵が4点をとって4−0とリードし、佐賀北は1安打に抑えられていた。誰もが広陵の勝利を疑わなかった8回裏に奇跡は起きた。一死満塁からの押し出し四球でまず1点、そして3番打者の副島くんが逆転満塁ホ−ムランをレフトスタンドに放り込んだのである。試合はそのまま5−4で佐賀北が勝った。
ついさっきまで手中にあったはずの勝利を逃した広陵高校の選手たちは皆、悔し涙を流していた。惨敗ならかえって涙も出なかっただろう。全く力が及ばないのなら却って悔しくないものである。もう少しで自分たちがつかめたはずの栄光を逃してしまったことで選手たちは泣いたのだ。甲子園常連校、広陵高校の野球エリートたちがまさかの逆転負けを喫したのだ。勝った佐賀北の選手たちは、自分たちが今そこにいるということが信じられないという嬉しさに溢れた表情をしていた。インタビューを受けている選手たちの表情はみな輝いていた。観ているオレにもその嬉しさが伝わってくるようだった。
逆転満塁ホームランを打った副島くんは今大会で3本のホームランを放っている。だから彼にとってホームランを打ったことはただその実力を発揮しただけのことである。しかし、そのホームランがあの場面、あの最高の瞬間で出たことは一つの奇跡であるとオレには思えるのだ。「時よ止まれよ ただ一度 奇跡起こした若者に」オレはこの歌詞を思い浮かべながらあのホームランの瞬間を思い出す。勝ちたいという執念がこもった渾身の一振りが、打球をレフトスタンド中段まで運んでいったこと、それは奇跡以外の何ものでもないと。
おめでとう佐賀北高校、そして感動をありがとう。きみたちが甲子園のあのグランドで輝いていたこの夏のことをオレは忘れないよ。
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