::そばにいるよ、オレンジ-1(CHRONO CROSS) 2002年12月14日(土)

飄飄と哭く風
渺渺と流るる湖



水鏡は



真の己の姿を映しているのだろうか






「そんなに覗き込んでたら、今に水の中に落ちちゃうわよ。」
「!?」
「あ!!」






そう声をかけた主があまりにも意外だったせいか、
体全体で驚きを表してしまい、
そのままバランスを崩し、



落ちた。



夏といえど、もう夕刻となれば水は冷たい。



先に二対の聖剣を岸に引き上げ、次に自分自身を、と試みた。
が、なかなかうまくいかない。
水の中では浮力が働くとはいえ、自身が身につけている装備の重みが災いし、
体が上手く持ち上がらない。



「わざわざその通りになってくれなくても良かったんだけど・・・」



すっと目の前に健康的な色をした手が差し出された。



「ほら、捕まりなさいよ。」


「・・・どうも。」



言いたいことは山ほど在ったが、とりあえず早く冷たい水の中から身を脱したかった。
右手を、彼女の方へ差し出した。



左手を地面につき、体全体に勢いをつける。



「せぇ・・・っの!!」



彼女が、手を引っ張る。

















「ほら、ハンカチ。
 とりあえず顔だけでも拭きなさいよね。
 それから早く家に帰って、服を着替えて体全体を乾かさないと。
 いくら夏だからって、もうこんな時間だしカゼひいちゃうわよ。」



彼女の面倒見の良さはその言動から見ることが出来る。
村の子供達が、彼女を慕っている気持ちもよくわかった。
が、今はそんなことはどうでもいい。
今一等、重要なことは・・・



「なんで、ここにいるんだ?」



仲間には、少年にだってここのことは告げていないのに。
第一、彼女とはあまり親交はない。
まともに顔を合わせて喋るのだって、今日が初めてと言っていいほどだ。



「あら、それはこっちのセリフよ。
 わたしだけの特等席のはずの場所に、あなたがいたんだもの。」
「・・・じゃあ、なんでここに来たんだ?」
「そっちこそ。」
「おれのことはどうでもいいだろ。」
「そっちが教えてくれなきゃ、教えないわよ。」
「・・・・・。」



はぁ、と盛大にため息を吐いた。
これ以上押し問答しても疲れるだけだ。
こっちから去ってやるか、と腰を上げたが・・・



彼女はそんな様子を見、声を押し殺して笑っていた。



「ウソ、よ。」



何か言い返してやりたかった、が、
彼女の淋しげな微笑みに阻まれた。



妙に淋しげな碧の瞳に、赤みがかった茶色く長い髪が風に揺れた。



「わたしはね、自分に自信をなくしたらここに来ることにしてるのよ。」
「・・・自信?」
「そう、自信!
 わたしはわたし、他の誰でもない!
 世界中で無数の星が煌めく中、わたしという名の星は一つしかない。
 それはどんなにちっぽけで微かな存在でも、確かに光を放っている!」




顔を上げる。
高い木と木の間から覗く、オレンジ色の空に向かって手を伸ばす。





「なぁんて・・・ね・・・、ふふっ。
 そんな大それたことじゃないんだけどね。
 ま、そんなパワーを補給したいというか、なんというか・・・。」

「わかる・・・気がするよ・・・。」





失くしかけている自分への自信。
ここは暖かいから。
水と木と、空に囲まれ包まれて



気持ちが、安らぐ。





「わたし、村ではチビ共の守りしてるんだけど、
 みんなヤケに鋭いのよね。
 事あるごとに、何かあったの?どうかしたの?って。
 すごい心配そうな顔するんだもの、こっちが悪いことしてるみたいじゃない。
 だったら、カラ元気でも元気出さなきゃな、ってね。」




ぱしゃっと水面を叩く。

緩やかに波紋が広がり、消えてゆく。




「どんなに傷を負っても、きっとこんなふうに時間が経つにつれ、
 消えてゆくものなのよね・・・。」



水に濡れた手を軽く振って、水滴を飛ばす。
また二、三粒水面に落ちて、小さな波紋を描いた。






「・・・失恋、しちゃったのよ。」







2001年12月14日(金) みんなありがとう&いままでお疲れさま俺

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