「俺はこの町で炎の技師をしている者なのだが、少し聞きたいことがある。」
そう呼び止められたのは、テラスへ向かう途中・・・草人を追っていたところだった。 真っ赤に燃え立つような髪の毛に、高貴な真紅の衣を身にまとう青年。 胸元を、まるで隠すかのように黄色い布を巻き付けて。
「癒しの寺院の炎が狙われているらしい。 君たちは外から来たのだろう? ここに来る前に、誰かあやしい人物を見かけなかったか?」
「あんた・・・。」
瑠璃の言葉に、核に目を留め、ふと表情を曇らせる。
その決定的な瞬間を、あたしは見逃しはしなかった。
だけど・・・
「草人ぐらいしか見ませんでしたよ。 その炎が狙われてるって・・・どうして狙うんですか?」 「さぁ・・・。警部も大げさだからな。 俺にも詳しいことはよくわからないんだ。 やっぱり、炎が狙われているというのはデマなんだろうな。 悪かったな、時間をとらせて。」 「いいえ。」
今はまだ、ハッキリさせない方がいいと思うから。 もう少し落ち着いてから話してみよう。
けど、そんなあたしの思考を受け付けない視線がすぐ後ろからひしひしと感じられる・・・ あの、い、イタイんですけど・・・
草人の行方を聞いて別れを告げた瞬間、やっぱりというかなんというか、 髪の毛をおもいっきり引っ張られた。
「いったあ!!なにすんのさ!」 「それはこっちのセリフだ!! オレはあのルーベンスってヤツに用事があったんだ! なんで勝手に完結して別れるんだ!?」 「あのね、いきなし聞いたって「ハイそうです」、なーんて言うわけないでしょお!!? もちっと様子見て、段階踏んでからの方が確実に決まってるでしょ!」 「うぐ・・・。」
この前も言ったような気がするけど、あたしは生まれてこの方口喧嘩で負けたことは一度もない。 ようやく静かになった瑠璃を引き連れて、テラスへ向かった。 瑠璃の非難(ていうかすねてる感じ)じみた視線と、彼の視線を背中にうけながら。
「ほらー!瑠璃がぐずぐずするから草人さんに逃げられたじゃんかー!!」 「オレのせいかよ!」
テラスについた瞬間、あたし達の脇を通り抜けて草人は出ていった。 相変わらず口喧嘩は絶えない。
そばにいた修道女によれば、彼(?)の葉に回虫ププが寄生してしまっているらしい。 草人の葉というのはやはり本物なので、徐々に食いちぎられていく。 そのせいで痛みを感じるのだという。 そして、それがあらゆる病に苦しむ人々に希望をもたらす万能薬になるとも。
「そういえば、ルーベンスさんも欲しがっていたかしら・・・?」
瑠璃とあたしは顔をお互いに見合わせた。 ルーベンスさんが万能薬を欲しがる? 何で? 瑠璃も同じコトを考えているらしい。
「・・・行ってみよっかぁー・・・。」
はぁ、と溜め息をつく。 それみろと、瑠璃は当たり前といった顔をする。 ああ、むかつく・・・。 だからどぉしても負けたくなかったんだけどなぁー・・・ こうなっては仕方がない。 回れ右をして、さっき彼がいたところを目指す。 瑠璃にせかされながら。
けれど、そこにはもう彼の姿はなかった。
奥の方には、途方もない歴史を刻み込む古い寺院が建っている。 もう主のいない場所。 彼女がいるところ。
一息、気付かれないようにそっと吐いて、足を進めた。
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