昼食をとりながら、耳を傾ける。
『帝国船沈没の真相は一体何だ?』
それに答えられる者は誰もおらず、ただ彼を落胆させるだけだった。 ただ、一つの光明。
『ザル魚ってのが持つ何かが、海で起こった出来事を映し出んだってよ!』
駆け足でレストランを後にするトーマを目で見送ったすぐ後、パスタを食べ終えたフォークを皿に置いた。
「も一回、ザル魚のトコに行ってみる?」 「ああ、そうだな。」
「有力な情報をつかみましてな? 沈没した帝国船と、ホテルの幽霊にまつわる事です。」
ホテルの入り口にさしかかった所で聞こえてきた声は、 良く聞き慣れていて、それでいて、どこかヘンな違和感があった。
「帝国船と・・・幽霊?」
二つの単語に反応し、そのまま警部の“協力”の申し出にトーマさんは素直に首を縦に振り、 二人そろってホテルに入っていく。 あたしは、首をよこに傾けたけど。
「どうしたんだ?」 「うーん・・・。警部ってさ、幽霊とか帝国船には無関心だったよね?」 「どっかで何かを耳にしたんじゃないか?」 「でもあの言葉遣いは・・・」
でも瑠璃はうんうん唸るあたしと、ホテルの入り口を交互に見てじれったそうに言った。
「考えるンなら一人で考えてろ。 オレは先に行く。」
なんたる冷たいお言葉・・・ しょおがないなぁ、と独りつぶやいて、さっさと歩く彼の背中を追った。
「俺は帝国兵士トーマだ。帝国船沈没の原因を調べてる。 なにか知らんか?」
ラウンジではすでに会話が始まっていた。 間に合ったみたい、と言えば、誰のせいだ、と冷たい眼差し。 そ、そんなに怒んなくたって・・・ 考え込むのはクセなんだから、しかたないじゃんか!!
とりあえず邪魔にならないよう、あたし達は隅っこの方へ移動した。
「ボクは何も知らないノね。なれなれしくしないでなノね。」
(やっぱムカツク、アイツ!一体何様なんだっての!!)
「君、君!大金持ちなんだってね。すごいねぇ。」 「・・・・・・」
(・・・やっぱヘンだよ・・・) (・・・またその話か?) (だって、警部って普段ヒトをおだてたりなんかしないんだよ!?) (聞き込みだからだろ?)
「ふふんっち。」 「なんでも、ものすごい宝石を相続したんでしょ?見せてくれないかなぁ?」
(やーっぱヘン!警部、どんなときでもヒトを“君”なんて呼ばないよ!) (・・・・・) (・・・ちょっと瑠璃、人の話聞いてる?)
「ど?しよっかな??」 「『青い瞳』っていうんでしょ?海で起きた出来事を全て映し出す、不思議な宝石・・・」
(もっしもーし、るーりくーん?) (・・・『青い瞳』、不思議な宝石・・・まさか・・・) (へ?)
「その宝石、見せてくれ!ひょっとしたら、帝国船が沈没した原因が・・・。」 「ヤだ。」
傍で聞いていたルヴァーンシュさんが、ため息をつく。
「私も見たいわ!『青い瞳』。」 「いいよv」
(この魚・・・/怒)
誇らしげに取り出されたその宝石は、蒼く美しく、誇り高く煌めいた。
「すごーいv」
と、同時に瑠璃の核もそれに共鳴するかのように煌めいた。
「やはり珠魅の核!」 「あ、瑠璃!!」
宝石の方へ無我夢中で走っていく。 あたしもいつものように彼の後を追う。 ただ、追いついてしまわないよう、常に彼の後を。
宝石に近づくと、それは今までにない煌めきを見せた。 なにかに、引き込まれていく。
『今回の我々の使命は、最強の火気兵器の入手である・・・』
誰の声・・・? トーマさん・・・にしては、いくらか声が若い。 ふ、と目を開けると、そこには身近にいた人の姿がない。 もちろん、瑠璃の姿も。 そして自分の身体すらも見えない。
あるのは意識だけだった。
目の前で織りなす悲しい出来事。 帝国船沈没の原因。 だけど、それは故意のものではないことぐらい、言われなくたってわかる。 だって、あれは・・・ 『海の魔女』なんかじゃない、ただの心優しい鳥乙女・・・エレだもん。
「そうか、海の魔女にやられたのか・・・」
だから違う・・・と言おうとしたその言葉を飲み込んだ。 いつの間にか現実に戻ってきている。
「なんだかかわいそう・・・」
突然、場の雰囲気が変わった。 今までとは違う、しかしどこか見知った気配・・・。
「ぎょぎょっ!!」
そこにいたのは、甲冑をまとったヒト・・・いや、人ではない。
「我々の死の真相を・・・青い瞳を・・・渡せっ!!」
すかざず瑠璃は反応し、剣を構える。 あたしは・・・
「帝国船の幽霊か!?・・・おい、リタ?」 「わ、わ・・・・わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 「ぅわ!!?」
全く思考回路が回っていなかった。 この目で幽霊にお目にかかるとは、思ってもいなかった。 怖い怖い怖い!!! もう見たくなんかない!!! ああ、涙出てきた・・・
気配は消えた。 青い瞳と共に。
そして、あたしの頭に何か、暖かいモノが触れた。
「オイ、もうダイジョウブだ。幽霊はいなくなった。」
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