女房様とお呼びっ!
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2002年06月22日(土) 電話でプレイ #4

『オトコなんて(中略)だよね・・・ね?センセイ?』



「センセイ」・・・初めて彼にこう呼びかけた時のことを、今でもよく憶えている。
やはり、こんな風に電話で責めて、予定通りに彼は興奮して、喘いで、絶叫して。
私も熱に浮かされたようになって、それなのに、脳味噌がバタバタと回転してて。
そうそう、こういう時って、正に思考回路が音を立てて駆動してる気がするの(笑

しかし、タガが外れた彼の貪欲は容赦がない。私の回路がショートしそうになる。
その時、不意に閃いてしまったのだ。意識の中に、「センセイ」という語彙が灯る。
けれど、その閃きに狼狽えもした。その呼称は禁句だ。彼の聖域を侵してしまう。
瞬時に凄い速度で葛藤が走る。とどめを刺すか、やり過ごすか。緊張で汗が出る。

・・・・・。

彼は、「センセイ」と呼ばれる職にあった。老いも若きもそう奉り、期待する位置。
聞き及ぶ彼の日常は苛烈だ。世襲としがらみが生む期待の中で、激務に追われる。
けれど、彼から愚痴めいた話は出てこない。明るく希望に満ちた話題に終始した。
そのステイタスを鼻にかけることも一切しない。謙虚で誠実な「センセイ」だった。

彼にとって、「センセイ」であることは存在意義を支える誇りだったのだと思う。
もちろん、それをひけらかしはしないけど、その職にある自信が彼を支えていた。
だから、彼の「センセイ」である部分を侵すことは、彼そのものを侵すことになる。
例え恋人であっても、SMの関係であっても、そこに触れてはならないはずだった。

・・・・・。

しかし結局、私は禁を犯すことを決断する。駆り立てられるように直感に従った。
それは、壊したがる私の欲望からか、壊されたがる彼の欲望からか。わからない。
恐らくは、機が熟したってことなんだろう。私達はその目的で結託したのだから。
意を決してトドメの一言を放った。自らの選択が生む結果に怯え、鳥肌が立った。



『オトコなんて(中略)だよね・・・ね?センセイ?』

「・・・ひぃぃっっ・・・」

『センセイも、馬鹿で淫乱で(中略)なんでしょう?ね?センセイ?』

「・・・あぁっ・・あぁぁぁ・・・」

『センセイってマゾの・・(笑)・・マゾの変態なんでしょう?センセイ?』

「・・・あ、あぁん・・や、やめてっ・・・」

『やめてって仰っても、そうなんでしょ?(笑)・・マゾで変態なセンセイ?(高笑)』

「・・・ひぃぃ・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」



受話器の向こうで、ゴメンナサイがリフレインする。イカれたレコードみたいに。
既に、言葉は言葉たる意味を持たず、そのリズムだけで彼の自我を飛ばしていく。
彼が壊れる音を聞きながら、私は暫し呆然となり。やがて満ちる安堵に息をつく。
気の済むまで飛んで、帰ってらっしゃい。段々と安らぐ彼の息遣いに耳を傾ける。



『ん・・・大丈夫?』

「・・・うん・・・ヨカッタ・・・ありがとう」



激しいプレイを終えた私達に穏やかな会話が戻り、おやすみの挨拶を交わしあう。


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