サッカー観戦日記

2024年06月29日(土) 信州ダービー J3松本山雅−長野パルセイロ探訪記

Jリーグは良くも悪くも成熟し、一定の型がある。ダービーマッチになれば公式が煽っていることもあって双方過剰というか憎悪にも似た感情が飛び交う。地元大阪でいえばガンバとセレッソは元来松下とヤンマーに敵対意識はなかったし、北摂と大阪南部も特段対立意識はなかったが、今ではすっかり仕上がり、敵対意識ごっこというより本気で相手を嫌う関係になっている。これは観客動員という意味では幸いだが、ビギナーには敷居が高く、サッカーの悪い面も出てしまう関係になっている。つまり会場までの往復の車内の空気は良いとは言えない。欧州のノリをJリーグに持ち込む古参サポーターがすべて悪いとは言わない。彼らがJリーグの隆盛に大きく貢献したのは確かだから。ただ時代の要請はファミリー層を含めて誰もが観戦を楽しめる、緩いエンタメ観戦文化である。フットボールを熱心に応援する文化ではなく、観戦もその一部に過ぎないような、食べて飲んでマスコットを愛でて場内の雰囲気を楽しむ時間を過ごすだけの新しい文化が求められている。そういう中でのダービーは双方プロレスごっこ以上の対立がない、チーム力以上に双方の地域へのリスペクトがある、平和的で誰もが来られるダービーが求められている。そしてそれが体現されていると言われているのが信州ダービー、つまり今期でいえばJ3松本山雅対長野パルセイロである。現在の長野県と言われる信州の地域は山々に阻まれ各地にそれなりに大きな町があり、かつては北信越リーグに様々なチームがあった。長野エルザ、松本山雅、茅野チェルシー、上田ジェンシャン、アンテロープといった面々である。その中からプロに収斂していき、Jリーグクラブにまで成長したのが松本山雅と長野パルセイロ(元長野エルザ)である。地獄の北信越と言われた、今のJクラブだらけだった時代の北信越リーグは観ていないが、長野県全盛時代だとか、YKK対北陸電力(後に合併してカターレ富山)だとかは観ている。その後福井のゲームにも足を運んでいる。で、長野県がプロは2クラブに収斂したのは都市にそれだけの力があったからだが、力があるのには理由がある。長野県の歴史、つまり長野市と松本市はもともと異なる県であり、善光寺の門前町の長野市と松本城の城下町の松本市では根本的に経済構造も気質も違い、つまり地政学的な対立が不可避と言えば過言だが、少なくとも対立構造がある。一方長野県はフットボールマッドな土地柄ではなかった。高校バスケは全国制覇経験があるが。高校サッカーでは昔松本県が丘高校が全国ベスト4経験があるが、県内が盛り上がったとも思えない。クラブジュニアユース選手権が長野県開催の時代も会場はのどかだった。Jリーグでも後発である。そういう意味で長野県のフットボールファンは良くも悪くも「初心」であり、未見だったダービーマッチもピュアなフットボール熱に満ちた雰囲気ではないかと予想した。

さて前置きが長くなった。というか前置きを書くのが楽しくてこの部分がむしろ主かもしれないが。さて、大阪から松本に向かうのに高速バスを選択する。阪急観光バスで約6時間。阪急バスは今は阪急観光バスという会社が高速バスを運営している。大阪・松本間は400キロ弱。これを一人の運転士が休憩を挟みながら運行する。梅田三番街の阪急梅田駅下から8時に出発し、新御堂筋を千里中央までゆっくり行き、吹田から名神に入る。ここまで1時間くらいかかる。そしてまっすぐ東に向かい、多賀大社のある多賀サービスエリアで休憩。近江牛串1800円です!とか言われて安い牛串700円にした。そして小牧から中央道に入り、途中渋滞もあったが、岐阜県の恵那で2回目の休憩。そして岡谷付近で再び渋滞して松本バスターミナルには30分以上遅れて到着。14時20分くらい。そして会場のサンプロアルウィン(松本アルウィン)への無料シャトルバスも松本バスターミナルから出るが、待機列が長い。30分近く待って乗車。観光バスを使っている。着いたのが15時30分くらい。キックオフが16時からなのでスタグルを回る余裕はない。バック側の駐車場に着き、軽い傾斜を登っていく。松本サポと長野サポが静かに登っていく。家族連れも多い。やはり平和なダービーだ。殺気は一切ない。バック中央の4千円の席に着席してキックオフで双方の布陣を確認して、松本山雅のゴール裏が超満員で緑で盛り上がり、一方長野のオレンジは逆のゴール裏半分弱に詰められてイマイチ盛り上がってないように見えた。でそれから海賊焼きを食べて様相を見る。ここでは試合内容そのものにはほぼ触れない。ただ今期もあまりにもJリーグの生観戦が少なくて普段見るのが高校生とかなのでレベルの高さに唖然とする。ダービーらしくデュエルの強度はアマチュアを圧倒している。技術的にも高い。大学サッカーサイドの発信として、J2黎明期は大学サッカーの方がJ2よりレベルが高いというものがあり、今は流石にそれはなくなったのだが、代わりにJ3よりもレベルが高いと言っている。根拠はそれなりにある。曰く大卒選手がしばしば即J2でレギュラーを取るだとか、天皇杯予選でしばしばJ3を破るとかである。様々な見方があり、一理あるが、私はこれには同意しない。まず天皇杯予選についてはJ3はメンバーを落としている。メンバーを落としたといっても出ている選手はプロだろうという意見はあるが、連携面では大きく落ちる。フットボールはチームスポーツであり、個人の足し算ではない。控えはチームを組んでいるわけではないから、たとえばFC大阪の天皇杯チームは大阪の大学サッカーと連携面では比べるべくもない。そして大卒がしばしばJ2で則ポジションを取るという話だが、これはJ3からの移籍選手にも言えることだ。大学サッカーはポストユースと言われる。18歳でプロになれない逸材を育てる機関とされる。その中でもトップオブトップの明治大や筑波大ならば配信を観る限り確かに一部の崩れたJ3よりは強い。しかし機能しているJ3、つまりこの日の松本山雅や長野パルセイロよりは弱いと思う。もちろん主観だ。しかしそれなりの観戦キャリアがあり、しかも特定のジャンル贔屓でもなく、いや大学サッカー贔屓だが、少なくとも観る目が偏るタイプではない人間としての一主張だ。さて、ゴール裏からは罵声があまり聞こえてこない。間違いなく熱気はあり、声も出ているが、スタジアムは一体化はしておらず、メインやバックと棲み分けできている。バックの観客は温厚だ。グッズ、特にこの日は暑かったのでタオルは纏っていたが、ユニフォームは少なく、平和的だと思った。なんというか普通にエンタメを楽しむお客様。スタグルを楽しむ人の多さも、やはりゴール裏の熱気にあてられていない、平和なエンタメという印象だ。若い人が多く、家族連れも見かける。普通に食べておしゃべりして観戦を楽しんでいる。ゴール裏の熱気は「ピュアなダービー」から「普通のダービー」に移行しつつあるのかな?とは思うが、何せダービーマッチの成長史というものを実体験で知らないのでよくわからない。長野サポはさほど熱気を感じないが、単に私の席からは遠くて人数も少ないせいかもしれない。ハーフタイムに抜け出すと、トイレが足りない感じはあったが、スタグルの列がまた長い。松本山雅ビールなる、何かを入れて緑になったビールを買ったが、色が面白いだけで苦くて美味しくなかった。ビール通ならいろいろ形容できるのだが、シンプルに苦いものが駄目な私は表現に乏しい。とても後半開始までにスタグルは買えない。というかそういう客が多いあたりも「緩いダービー」だ。ケバブを買ってゆっくりスタンドへ。スタグルを満喫するつもりだったが、思った以上に人が多く断念した。それと試合後に信州そばも食べるし。さて観戦ノートをフォメ以外は取っていないが、レベルの高さに唖然としたまま進む。ただチケットが高いので、松本付近のお金のないファンは松本山雅ユースを観た方がいいかもしれない。たぶん松本山雅のトップチームに比べれば、松本大学や近くの高校サッカーは何もかも落ちるし、特にエンタメ性は格段に落ちるが、松本山雅ユースは技術を追求し戦術的意図もしっかりしているので、無料で観られるゲームとしては最上級のものになる。この日の観客数は1万4千人を超えた。
さて試合が終わって撤退だ。シャトルバスで再びバスターミナルに向かう。なかなか長蛇の列で、駐車場に観光バスが10数台待機していた。40分ほどかかって乗車してバスターミナルへ。駅ビルのお高い蕎麦にありつき、てんぷらをたっぷり食べてバスターミナルで夜行バスを待つ。コロナ禍では一切飲み屋には行っていない。今回終始ソロ活動であった。というかソロ活動増えたな。22時半の夜行バスで帰阪するが、年齢的にしんどかった。無理して特急しなのと新幹線で帰れば良かった。数日ダメージが出た。

さて信州ダービーは夢のダービーというより現実にシフトしつつあるのかな?という印象。今のうちに行った方がいい。ただ、どうやら長野ホームの信州ダービーのほうがむしろ夢のダービーに近いのでは?と思わせる程度には長野パルセイロサポは温厚だった。またの機会に今度は南長野に行きたい。こけら落とししか行ったことがないので。


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T.K. [MAIL]