サッカー観戦日記

2015年02月22日(日) 雑文・大阪フットボール映画祭2015感想

世界中で盛んに行われている唯一のスポーツ・サッカーを題材にした映画もまた世界中で作られている。しかし日本ではなかなか観られる機会が少ない。そんな中、有志が集まって一種の上映会として横浜フットボール映画祭が2011年開催され、好評を博した。そこで2015年からは全国ツアーが企画された。その一環が大阪フットボール映画祭である。熱心なサッカーファンのための企画なので、Jリーグのオフシーズン開催である。しかし私レベルのサッカー何でも屋にとって、オフシーズンなど存在しない。観に行くには何かを捨てる必要がある。今回京都府高校新人戦男女決勝やU−15日本代表の対G大阪ユース、C大阪ユース戦が重なっていた。涙をのんで捨てるしかなかった。私は年に10回は映画に行く映画ファンでもあるので、面白いサッカー映画を見る機会を捨てたくなかった。一日券を買い、8時間4作品を観る

1本目『旅するボール』&2本目『ガルーダ19』
『旅するボール』は東日本大震災で多くのものを失った元サッカー少年の父親と、彼を見守る娘と母親。娘は父親がサッカー引退時に仲間に寄せ書きされたサッカーボールを津波で失ったことから、新しいボールにかつての仲間に寄せ書きしてもらい、誕生日にプレゼントし、ベガルタ仙台の試合を一緒に観ようとした。色々と葛藤があることを知りながらも、仙台スタジアムでかつての仲間と一緒に父親を待ち、無職なのにサッカーなんか観られないという父親を説き伏せた母親に送り出された父親も現れ、無事ボールをプレゼントし、C大阪をホームに迎えたベガルタが熱いゲームを繰り広げる。

非常時からの復興時においても、サッカーのある日常を描いた小品。この映画祭の後援はC大阪なので、ベガルタの対戦相手がC大阪だったときは場内受けた。父親のかつての仲間がスカパーのJリーグ番組の平畠さんというのもポイント。当然ながら、無職で妻のパートで生活している責任感の強い夫が、サッカーを楽しんではならないわけではない。むしろサッカーで元気を取り戻してほしい。そういう愛情に包まれた作品。

『ガルーダ19』はU−19インドネシア代表を描いた作品。インドネシアの全土各島々の散らばるサッカー少年たち。彼らはいつかスーパースターになる夢を持っていた。そのためにはインドネシアの象徴。神鳥ガルーダを模したU−19インドネシア代表に選ばれることが念願だった。代表スタッフは激論を繰り返しながらも熱いハートで任務に没頭するが、協会の育成に対する無理解に悩まされる。それでも県選抜の試合や訪ねた先でたまたま観た試合などを元に代表選手を選んでいく。少ない給料の中から飛行機代をねん出したものの、嵐のため県選抜が会場に来られず、一日遅れになるため、帰るしかないと思われた時も、熱いハートで飛行機チケットを破り捨てる。そうして手弁当で国中を探して集めたU−19インドネシア代表。しかし過酷な現実が待っていた。A代表ばかり優先させる協会。練習会場も確保できず、ホテル代すら払えず、安いホテルに移動しても食費すら出ない。ジャカルタにいても仕方ないことから、バスで遠征して強化試合を図ろうとするが、ガソリン代などの遠征費用は監督が子供のために貯めた教育費を取り崩してのものとなる。運転手の給料も半年出ておらず、イライラが募る。そして遠征先でホテルにも入れずモスクに泊まるが、ムスリムではないために入ることを躊躇する選手も。過酷な遠征でバスも故障してヒッチハイクすることまで……。そうして強化に成功したU−19インドネシア代表はU−19東南アジア選手権でPK戦の末優勝する。そして夢のU−20W杯に向けて挑んだU−19アジア選手権最終戦。韓国に挑んだU−19インドネシア代表。苦戦の末、ついに逆転する。はるかなるW杯への道……。

ユースウォッチャーとしていろいろ思うことがある。最近のサッカーファンはアジアを舐めていて、日本が勝てないと、日本の状況中心に問題を考え、単純に対戦相手が強いということを忘れがちだ。私の年代のサッカーファンなら、五輪予選でタイのピヤポンにハットトリックを喫して惨敗した試合を覚えているはずだ。もともと東南アジアはレベルが高いし、しかも近年は国が経済力をつけて、プロリーグも発展している。日本が東南アジアに対して強かったのは一時的なものなのかもしれないのだ。そして日本国内だけでも逸材はどこに眠っているか分からない。加藤久氏が強化委員長時代にナショナルトレセンなどのトレセン改革を行い、単なる選抜チームの試合とそのための練習会から、練習主体で世界基準の指導を日本の隅々まで徹底し、逆に日本の隅々からタレントを発掘する制度を作り上げた。制度としては問題ない。しかしそのことによって、情熱的に逸材を見つけるんだ、という熱さを失ったのではないか?近年個性派が減った代表を、育成が進んでいるというべきか?ラストの架空の試合。インドネシアはヤベズやラルといった冒頭から出てくる地方からの発掘組に加え、スター選手らの個性が噛み合って韓国を圧倒する。よくBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)とかVISTA(ヴェトナム・インドネシア・南アフリカ・トルコ・アルゼンチン)といった経済新興国を表す言葉があるが、インドネシアは世界第4位の人口と、経済力を有した上にサッカーに熱狂的な国だ。強くなる条件は満たしている。協会が予算を割いてくれれば、と思う。
U−19インドネシア代表内でハンサムなのがレアルマドリード派で、そうでないのがバルセロナ派というのは分かる気がする(笑)。


『クラス・オブ・92』
マンチェスター・ユナイテッド(以下マンU)のユースから92年にトップに昇格した6人組(ギグス、スコールズ、ベッカム、ガリー&フィリップ・ネヴィル兄弟、バット)がお互いに対するコメントを交えた硬派のドキュメント。サー・マット・バスビーはユース強化に力を入れて、いわゆるバスビー・ベイブスを育てた。同様にサー・アレックス・ファーガソンも育成に力を注ぎ、「ファギーズ・フレジリンクス(ファーガソンのひな鳥)」を育て上げた。インスやカンチェルスキスらが退団した年、ビッグネームを補強するかと思われたが、ファーガソンはユースからの昇格を選んだ。元々800万人いたマンチェスターの周辺人口にスカウトが2人しかいなかったのをすぐに増やし、マンチェスター以外からも逸材を集め、その逸材がライバル意識と仲間意識を共存させ、互いに高めあって成長していく。そして99年、ついにプレミアリーグ、FAカップ、チャンピオンズリーグの三冠を達成する。

身もふたもない率直なコメントが素晴らしい。特にスコールズが実は笑いのとれるキャラクターで、天才肌かつダーティな、サッカーさえしていればいいというところが笑った。ファーガソンは人生訓ばかり話していたそうだが、渡り鳥は編隊を組んでお互いに助け合って6400kmも飛ぶ。ベッカムがW杯でシメオネに愚かな報復をして退場になってイングランドが負けたため、国中からバッシングを受けたときも、クラブ全体で守るという姿勢は見事だった。JFAはアギーレ前代表監督を守る硬派な姿勢を少しでも見せただろうか?バットがシュマイケルにしたイタズラはあんまりだ(笑)。ひどい話なんだけど爆笑を誘った。


『メッシ』
メッシの少年時代からの成長を、貴重な映像や幼馴染とか教師の話を交え、再現ドラマ付きで描いた作品。メッシは幼いころから才能があったものの、低身長症があり、毎日成長ホルモンを注射する必要があった。親が失業すると治療費が払えなくなり、地元ロサリオのクラブだけでなく、リーベルすら払えない。そこでバルサのトライアウトを受け、バルサ幹部も悩みながらも最終的にレシャックの目に留まり、契約する。そして父親だけバルセロナにとどまり、母親と兄弟はロサリオに戻る生活を余儀なくされる。メッシは過酷な経験から、成功への意欲が人一倍強く、また生来の謙虚さとシャイな性格も相まって、周囲に恵まれ、ステップアップしていく。シャイな性格は幼馴染と結婚することからもわかる。そして若手を重視するライカールトや親しみやすいロナウジーニョという理解者に恵まれ、トップで活躍を始め、そこで数年たつとロナウジーニョが退団し、強制的にメッシ中心のチーム作りを行い、リーダーにさせられ、現在の地位を築く。偽9番というポジションを与えられ、メッシ・システムの中、シャビやイニエスタといった感性の近い選手たちとともにプレーし、世界最高の選手となる。そしてマラドーナと比較され、アルゼンチン代表では批判される日々。しかしついに代表でも認められ始めるのだった。

これも硬派のドキュメント。私は16歳のメッシを豊田国際ユースで見て、06年にもカンプノウで観ているので思い入れはある。メッシ本人もそうだが、幼少時を知っている人たちが、それぞれサッカーに自分なりの意見・主張があり、それをサベージャやクライフ相手でも遠慮なくぶつけている点だ。これが国民レベルでサッカーが浸透しているということか。普通の日本国民で代表監督にも遠慮なく自分の意見を言える人がどの程度いるだろうか?いないところでならいくらでも言える。しかし確固たるサッカー観がないから、代表監督本人の前では言えないのだ。周囲の人たちはメッシびいき過ぎるが……。そして常にあるマラドーナとの比較論。サベージャは頑なに比較を拒否していた。プロだ。クライフもそうだ。サッカー史上最高の選手としていつも候補に挙がるのは、故ディ・ステファノ、ペレ、クライフ、マラドーナだ。今ではメッシもこれに加わったとみていいだろう。古いひとほど古い選手を史上最高に挙げる。レシャックはペレをマラドーナより上だと言っていたが、年齢的なものだろう。私もメッシをマラドーナと同等の選手と認めるには時間がかかった。マラドーナ直撃世代なので。これを絶えずぶつけられるメッシのプレッシャーは大変だと思う。そしてこういう硬派なドキュメントが成立するスペインの豊かさも。


最後に。この映画祭では不手際もあったし、場内ではお茶も飲めない環境だった。金をとる以上プロとしての運営を求める向きもあるだろう。しかしユース年代を観る私にとってはたとえ有料でも「観させていただいている」立場ということを理解しているつもりだ。私は「お客様」ではないし、ましてや「お客様は神様」なんて微塵も思っていない。いいところだけを感謝して、来年以降も続くイベントになれば、と思う。


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T.K. [MAIL]