2009年08月20日(木) |
雑文・Jクラブの女子チームを核とした育成 |
以下の文章はなでしこリーグ公式サイトの論文募集に応募して掲載されたものを一部直したものです。女子サッカーの発展について考えています。
Jクラブの女子チームを核とした育成
08年度の男子の高校選手権で、広島皆実が優勝した。サンフレッチェ広島ジュニアユースなど、県内3箇所の下部組織出身者で広島ユースに昇格できなかった選手を軸としている。06年度の高校総体は広島観音が制している。つまり、広島の高校サッカー界はサンフレッチェの下部組織やその影響を受けた街クラブによって、一定のレベルに育てられた選手たちが、広島県内の一つの高校だけに集中せず、自分にあった高校を選び、それでいて高校の全国大会で優勝を狙える複数の高校を出し、それが広島ユース等と揉まれながら成長し、高校で結果を出し、その上でJリーグだけでなく、大学など上のカテゴリーに人材を送り込んでいるのだ。サッカーの育成というものはチーム単独で行えるものではない。青森山田のように、金をかけて遠征を繰り返すか、あるいは地元の同等のライバルに揉まれて経験を積まない限り、実戦的な強さは身につかないのだ。ちょうど地域の病院群が相互に連携して、自分が担当する専門領域に患者を招き入れ、医療成果を上げているようなものだ。選手育成には地域が連携しなければ成果は上がらないだろう。
男子と比べて著しく競技環境の落ちる女子だが、代表は各カテゴリーで素晴らしい成果を上げている。今年の世界大会は、北京オリンピック4位を筆頭に、U−17、U−20でもベスト8進出、特にU−17は岩渕真奈選手が大会最優秀賞を獲得。2015年までに日本をFIFAランキング5位に押し上げるという「なでしこvision」も十分可能にみえてくるように思える。しかし世界のレベルアップも早い。男子のチャンピオンズリーグに当たる「UEFA Women's Cup」ではかつては北欧勢とドイツの独壇場だったのが、最近はイングランド・イタリア・フランスなど男子サッカー強国が重い腰を挙げ強化に乗り出し、着々と成果を上げているのだ。急速に進化しているのはヨーロッパだけではない。進化する世界の中でFIFAランキング5位というのは、このままでは極めて困難な目標だ。
女子の高校・大学・全日本選手権といった大会に足を運んでみると、高校の充実が目に付く。次々に新興高が現れ、様々な個性を持ったチームが切磋琢磨している。日本サッカー界のホットスポットといっても過言ではない。ほとんどの地域で大学と互角以上に渡り合っている。一方で中学生はまだまだサッカーをプレー出来る環境が少なく、小学生までは男子に混じっていた選手たちもサッカーを断念しなければならないケースが多い。また本格的に活動している大学チームや社会人チームも少なく、国体成年女子の予選では大差のゲームが多い。
JFAの犬飼会長がJクラブに対し、女子チームの保有を要請するという。実現し、地域と連動すれば、素晴らしい成果を生むかもしれない。Jクラブは成人用の「レディース」とU−18の「ガールズ」を両方持ってもらいたい。何も自らハードルを高くする必要はない。学校の土のグラウンドを借りての練習でいいのだ。指導者もプロではなく、地元の情熱のある方にお願いすればいいのだ。「レディース」に年間20万円ほどの援助があれば、万々歳だ。Jクラブの地元での信頼性を最大限に活かして人材を集めたい。必ずしもなでしこリーグを目指す必要はない。「県選抜」にも似たチームを作り、県内トップ選手たちに刺激を与えられればそれでよい。そこでさらに力を伸ばした選手はなでしこリーグのクラブに移籍するだろう。「ガールズ」は中学生の受け入れを積極的に行い、さまざまな経験を積ませて、地元高校に選手を送り出しつつ、残った選手たちで、近い将来創設されるであろう「女子クラブユース(U−18)選手権」を目指せばよい。また高校とクラブが切磋琢磨することで、実戦的な強さも身につくことが期待できる。
今回のJクラブへの女子チーム保有要請は、金をかけずに女子のレベルを上げるいいアイディアだ。元々各県協会はレベルの高い女子チームを作り、プレイヤーの便宜を図る義務があると思っていた。それには地元との連動は不可欠だが、Jクラブ側に「地元への貢献」意識があれば、決してハードルの高いものではない。ぜひJクラブは前向きに検討してもらいたい。
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