2003年12月07日(日) |
天皇杯2回戦 阪南大−市船 |
天皇杯2回戦では大学シード(総理大臣杯準優勝)と2種シード(全日本ユース優勝)が対戦することになっている。そして意外にも過去何度も高校生が大学生を破っている。今回は阪南大と市船が対決するわけだが両チームの実力差は歴然としており、大学サッカーではなく天皇杯での優勝を目標に掲げる阪南大の3回戦に向けての調整試合として長居へ足を運ぶ。
私の知る限りでは強くなってからの阪南大は公式戦で2種チームに負けたことはない。今回はシードでの出場だが、天皇杯予選では夏合宿の疲れを引きずるコンディション下で毎年高校生を寄せ付けず完勝している。一方の市船は高校生離れしたチームで1回戦ではザスパ草津を破る番狂わせを演じている。ただ天皇杯予選で近年の実績で阪南大より落ちる順大に勝ったことはなく、順大がシードに回った前回出場時には駒大に一方的にパスを回されて敗れた。
阪南大は今期公式戦2敗のみ。関西学生リーグで関西大の守備に沈んだゲームと、消化試合で甲南大に敗れたのみである。全国大会でもPK戦負けはあるものの、ゲームでの負けはない。市船が今期対戦する中では最弱チームのひとつであることは間違いない。
天皇杯2回戦 阪南大−市立船橋高 12月7日(日)長居第2 13時 ピッチ並 晴 並風
阪南大 市船 −−−安部−−奥本−−− −−−−−田中−−−−− −−−−−−−−−−−− −−−高橋−−可憐−−− −梁−加納−−松岡−大西 −根本−−鈴木−−猪股− 旗手−−南−−深谷−大杉 上田−石井−−渡邉−中村 −−−−−梅村−−−−− −−−−−佐藤−−−−−
阪南大はRHに永末ではなく大西を起用。ほぼベストチーム。中盤・最終ラインともフラットで全体に高く押し上げる。梅村は反応に優れたタイプ。元京都の南と京都の特別指定選手の深谷のCBコンビは関西最強で、より強靭な深谷がストッパー・タイプ。ともにフィードあり。加納も左足のフィード・FKあり。梁はドリブルからの多彩なプレーやゴール前での決定力を誇るエース。大西は快速。FWはスペースへの積極的な飛び出しが持ち味。平均身長173.3cmと小柄だが俊敏な選手が多い。
市船はコンディション不良で主将のCB増嶋(U−18代表)が欠場。石井をCBで起用しその関係でSBが入れ替わっている。渡邉(U−17代表)は空中戦に強い。中盤より前はザスパ草津戦と同じ形。中盤は1ボランチでSHが開いている。本来トップ下得意の鈴木(U−18代表候補)は無類のスタミナでピッチ全体をカバー。SHは猪股がよりサイド攻撃の意識が強い。根本はやや守備的。高橋とカレン(U−18代表)も守備意識が高く、SHが上がった部分をフォローし、鈴木を孤立させない。田中が1トップ。平均身長175.7cm
前半は阪南大が風上。集中力がないままなんとなくゲームに入った阪南大陣内に市船がいきなり攻め込みCK2本。阪南大は後方でパスミスを連発する。5分カレンが右クロス、加納が跳ね返すが、根本がワントラップシュート、梅村セーブ。決定機。直後に阪南大も大西を追い越した大杉から左の安部に入れ、シュートもGK佐藤好セーブ。決定機。市船はFWが激しいフォアチェックを仕掛け最終ラインも高く押し上げるリスキーなスタイルで阪南は中盤で全くスペースを与えられない。阪南大もフォアチェックこそ市船よりは甘いものの押し上げ、40m前後の狭いエリアでの力比べとなった。関西学生リーグでは阪南大−桃山大戦くらいでしかお目にかかれない展開である。この状況で市船は鈴木を中心に早く正確なショートパスで阪南大の寄せを外しFWがよく動いてそこにボールが収まりいい攻撃を見せる。一方阪南大は松岡・加納がパスミスを連発して再三奪われるなど不調で、また深谷・南にも市船はきっちりチェックにいきロングフィードも出ない。そもそも攻撃時に深谷も南もいったん下がって低いプレッシャー下でボールをもらう動きを怠り後方でのパス回しに余裕がない。FWやSHはラインの裏に走りボールを引き出す動きも、味方のためにスペースを作る動きも怠り、市船の前でのパス回しに終始する。がパワーに欠ける阪南大は市船の当たりに耐え切れずしばしばカットされる。風上チームがラインを押し上げる相手(しかもラインコントロールは甘い)と対する場合の鉄則である裏を狙う攻めがなく、しかも普段できるプレーができなかったり、怠ったりする以上ペースを握れないのも当然である。14分市船の左FK鈴木のボールをニアで渡邉がヘッドで合わせて流し込み市船先制。マーカーは多分深谷だった。市船は得点が早すぎたな、これで阪南大が本気になるな、と思った。が、阪南大は変わらない。15分、阪南大の攻めを跳ね返し市船カウンター、旗手のチャージを田中が逆にふっ飛ばし中へドリブル、南を引き付けてカレンへパス、深谷が寄せる前にシュートもGK梅村正面。決定機3。24分田中にクサビが入り、南のやや遅くて甘い寄せをみてトラップで反転して南をかわしてシュート。26分阪南大・旗手のパスを安部巧みなトラップで猪股をかわして前へ、クロスは市船CKに逃げる。この日はクロスの精度まで悪い阪南大初のクロスらしいクロス。梁の左CKは高さ・パワーに優る市船が跳ね返す。27分、市船は阪南大・梁から3人がかりでカットするも油断し(この日の阪南大はとにかく淡白だ)梁がすぐに奪い返す。32分、阪南大・深谷のスライディングタックルに対し警告。危険という判断か?この日の主審は接触プレーやタックルに敏感で阪南大に不利に働いた。相変わらずスペースにボールを出さないものの30分過ぎから阪南大は足元パスだけでなく、安部の頭にふわりとしたボールを入れ始める。しかし安部(174cm)は渡邉(180cm)に空中戦で完敗し有効な攻撃とならない。35分、梁から大西へいいサイドチェンジ、大西のパスは安部に通らず。38分阪南大FKで梁が正面フリーの大杉に出すが市船すぐ寄せてシュートならず。39分、阪南大右CK、加納のボールをニアより正面の大杉ヘッドで狙うが市船跳ね返す。そのボールを安部オーバーヘッドもGK佐藤の正面。決定機2。41分裏のスペースで受けた市船・田中が中へドリブルから左足シュート、外れる。42分、右CKで加納のボールはGK佐藤の正面に飛び難なくキャッチ。佐藤はゆっくりパントキックに移ろうとするが安部が妨害して警告。前半は0−1で終了。
ハーフタイムにはウサギとカメの童話が頭に浮かんだ。阪南大は前半チーム全体がサボっていた。DF陣はこまめに動かず市船FWにも寄せずに起点を作られ、攻撃時にはパスを受ける動きを怠る。MFはパスミスこそその日の調子の問題かもしれないが、運動量不足で守備は後手後手に回り一発でかわされるシーンが多い。FWもまるでスペースで受ける意識もスペースを作る意識もない。これでは市船もスタミナを消耗せず楽な展開である。ハーフタイムで阪南大・須佐監督はおそらく選手たちのプレーに渇を入れたはずだが・・・・・・。基本的に阪南大は無名選手が集まった雑草チームで、足元パスを連発するタイプではないのだ。
一方の市船は全員がサボらず実に頑張っている。GK佐藤はキックの精度はイマイチだったが、キック力があり、反応もよくゴールエリア内では頼りになる。急造バックラインは大胆な押し上げを続け、渡邉は素晴しい出足と空中戦で安部を完封。鈴木はミスらしいミスがなく確実にボールを繋ぎ、豊富な運動量を武器に一人で中盤の穴を埋めていた。(もちろん他の選手の守備意識あってのことだが)前半のMVP。猪股・根本はなかなかサイドを崩せないものの守備で奮闘。3トップの運動量は鈴木に次ぐものでフォアチェック、中盤のカバー、スペースへのマメなランニングと大したものだ。渡邉・鈴木・カレンという能力の高い選手を上手く活かした組織もいい。
ハーフタイムでの交代はなし。阪南大はいきなり大西が裏を取りクロス、市船CKへ逃げる。加納のキックをDFがゴールラインに逃げた再CKを佐藤キャッチ。佐藤は派手さはないもののミスが少ない堅実ないいGK。直後にはGK佐藤が前に出ているのを見て南がハーフ付近からループシュートがバー下ギリギリに飛ぶが佐藤戻り防ぐ。決定機?1。2分、阪南大RB大杉が右サイド深くまで上がって受け、奥本へ流してクロスを安部ヘッドはGK佐藤キャッチ。決定機2。阪南大の勢いを見て市船GK佐藤は3分にしてゆっくり時間を稼ぎながらのプレー。ロングキックが風に乗って大きく伸び、深谷がペナ少し外、頭で跳ね返したボールはクリアミス、田中が思い切ったダイレクトボレー、上に外れる。5分、大西が裏を取りフリーでクロスもミスキック。風下に回った阪南大は市船ラインの裏を突く本来のサッカーを開始。深谷・南も下がって受ける動きをサボらず後方でボールが回りだす。市船フォアチェックをかわし、CBがスルスルと持ち上がり、その間に阪南大は各選手がパスコースを作るいつもの動きを始め、完全に阪南大ペースとなる。9分、大西のクロスはファーに流れるが、LB旗手が拾いクロス、梁のヘッドは右に外れる。11分、DFラインの裏を取った安部の絶妙なスルーパスが通り、右足アウトでのシュートは右に外れる。決定機3。14分、市船カレンの右クロスは阪南大に頭で跳ね返されるが鈴木思い切った左足シュート、上に外れる。16分、加納のクロスを奥本ヘッドで落とし安部が詰めるが届かず。17分阪南大右深いところのスローインでマーカーを外した選手がペナに入るところを倒されFK。警告はなし。加納のキックはファーの深谷へ、GK佐藤が飛び出し激突、ヘッドは上に外れる。決定機4。阪南大はピッチを幅広く使いサイドチェンジを繰り返し市船を揺さぶる。市船はSBがスピード勝負で苦戦し、上田・根本の左は大西・大杉の阪南大右サイドに再三破られる。22分、梁の左クロスを市船クリア、大西ダイレクトボレーは外れる。23分、大西から大杉クロスもGKキャッチ。24分、阪南大がサイドチェンジを4回繰り返してから左を破り旗手クロスもミス、GK佐藤キャッチ。27分、阪南大・安部→尾花。機動力のある小柄なストライカーで決定力に賭けた起用か?市船も1トップ田中→壽。28分、大西タテ突破でCKをとる。31分、左の梁から尾花→奥本へ渡るがシュートは佐藤キャッチ。決定機5。32分、大杉が右深くまで侵入、石井のタックルをかわしゴールライン近くを中に切れ込み後方に戻し松岡シュート、これも佐藤セーブ。決定機6。34分、大西の右クロスが奥本へ、目の前があいている状態でシュートも右に外れる。決定機7。35分市船・高橋→米田。前からしっかりボールを追う。37分、市船の選手が足を攣る。阪南大の猛攻が続く42分、市船カウンターからカレンに絶妙なパスが通りGK梅村と1対1梅村が脇下シュートを止める。決定機1。444分、阪南大右からのスルーパスに上がっていた南がファーでシュートも外れる。決定機8。ロスタイムは長かったがついに阪南大は得点できず、市船は2戦連続の大番狂わせを演じた。
NHKによるとシュート数14対10、CK7対3。
阪南大は後半はベストを尽くし、決定機8と相手を崩している。無得点で終わったのは不運による部分が大きく、「これがサッカーさ」で片付けても仕方がないかもしれない。しかし前半から自分たちのサッカーをする努力をしていれば、市船は最後まで持たなかったはずだし、こんな悔いの残るゲームでシーズンを終わることもなかった。この日のパスミス連発・決定力不足・不利なジャッジは仕方がないとしても前半の全員でのサボりはあんまりだ。今後の反面教師的な題材としてずっと語り継がれるべきゲームだと思う。実力的には5点差以上の差はあったが、サッカーにはこういうこともある。
市船はバックラインの連携がやはり悪く、裏を再三狙われてしまった。もう少しGK佐藤も前に出てもいいと思う。選手権では無難な守備をするとは思うが。鈴木はほとんどミスがなくボランチとしてもなかなか良い選手だ。増嶋ばかりスポットライトを浴びているがCBを組む渡邉ももっと注目してみてみよう。
|