- different corner -
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その日は雨だった。
打ち合わせから帰ってくると、家の近くに猫がいた。 近くの建物で雨宿りしていたようだけど、 私を見ると軒下から出てきた。 薄暗かったせいか、彼女の白さが夜道に映えていた。
猫は苦手だ。
嫌いなんじゃなくて、一度かまってしまうと なかなか離れられないから、できるだけ避けているのだ。
猫は、私の目の前にくるとこちらをじっと見上げた。 私がよけて歩こうとすると、そちらの方向に歩いてきて 足を止めた。
「おまえねえ……私に近寄ったって何もいいことないよ。 食べ物とか持ってないし」
そう言って反対側へいこうとすると、 猫は再び私の足の方向へ歩いてきて足を止めた。
どうやら、かまってあげないといけないらしい。 私は静かにその場にしゃがみ、 指先がかなり冷たかったので、両手をこすりあわせて 暖めてから左手でなでた。 右手はかさを持ったままだったので、 まるで彼女と相合傘しているみたいだった。
彼女の背中から腰、首の下やおなかにふれた。 少しぬれていたけど、ほんのり温かだった。
「おまえ、あたたかいねえ。。。」
猫が目を細めて気持ちよさそうなのを見て、 自分の表情が緩むのを感じた。
自分以外の誰かのぬくもり。
私がずっとほしかったもの。
猫をなでているうちに、暖かいものが 頬を伝うのに気づいた。
「なんだろうね、これ。変なの。。。」
なんで……
なんで、泣いてるの?
私はこらえきれず、声をあげて泣き始めた。
私の声は雨音にまぎれるほど小さかったから、 たぶん猫以外には聞こえなかったと思う。
その間、私の手はお留守になり、 猫はじっと私の様子を見ていた。
猫は私が泣き止むのを見ると、私のそばから離れていった。 まるで私が泣き止むまで待っていてくれたみたいだ。 私は猫の行った方向に「ありがとう」と言って その場を離れた。
何かをもらいにきたんじゃなくて、
与えにきてくれたんだね……
家に帰ると誰もいなかった。
よかった。ひどい顔を見られずにすむ。 早くシャワー浴びて寝よう。
久しぶりに心が温かくなったような気がした。 シャワーの熱よりも、左手から心へ伝わった温かさのほうが 長持ちしたような気がした。
ぬくもりがほしくなったら…… また猫捕まえてなでようかな。(笑)
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