『ショートストーリー』 略して『短い話』(略せてねぇ) どこまでもパラレルなんで、イロイロと本気にしたらアカン。 ついでに、長編とはカスリもしませんのでご注意ヨ☆←撲殺
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4月12日 俺の誕生日である。
とは言っても、自分的にはこの誕生日を特別嬉しいと思った事は一度も無い。 4月。言うまでも無く、進学の季節である。 入学式なり始業式なりがいつも誕生日の前後にやってくる。そうすると、学校などでは個人の誕生日どころではない。 見知った者も少ない教室。どこか全体的に余所余所しい空気。 大体、誰かと親しくなった頃にはとっくに誕生日が過ぎている。そんな、中途半端な時期。
まぁ、とはいえ元々冷めたガキで、付き合いのいい方ではないので、幾ら月日を重ねても、誕生日自体を尋ねられる事の方が珍しいのだが。
しかし、この年は違った。 いつものメーカーのTシャツに薄いジャケットを羽織っただけの格好で、俺は2005年の3月に卒業したばかりの、天香学園の正門前に立っていた。
何故自分は今ここに立っているのだろうかと思う。
ポケットから引きぬいた手には一枚のカード。 そこには可愛らしいが少し雑な字で、ご招待状と書かれていた。 見慣れた字。八千穂の字である。
『拝啓! 皆守 甲太郎殿! お誕生日おめでとうございます! というわけで、パーティを開くので、4月12日 AM11:00に天香学園内、マミーズにおいでくださいませ! 寝坊したりしたら、家まで押しかけるんだから! んじゃ、まってるからねー! やっちーより』
非常にイロイロと突っ込みたい文面である。 何が『というわけで』なのか。こっちの都合は全く無視なのか。大体なんで卒業した学校の食堂でパーティなのか。
このカードを見た瞬間、俺は卒業前に八千穂に家の住所を教えた事を心底後悔したのだが、よくよく考えれば、住所を教えなくても恐らくメールと携帯攻撃にあうだけだと思って、ちょっとだけ自分を慰めてみたりした。
兄に貰った卒業祝いの腕時計に視線を向ければAM10:45の表示。 遅刻の常習犯だった自分がこんなに早くたどり着いてるなんて、何か天変地異の前触れかと思われそうだ。いや、それよりも実はこのパーティとやらを楽しみにして来たなんて、間違っても思われたくないので、中には入らず学園から少し外れた場所にある公園に足を向けた。 小さな公園。あるのは、ジャングルジムと滑り台と砂場だけ。ベンチすらない。 仕方ないので、ジャングルジムに凭れて懐をまさぐる。 銀色のシガレットケースから慣れた手付きでアロマスティックを取り出すと、愛用の銀のパイプに挟み込む。 かちっとライターで火を灯せば、ラベンダーの香りが辺りに広がった。 嗅ぎ慣れた、でも高校時代に吸っていたのとは少しだけ違う、ラベンダーの香り。 卒業して数週間も経っていないというのに、もう懐かしく思える自分に小さく笑った。
(……そういえば、結局今日誰が来るんだ……?)
マミーズを利用しているという事は、恐らく阿門辺りが八千穂に協力したのだろう。 在校生で顔見知りといえば、念願の生徒会長になった眼鏡っ子の姿も思い出す。 保険医や担任、口うるさい用務員も居るだろうか。 後は、大体自分と一緒に卒業し、それぞれ地元に戻ったはずだから来れるはずが無いだろう。現在就職採用結果待ちの自分とは違って、全員何かしら進学やら就職やらしたはずなのだから。きっと新生活がスタートして忙しいはずだ。そんな忙しい中、時間を割いてまで来るほどの付き合いをした奴等がいるかと言えば、無い。
いや、一人だけ居ない訳ではないが、それこそ日本を飛び出してしまっているので捕まえる事など無理だろう。
そこまで考えて、俺はなんとも言えない苦笑を浮かべた。 何を否定的な事ばかりを考えているのだ、自分は。 まるで、期待で逸る気持ちを押さえつけ、後でがっかりしない為に自分で言い訳をよろって居るようにしか思えない。
丁度、アロマが燃え尽きた頃、時計の針はAM10:55を指していた。 そろそろ行けば丁度いいだろう。遅れたら八千穂に襲撃されるのだから少しだけ早歩きになる。
校門横の通用門をくぐる。 警備員に止められるかとも思ったが、向こうはどうやら俺の顔を知っていたらしい。阿門から何か話が行ってたのかもしれないが。 ともかく、軽い会釈までされて、俺は天香に戻って来た。
慣れた道を、なんだかこそば痒い気分で歩く。
マミーズの建物が見える。 どこか余所余所しく感じるのは、俺がもうここを出て行った者だからなのか。
淡い色ガラスと薄いカーテンで中の様子はわからない。 俺は、とりあえず咥えたままだったパイプをポケットに戻して、入り口のドアを明けた。
『はっぴーばーすでー!』
ずぱぱぱぱぱぱぱんっ! という激しいクラッカーの音。 まぁ、この辺までは予想はなんとなく出来たので、とりあえず俺は音量の大きさに目を瞬かせたものの、それほど驚く事は無かったのだが……
「……なんの仮装パーティだ?」
目の前に現れた人人人。その格好がどれも変。 狼男だったり、ドラキュラだったり、フランケンシュタインだったり…… おいおい、ハロウィンは季節が違うんじゃないのか?
「んもー! 皆守くん反応薄いー!」 「いや、充分驚いてはいるんだがな……」
目の前にやってきた八千穂は何故かマミーズの制服を着ている。 大学に進学したと聞いていたから、恐らく舞草辺りに借りただけだろうが。
いや、問題はそこではない。 このマミーズを埋め尽くさんばかりの人の多さは何だ? 阿門を始めとした昨年度の生徒会役員、執行委員、教師陣に、クラスメートや顔見知りの奴等も居る。何でか、結果が出れば俺の上司になる事が決まっているちょび髭、自称宇宙警察・探偵の鴉室までいやがるぞ?
「おい……八千穂……」 「ん? なぁに?」 「今から何が起こるんだ?」
真顔で聞いた俺に、一瞬きょっとんとした八千穂は、盛大に噴出して俺の背中を、その強力なスマッシュを繰り出す強靭な腕で何度もバシバシ叩いてきた。
「やっだー! もう、何ボケてるのよぉー! 皆守くんのバースデーパーティに決まってるじゃない!」 「……は?」
この人数全員が、俺の誕生日に?
「…………えっと、どっきり?」 「何言ってるのよ、甲太郎。折角みんなでわざわざ用意したのよ、もっと嬉しそうにしたらどう?」
女ドラキュラなのだろうか。何時にも増して真っ赤な唇に牙をつけた双樹が俺の腕を抓る。 それにしても冗談だろう? 俺の為になんて。
「自覚は無かっただろうが、お前の信望は中々だったんだぞ」
こっちは、いつも通りの格好で…というか、この春先に真っ黒いコート姿のままの阿門の言葉。それでもやっぱり実感が湧かない俺は、背中を押されるままマミーズの中まで案内されて、口々に祝いの言葉を貰う。 マミーズは場所の提供だけだったようだが、八千穂達がカレーやら軽食やらを作ってくれていたので、ちょっとしたランチバイキングのようになっていた。まるで文化祭の展示店のようだ。
とりあえず、食えといわれたカレー皿を片手に、ようやく脳ミソが落ち着いてきた俺の横に八千穂がいつの間にか座っていた。
「どう? おいしー?」 「ん……あぁ、まぁ」 「やだなぁ、まだ呆けてるの? 主役なんだからしっかりしてよぉ」 「主役ったって、お前……」
いつもの調子が出ない俺がよっぽど面白いのか、八千穂はけたけたと笑い声を上げる。 皆、卒業したばかりだというのに、もう同窓会のつもりなのだろうか。近状を話し合ったりしているようだ。
「ほんとはねー、くぅちゃんにも連絡を取ったんだけど、どうしても捕まえられなくて」
ぼんやりと談笑している連中を眺めていた俺に、八千穂が少しだけ憂い声で話し掛けてきた。実は俺は、結構メールの遣り取りを交わしているがあいつが俺の誕生日を覚えているのかいないかまでは知らない。向こうから何にも言ってこないし、自分から言う物でもないからだ。
「日本には居ないらしいぞ」 「そうなんだ。でも残念、一番お祝いしたかったの、きっとくぅちゃんなのにね」 「……さぁな」 「もう、素直じゃないなぁ。一番仲が良かったくせに」 「……」
確かに、『一番』仲が良かった事には間違いないだろう。 俺だって、今日『一番』顔を見たかったのは、あいつの顔である事は間違いない。 でも……
「でも、生まれて初めてだな。誕生日を祝ってもらってこんなに嬉しかったのは」 「……ほんと?」 「あぁ」
何かと俺に食って掛かる夷澤なんかは、『みんなが集まる為の口実っすよ。あんたの誕生日なんて』とか言ってやがったが、それでも現生徒会長がマミーズの使用を許可してくれなければ、実現しなかっただろう事も確かだ。
九龍が居なくて寂しいと思う。 それでも、あいつが居てくれたお陰で知り合えたこいつらに、こんなに暖かいもてなしを受けている自分は、心底幸せ者だと思う。
その思いは恥かしくて口になんか出せたものじゃないが、八千穂はなんとなく察してくれたらしい。全然変わらない…そりゃそうか、数週間で変わられても困るが、あいかわらずな笑顔を浮かべた。
と、その時だった。
派手な音を立てて、乱暴にマミーズのドアが開かれる。 全員の視線がそっちに集まった。
外からの光の方が強くて逆光になっている。 シルエットしか見えない、けれど見間違うはずもなかった。
思わず、イスから立ち上がる。
「ま、ま、ま、間に合ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
シルエットが、肩を上下させてそう言った。 久しぶりに聞く、その声。 となりで八千穂が小さく嘘…と呟いたのが聞こえた。 本当にな。俺だって自分が今信じられない。 まるで幻を見てるかのようだ。 そして、それはきっと俺だけじゃない。 全員が動きを止めて、入り口を凝視しているのは、皆が皆、自分の見ているものが信じられないからだろう。
しかし、そんな異様な雰囲気で固まった奴等の間を気にせずに、その小柄な影はずんずんと真っ直ぐに俺の方に向かって大股で歩み寄ってくる。 そうすれば、もうただのシルエットじゃなく、色彩を帯びた一人の人間の姿に。 新年を待たずして学園を去っていった、たった3ヶ月だけの同級生。 だけど、一番大切な……葉佩九龍の姿に。 少し伸びたらしいグレーの髪はふわふわと、瞳孔の境界がわからないぐらいに漆黒の瞳は強い光を帯びて。そして、何故か口は真一文字に引き絞られて……って、なんだか怒っているように見えるのは俺だけだろうか。 その気迫に押されて、俺は近付く九龍に思わず半歩後退る。
しかし、俺の後ろはソファーがあるだけで、結局残りの距離も九龍にあっさりと詰められてしまった。 そして、まじまじと互いの顔を見合った形になった後、九龍が俺の襟ぐりをむんずと掴みあげた。
「甲太郎のばかー! 俺に嘘教えただろ!」 「……は?」 「俺、誕生日4月13日って聞いたぞっ! お前にっ!」 「………はい?」
目をパチクリさせる俺に、九龍が眦を上げて睨みつけてくる。
「俺が余裕を持って、12日にこっちに戻ってこなかったら、間に合わなかっただろー! ばかー!!!」
……そういえば。 九龍と知り合ったばかりの頃なんて、自分の誕生日なんてどうでもよくて、結構うろ覚えだったような気が………
っていうか……
「……じゃぁ、お前、俺の誕生日が13日だと思ってたのか?」 「うん」 「で、その日に合わせて帰国するために、わざわざ前日からこっちに戻って来てたのか?」 「大変だったんだからっ! ビックリさせようと思って、日程合わせるの、すっげー無理言って取らせてもらったんだからっ!」
ぶっすーと頬を膨らませた九龍の顔を、思わずまじまじと見下ろした後、俺は湧き上がる衝動を押さえることが出来なかった。 何の衝動か? 勿論、
「ぶ………ぷくくくくっ……」 「んなっ?!」 「あはははははははははははは!!!」
突然笑い出した俺に、九龍が目を白黒にさせて掴み上げていた手を下ろす。 笑い出したのは俺だけではない。 その場にいた皆、八千穂も夷澤も、阿門までもが笑いに顔を歪ませている。
「な、な、なんでみんな笑ってんのっ?!」
超焦りながら折角苦労して駆けつけたというのに、大笑いで迎えられたのでは確かに九龍が戸惑うのも無理は無いだろう。 しかし、これが笑わずに居られるか。 俺は、人前だとか、そう言ったことを全部忘れて、未だにオロオロしていた九龍を思いっきり抱きしめた。
「んぎゃ?! な、な、な、なになになにー何事―!!!」 「あはははははははははっ! お前はやっぱり最高だっ!!」
ばたばたと暴れる九龍を構わず抱きしめたまま、俺は笑いの合間に、何とか肝心の言葉を相手に告げた。
「ありがとうな、------九龍」
笑いの合唱の中、俺のその言葉が聞こえたのは、腕の中にいた九龍だけだろう。 そして、九龍はようやく俺が一番見たかった、とびきりの笑顔を見せてくれたのだった。
くさっ!(自分で言うな)
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