「俺さあ・・・一護たちが学校行ってる間、ずっと暇だろ? 縫いぐるみの姿じゃ、外も出歩けねえし。だから、部屋にある本とか雑誌とか、良く読んだりしてるんだけどよ・・・」 「それが一体、何だというのだ?」 「結論を急がないで下さいよ、姐さん。順序、ってもんがありますから。 俺はどっちかって言うと、特盛の女の子のグラビア写真とか、見たいなとか思ってるんだけど、あいにく一護の野郎はほとんど持ってないしよお・・・」 「放っとけ☆」 「ちょっと待て。『ほとんど』と言うからには、極少数ではあるが、一護も持ち合わせているということなのだな? 『とくもりのおんなのこのぐらびあしゃしん』とやらを」 ・・・そこで何で鋭いツッコミ、するんだよルキア。 「断っとくけどな。アレは啓吾が押し付けてきたんだ。俺は、その、ちょびっと見ただけで・・・」 「ほお、見たのか」 「だから、ちょびっとだけだって!」 「言い訳する辺り、怪しいではないか。・・・よもや一護、貴様の頭の中で、井上にぐらびあしゃしんと同じ姿をさせたりしているのではあるまいな?」 水着姿で挑発的なポーズをとる、プロポーション抜群の井上・・・!? 「だあああっ、思わず想像しちまったじゃねえかっ! てめえルキア、そうやっていらん煩悩の種をばら撒く方が、よっぽどタチ悪いって知ってるのかっ!」 「私は井上の心配をしたまでだ! 友人の身を案じて、何が悪い!」 理性を必死に保とうとする俺と、一応あくまでも純粋に井上を心配しているらしいルキアは、その場で一触即発の状態に陥ったのだけれど。 ダンッ!! すさまじい音にたじろげば、そこには完全に目の座ったコン。 デオドラントスプレーの底を渾身の力で机に叩きつけて、俺たちの口論に割り込んだのだ。 それこそ、もしヤツが握力増加型の改造魂魄だったら、さっきの勢いでスプレーを握りつぶしかねないような、とてつもない剣幕を漲らせて───。 「・・・話、続けていい、よな? 一護。姐さん」 「お、おう、悪かったな」 「ど、どうかお話を、続けてください〜」 いつになく静かな殺気に満ちた形相で、たちまち消えうせるのは俺の煩悩。 静かになった俺とルキアを一瞥してから、コンは話を再開させた。 「・・・特盛のグラビア写真はなくても、暇持て余してりゃつい読むってもんだよな? それで俺もあれこれ読んでたんだけどよ、そのうち記事の部分も読み飽きてよ。所謂読者コーナーにも目、通したんだ」 「読者コーナーって・・・アレかよ? 投稿で本音暴露しまくってる」 「一護も読んだのか?」 「た、確かに読んだけどな。女の本音ってヤツがちょっとヤバ過ぎて、中途で読むのやめちまったよ!」 「ヤバ過ぎるって・・・そんなに際どい話題ばかりだったのか?」 「そうだよ! はっきり言って、男の夢とか理想とかぶち壊す代物だったんだよ!」 「そう言うヤバい投稿文章を、貴様も何だかんだと読んだ、と」 「あのなあ・・・」 コホン。 「・・・スミマセン。話の腰を折ったのはワタクシです」 「ちゃんと聞きますから、続きお願いします・・・」 さっき以上に不機嫌なコンの視線に、俺もルキアもつい下手に出てしまう。 ───しかし、ここまでコンのヤツをマジにさせる話題って、一体何なんだよ? 「とにかく、その読者コーナー読んでたらよ。ちょっと気になる固有名称があってよ」 「気になる固有名称?」 「おう。変だな、って思って、他の雑誌も読んでみたら、そっちにも何箇所かあってさ。話の前後から察するに、どうやらやっぱり同じもののこと指してるみたいで」 コンの長ったらしい話も何とか、本題にたどり着いたらしい。 「『買いだめする』だの『財布に隠す』だの書いてあるから、どうやら何かに使う道具だ、ってことは分かったんだけどよー。その後ほとんど決まってHな話になってんだよ。やれ、彼女を連れ込むだのなんだの」 「・・・その、何冊かの雑誌に共通して登場する道具とやらが、コンが気になっているものなのだな? それで、一体それは何なのだ?」 いい加減焦れたルキアが、話の要点を絞って、一気に畳み掛ける。 俺は少しヒヤリ、としたが、さすがにコンも彼女のやり方をそれ以上は、非難しなかった。 ただし、ふと見ればコンのやつ、何故か顔の辺りが赤くなってる。・・・いい加減、その仕組みと素材に疑問が残るぞ、縫いぐるみ。 「だから、その・・・『コンちゃん』・・・です」 「「───はい??」」 俺とルキアは、見事にハモった。 さっきまでの剣幕はどこへやら。俺たちの視線を浴びたコンは何やら、身の置き所がなさそうな、いたたまれなさそうな雰囲気になっている。 「あちこちの雑誌で、やたら『コンちゃん』って言葉が多用してありまして・・・」 「ええと、それってひょっとして、さっき井上にお前が『君』付けて呼んでくれ、って頼んでた理由なのか?」 「・・・まあな・・・」 「だからどうして、そんなにコンが恥ずかしそうにしているのだ? 犬や猫の名前に同じ名前をつけていても、別におかしくはないと思うのだが」 「だよなあ。どっちかって言うとその名前、キツネにつけそうな感じだけど」 実際、俺がコンのことをそう呼ぶたび、事情を知らない奴らは首を傾げてたっけ。コンのヤツはどこからどう見てもライオンの縫いぐるみで、キツネには見えないもんな。 が、コンはそんな俺たちの様子に、深々とため息を付いたのである。 「やっぱりか・・・ひょっとしたら、と思ってたけどよ、一護。お前、全然知らなかったんだな・・・。 ま、知ってたら絶対、井上さんのこと止めただろうけどよ・・・」 「はあ? 何をだよ?」 「姐さんが知らないでいてくれたのは、ある意味ホッとしたなぁ・・・」 「どうして私が知らないと、コンがホッとするのだ?」 「いえ・・・姐さんはいっそ、そのままのアナタでいてください・・・」 何故か遠い目で、昔を懐かしむようなコンの様子に、俺は唐突だけどイヤーな予感がしたのだった。 ───あのコンが、持って回った言い方でなかなか本題に入らなかったぐらい、デリケートな問題らしくて。 どうやら一般的に、俺くらいの年齢の男子なら、知ってて当たり前。付け加えれば、Hな話題にはつきものらしい代物で。 ついでに、コン的にはルキアには、出来たら知らないままでいて欲しいもの。 それが、あちこちの雑誌の読者コーナーで、一様に『コンちゃん』と呼ばれている・・・。 そこまで推理したところで。 「・・・・・・・・・っ!?」 俺の顔面は、一気に沸騰寸前に陥った。 イヤ、顔面だけじゃない。体中の血液が一瞬で逆流したように思うのは、絶対錯覚なんかじゃないぞ! 「ココココ、コンっ! ひょっとして、ひょっとしてお前の名前をカタカナにして『ちゃん』づけすると、所謂『夜の家族計画』に必要なものになる、のか!?」 「そうなんだよ・・・。俺も最近までは知らなかったんだけどよ・・・しかも、一護の世代がその呼び方、ドンピシャらしくってよ・・・」 「なんでだあああっ! い、いくら頭2文字が同じだからって、何でアレを指す名称になるんだよっ!?」 「知らねえよっ、てめえら人間の考えてることなんざっ!」 「俺が考えたんじゃねえよっ!」 「俺の名前付けたのは、一護じゃねえかっ! あン時も安直過ぎるとは思ったけどよっ、もっと盛大に反対しとけばよかったって、後悔してんだぞ俺はっ!」 「・・・・・・っ! 過去の俺の大馬鹿野郎おっ!!」 ───そりゃ、コンとしても気まずさ大爆発だったろう。必死こいて、井上に『君』付けしてくれと頼むわけだ。 ここまで名前が馴染んでしまっては、今更改名するわけにもいかないし。 ある程度叫びまくって気が済んだのか、いつしかコンの背中に漂うは、そこはかとない哀愁。・・・イヤ、マジで。 「フッ・・・何も知らなかったあの頃が、今となっちゃ懐かしいぜ・・・けどアレ以来、井上さんに『ちゃん』付けされるたびによお、俺は・・・俺はなあ、気が気じゃなかったんだぞ」 「うっ★」 「だってよお・・・あれじゃまるで、純粋無邪気で何も知らないいたいけな女の子に・・・身近な存在で言えば遊子辺りに、スケベな言葉を言わせて悦に浸ってるド変態、みたいじゃねえか・・・!」 そ、それはあまりに嫌な例えだな、をい。言いたいことは分かるけど。 とは言え。 「コン・・・俺は少しだけ、お前を尊敬するぞ。お前がそこまでの変態じゃなくて、一応は理性ってモンを持ち合わせてる改造魂魄で、ホントーによかった」 「分かってくれるか、一護」 「今だけだけど、理解してやるぜっ」 ガシッ! と派手に大げさな抱擁? を交わす俺とコンを、しばらくルキアは不思議そうな顔をして見ていたのだが。 唐突に思い当たったらしく、ぽむ☆ と手を合わせてから口を挟んできた。 「・・・ああ! なるほど。さっきから何を言ってるのかと思ったら、ひょっとして、避・・・」 「だあああああっ! 頼むから、頼むから姐さん、皆まで言わないで下さいいいっっ!」 「確かに気まずかろうな。あの井上に呼ばれる度、コ▲ド・・・」 「ルーキーアー! 俺たちは千本桜の錆にはなりたくねえんだよっ! 口を謹めっ!」 卑猥と言うほどのものではないが、うら若い? 女の口から簡単に飛び出ていい固有名称では、決してなく。 ましてや、妹可愛さが度を過ぎる某・義兄が聞きつければ、その一因を作った者を生かしておくはずもない。 俺とコンは、わが身可愛さの意味も込めて、ルキアの暴言を止めるべく、躍起になったのであった。 ◆おまけ◆ 「ねえねえ。この間浦原さんに会ったら、コン君のこと『ちゃん』付けしてたよねえ? いいの? 子供っぽいのイヤなんじゃなかったの?」 「あいつはヘンタイだからいーんだ。俺は子供で結構☆」 「ヤツが変態だと言う意見には、反対しないな私も」 「てか浦原さん、絶対確信犯で言ってるよな? アレ。何考えてんだか」 「? 何のこと?」 「「「井上(さん)は知らなくていーんだ!(まだ)」」」 「??????」 【おしまいv】 後書きは翌日名義の日記にて。
※くれぐれも念押ししますが、これは劇場版第3弾とは何の関連もありません! その辺、妙な期待をしないで下さい。 ※下ネタと言うにはささやかな下ネタ、あります。万が一意味が分からなくても、家族や異性のお友達には質問しないこと。ましてや教師になど、絶対聞かぬよう。未成年者は年齢が成年に達するのを、素直に待ちましょう・・・つまりは、そーゆー方向の話題です(ーー;;;) ※ち☆ はイチオリ派です。この話もイチオリ前提です。現在連載中の原作とは、かーなーりー食い違った内容となってます。だって思いついたの、藍染編の時だったんだもん・・・☆ 「悪いけど井上さん! これからは俺のこと、『君』付けで呼んでくれねえか!」 とある日のこと。 ウチの縫いぐるみの居候がいきなり、遊びに来ていた客にそう持ちかけた。握りこぶしつきの気合いと共に。 君の名を呼べない 確かアレは、俺が一緒にテスト勉強をしようと、井上を俺の部屋へ呼んだ日だった。 まあ試験勉強と言うのは半ば口実で、本心は「テスト中も井上に会いたい」からなんだが、彼女は嫌がらずに・・・どころか、ひどく嬉しそうに来てくれた。 で、その事態にもっと喜んだのは、件の居候・コンなわけで。 一応はテスト勉強が建前なだけに、俺たちが勉強中はおとなしくしていたものの、休憩に入るとイロイロと騒々しくなった。俺を差し置いて(!)井上に飛びつきかけたり(むろん足蹴にして阻止した)、教科書を眺めて分からなかったことを尋ねたり(教科書の大半が該当したが)。 その間、井上はコンのことを『コンちゃん』と呼んでいたのだが、どうやらそれが気にいらなかったらしく───唐突に、先ほどの発言が飛び出したんだ。 本人曰く「子供っぽい」だそうで、俺達同様是非『君』付けで呼んでくれと、しつこく念を押していたっけ。 当の井上は、と言うと、コンの意図が今ひとつ分からないまでも、 「じゃあ、今度からコン君って呼ぶね?」 と快くその申し出を受けてくれ、その場はとりあえず収まったのだが。 「・・・おい一護。ちょいと男同士の話し合いをしようぜ?」 井上が帰り、部屋の後片付けをしていた俺にコンが、ヤケに神妙な顔つきで話しかけてきたのである。 ---------------------------------------------------------------- 珍しく、奴の眉間には皺。「縫いぐるみがどうやって眉間に皺を寄せるんだ?」との意見も出ようが、そんなことを気にしていたらコンの存在自身ありえねえことになるんで、この際は棚へ上げておく。 ・・・まあつまりは、いつものおちゃらけた雰囲気じゃなかった、って意味さ。 しかし、常日頃の行いが行いだ。少なくとも俺は、奴の言い分を言葉通りに受け取る気分にはなれない。 そして、俺と同じ心持ちの奴が、実は室内にもう1人いたのである。 「何だ、男同士の話とは。コン、私は除け者なのか?」 たまたま今日俺んちに来ていて、当然井上との勉強会にも参加していたルキアだった。 彼女にはいろんな意味で弱いコンのこと、思わぬ方角からの横槍に、途端にうろたえ始める始末だ。 「そ、そんなつもりはありませんぜ、姐さん。ただ、その、男同士じゃないと分かり合えない事情って奴も、あるってことで・・・」 「だから、その『男同士でないと分かり合えない』事情とやらは何だ? と聞いておるのだ、私は」 「う・・・」 「私に、隠さねばならないことなのか?」 ───知ってる奴もいるとは思うが、念のため。 ルキアはいたく、井上のことを気に入っている。彼女を助けたいがために、尸魂界からの制止も何のその、恋次と一緒に虚圏へ、俺たちと合同すべく乗り込んだぐらいだ。 ひょっとしたら所謂『女のカン』で、何かよからぬことをコンが企んでいるのでは、と懸念したのかもしれない。だから───今になって思えば、だが───自分がこの場にとどまることで、コンの企みとやらを阻止しようとしたのではないだろうか。 ルキアの『私を出し抜いて井上にチョッカイ出そうとしても、そうはさせないぞ』を言わんばかりの視線に、さすがのコンも折れた。 が。てっきり『男同士の話し合い』をやめるのかと思いきや。 「・・・だあああっ! 分かった、分かりましたよっ、姐さんも聞いててイイですからっ。 けど、今のうちにくれぐれも断っておきますけど、『聞くんじゃなかった』だの『女の私に聞かせる話題ではなかろう』とか言うの、絶対にナシですからねっ! マジっすよっ!」 コンは予想に反して、ルキアを同席させてまでも、自分の意志を貫く道を選んだのである。 ・・・これには俺にも困惑するしかねえ。 だって、コンの今の言い草じゃ、あまり人には聞かれたくない話題であることは明白。なのに、ルキアが居合わせるのを許すなんて。 よっぽど切羽詰った事情があるのか───自然、眉間にいつもの倍、皺が寄る俺に、だがコンは、なかなか本題に入ろうとしなかった・・・・・。 (後編に続く・・・)
けど、ここからはリンクしてません。HOMEからもリンクしてません。検索除け対策の実験をしてますんで。よほど知りたい方は、お手数ですがメールでそちらのメアドを知らせてください。メールでお知らせいたします。 で、新しいHPに、↓の「クリスマスボウル〜」もUPしてます。ついでにおまけ話も。覚書しておきます。 (ち☆)
プロボクサーには正月や盆どころか休みもない、とは誰が言ったことやら。 だが、ボクサーに限らず、仮にも世間一般的な『スポーツマン』と目される人種に休日など、数えられるほどしかないのも事実。 凶悪、かつ脅迫手帳で集めた奴隷を酷使しまくることにより、所謂健全な『スポーツマン』の定義からは若干外れている蛭魔妖一にも、その例えは成り立っていた。 そんな彼が、泥門高校に来て初めての冬休みを迎えることとなった、前日のこと。 「やーっと収まりやがったか、この糞天気が」 ヒル魔が、そう忌々しげに吐き捨てるのも無理はない。先ほどまで窓の外は、いきなりの猛吹雪に見舞われていたのである。 おかげで、折角終業式とホームルームだけで授業が終わったというのに、大部分の生徒が校舎内で足止めを食らっていたのだ。ただし積もるような雪ではなく、歩道を自力で開拓する、なんて憂き目にならなかっただけ、まだマシと言うものだろう。 ただしヒル魔にとっての『糞天気』とは、一歩たりともグラウンドへ出ることを許されなかったことへの、罵りの意味が強かったわけだが。 加えて、もう1人のアメフト部員、栗田良寛が「今日は急用が出来たから!」と、雪が本格的になる前に帰ってしまったことも、彼の苛立ちを募らせていた。・・・さすがのヒル魔とて、たった1人で、寒風吹きすさぶグラウンドで練習、などぞっとしない。 こういう日もあるか、と、とりあえず割り切ることにして。 とっとと帰って、このところ溜まる一方だったデーターの整理でも───そう計画しつつも、今一つ気の乗らぬ風情で、玄関まで来たヒル魔だったが。 「??」 外───つまりは通用門付近───がやけに騒がしいことに、つい眉をひそめる。 やっと帰宅できる生徒の嬉しさ故の歓声、というには声がデカイ。かと言って、何かしらの事件が起こった場合の、緊迫した空気とも異なる。 どこかの身の程知らずが、ヒトの縄張りで騒いでやがんのか───。 眉間の皺を更に増やし、足取りも荒く通用門へとズカズカ歩み寄ったヒル魔の目に、2つの鮮やかな色彩が飛び込んできた。 周囲を寒々と染めている、白、と、それと相対する暖かさの象徴、赤。 今の季節それらは、サンタクロースの扮装を意味する。 日頃、四季の情緒に無関心なヒル魔ですら、そのことに気づき。 そのサンタクロースとやらが、泥門生徒と楽しく記念撮影なんぞしてやがるのだ! と思い至った頃、いっそ駆け足と言っていい勢いで通用門へと踏み込んだかと思えば。 ドカッ!! ほとんど条件反射で、満面笑顔の巨体サンタクロースを、蹴飛ばしていたのだった。 「何してやがンだ、糞デブ!」 「ひ、ひどいよヒル魔ぁ〜。いきなり何するの〜」 予想通り。白いひげの下から返って来たのは、いつも聞きなれた栗田の苦情。 積雪に頭から突っ込んだせいで、赤いサンタ帽にこびりついた白いものを、手で払って落としながらの。 「それはこっちのセリフだ。てめー、用があって帰ったんじゃなかったのか、あぁ?」 「・・・機嫌悪いねヒル魔。グラウンド使えなかったの、まだ怒ってるとか?」 「俺の質問に答えろってんだよ【怒】」 「だからー、そんな物騒なものしまってよー。クリスマスにふさわしくないでしょ」 周囲が完全にヒいているのを余所に、栗田はサンタの扮装にふさわしく、穏やかに友人を宥めた。 「僕の用事はこれからなんだ。隣り町の教会へ、手伝いに行かなきゃいけなくって」 「坊主の息子が趣旨変えか?」 「そんなんじゃないよ。今日だけだってば。ちゃんと父さんにも、許可貰ってあるし。 あのね、教会のクリスマス会に来てくれた子供たちに、このカッコでお菓子あげるんだ」 聞けば、本来サンタ役を演じるはずだった人間が、風邪で寝込んでしまったのだという。急な予定変更にピンチヒッターはおらず、たまたま近所を通りかかった栗田に、白羽の矢が立ったらしい。 どうせならサンタクロースの正体は秘密にしたいため、教会を訪れる子供たちとは面識のない人物に頼みたかった、と言うのが、主催者の目論見なのだろう。・・・確かに坊主の息子なら、そう顔なじみにはならないだろうし。 「で? 何でわざわざ泥門に寄ったんだよ? その扮装見せびらかすためか?」 ヒル魔も、栗田がこれから向かう、という教会の場所は把握している。家で着替えたのも、教会に来る子供たちとやらに正体を隠すためだ、ということも想像が付く。 が、栗田の家から出発するにしたって、ここに立ち寄れば完全な遠回りになるはずなのに。 すると栗田は、背中に担いだ白い大きな袋から(ご丁寧に防水加工付きだ☆)、クリスマスらしくカラフルで小さな巾着袋を取り出し、何やら甘い匂いが漂ってくるそれをヒル魔へと差し出した。 「メリークリスマス、ヒル魔! はい、これ。プレゼント渡しに来たんだv」 ───一瞬、凍りつく空気。 シュールだ。とんでもなくシュールな図だ。 人の良さと笑顔全開のまあるいイメージのサンタクロースが、泥門一の凶暴悪魔と呼ばれている鋭角的青年に、クリスマスプレゼントを手渡す───など栗田以外、誰も想像なんてしたことのない光景だろう。 滑稽さと恐怖の狭間で、声を出すのすらこらえている泥門生徒たち。 これ以上なく自分に不似合いな可愛らしい代物を、こともあろうに公衆の面前で渡され、怒り心頭のヒル魔。 そんな中、空気を読めない栗田だけが、ニコニコと笑みをたたえたままである。 「てめえ・・・俺は甘いモンは食わねえ、って言ってるだろうが!」 ↑ツッコミどころが違う☆↑ 「怒んないでよー。それにこれ甘くないし」 そう言って開いた巾着袋から出てきたのは、1つずつ小袋に入った白や水色のキャンディーだ。 「ほらこれ、ペパーミント味なんだ。子供ってあんまり、この味欲しがらないでしょ? だから多いんじゃないかって話になって、余ってもったいないから僕が貰ったってワケ」 「クリスマスプレゼントとか言いながら、俺に不要物押し付けるのかよ☆」 「捨てちゃうよりいいじゃない。それに、喉が乾燥すると風邪引きやすくなるって話でしょ? 今日のヒル魔にはピッタリだって思ったからさ」 「・・・・・・」 確かに今朝から、少し喉がいがらっぽくなっていたのは事実である。よもや、栗田にそのことを気取られていたとは。 それとなく照れを隠し、青い色のキャンデーを摘み上げながら、ヒル魔は悪態をつかずにはいられない。 「・・・ガキたちをそこまで甘やかすなんざ、教育上宜しくねえんじゃねえのか? たまには辛いものがある、って感じにしておいた方が、結果的に奴らのためだと思うぜ」 「うん。教会の人たちもそう言ってた。だから、1袋に1つの割合で、ちゃんとペパーミント味も入ってるんだってさ」 「けっ」 先を読まれた悔しさで、ヒル魔は小袋を乱暴に裂き、水色のキャンデーを口に放り込んだ。たちまち舌先を刺激するのは、慣れ親しんだミントの香りと味。 ガリリ、と奥歯でそれを噛み砕いては、次の小袋に手を伸ばす彼を、栗田以外の生徒たちは物珍しそうに眺めている。 「ヒル魔ぁ。その食べ方じゃあ、喉にはあんまり効果ないと思うけど」 「るせえ。自分の食いもんをどんな食い方しようが、俺の勝手だ」 「それはそうだけどさ・・・じゃ、そろそろ時間だから、僕行くね」 栗田がそう告げたところ、「ええーーっ!」と一斉に周囲から上がる、残念そうな声。 見れば、ヒル魔の背後にはいつの間にか生徒たちが、携帯電話を片手に列を成していた。どうやら『サンタクロースとの』写真撮影を狙っていたらしい。 とは言え、ヒル魔にプレゼントを渡す、と言う目的は果たしたのだから、確かに栗田がこれ以上ここに居座るのもおかしい。ヒル魔に睨まれたこともあり、それ以上、俄かサンタクロースを引き止める動きは起こらなかった。 よいこらしょ、と大きな袋を担ぎなおし、踵を返す相棒の背中に、ヒル魔は話しかける。口の中の欠片を、全部噛み砕いてから。 「おいこら、糞デブ。ボランティアだかバイトだか知らねえが、そんなのは今年限りだからな!」 「分かってるよー」 振り返りながらそう答えた栗田は、いかにもサンタクロース、といった具合の慈悲深い笑みを浮かべた。 「来年は絶対、クリスマスボウル! だもんね。ヒル魔、お互い頑張ろ!」 メリークリスマス、ともう一言残し、高校生サンタクロースは巨体を揺すりながら、白く染まった街中へと姿を消した。 『絶対クリスマスボウル!』 それはいつか、3人で誇らしく誓った約束。 今は、2人だけでささやかに誓う約束。 では、来年は・・・? さっき口に放り込んだキャンディーを今度は舌先で転がしつつ、ヒル魔はふとそんな思いにかられずにはいられない。 慣れたはずのミントが、ほんの少し、キツい後味を残したように感じたのだった。 ************ 「・・・ってことがあったのよ。1年前のことだけど」 「へえ〜〜〜」 翌年の12月25日。激闘に激闘を重ねたクリスマスボウルを無事、戦い終え。 大勝利の余韻に浸りつつも帰り支度をしていた泥門デビルバッツの面々は、マネージャーの姉崎まもりから去年の思い出話を聞いていた。 「折角のクリスマスなのに、プレゼントにもサンタクロースにも縁がなかったな〜」 と誰かが言い出し。 それに記憶を触発されたまもりが、ちょうど携帯電話のメモリーに残っていた栗田のサンタ姿を披露したことから、一連の流れとなったわけである。 当時まもりも、吹雪で学校に閉じ込められていた口であり、突然現れた巨体のサンタクロースについ、携帯電話のカメラを向けたのだと言う。 白いひげをつけ、大きな袋をしょった栗田のサンタクロース姿は、待ち疲れた彼女の心にどれほど、優しいものを残したものか。 当時を懐かしむ顔で、まもりは栗田に笑いかける。 「でもどうせなら、クリスマスツリーをバックに撮影したかったなー。絵になるのに」 「確かに栗田さん、スゲー似合ってるっすよね。現物見てみたかったよーな」 「今年は頼まれなかったんですか? 栗田さん。教会のボランティア」 「去年終わった直後に頼まれてたんだけどねー。クリスマスボウルがあるから無理、ってその場で断ったんだ」 「その場で、ですか? 随分と気の早い・・・」 ついそう返したセナだったが、失言だと気づく。傍らでヒル魔が、マシンガンをこれ見よがしに構えたからだ。 「誰が気が早いって?」 「い、いえ、その・・・」 「実際俺たちはクリスマスボウルへ来たんだ、断って正解だろうが」 「ハイ、ソノトオリデアリマス・・・」 「ヒル魔、折角のめでたい場で、そんな物騒なもの出すんじゃねえよ」 「ムサシい・・・何か突っ込みどころが違わない? それにヒル魔、ホントにやめときなって」 親友2人に諭され、舌打ち1つで凶器をしまうヒル魔に肩をなでおろしながら、セナは改めてデビルバッツ創立メンバー3人を見やる。 ───そうだ。そもそもヒル魔があらかじめ、釘を刺していたのだった。栗田に『今年は断れ』と。 来(きた)るクリスマスボウルを目指すために。 武蔵厳こと、ムサシのこともそうだ。 可能性はほぼ0だったのに、ヒル魔と栗田はムサシが戻ってくると信じ、彼愛用のキックティーを部室のロッカーへしまいこみ、守ってきた。 そしてムサシも、彼らの期待に十二分に応え、最後の最後で帝黒を打ち負かす豪快なキックを決めて・・・。 本当に彼らは、ずっとずっとクリスマスボウルを目標に頑張ってきたんだな、と、改めて思い知らされたセナであった。 それはいつか、3人で誇らしく誓った約束。 去年は、2人だけでささやかに誓った約束。 ───そして今年はここにいる、泥門デビルバッツのメンバー皆で、叶えた約束。 「そーいえば僕、キャンディー袋ごと入れて来てたんだった。みんなー、食べるー?」 「うぃっす! 食うっす!」 「フゴー!」 「こンの糞デブ!! 俺は甘いもんは食わねえって言ってるだろうが!!」 「ヒル魔も食わず嫌いはよくないぞ。疲れた時には甘いものがいい、って聞くしな」 「あ、あのっ、ミント味あるみたいだから、それ食べればいいんじゃないでしょーかっ」 ≪終≫ ******* ※これはクリスマスに差し掛かる前から、大まかな内容だけは頭の中に浮かんでいたものです。が、久しぶりに小説として書き始めたら、まあ時間がかかるかかる。結果的に25日にすら間に合わなかったんだから、笑い話にもならないよなー。 アメフトをやっている者にとっては、クリスマスイベントなんてあってないようなものなんだろうな、と思ったのがそもそものきっかけ。それと、相方が持っていたイラスト集に、ヒル魔と栗田とその他大勢(をい☆)のサンタ姿が描かれていたのがあって、それがものすごくお気に入りで。せめて栗田にサンタの格好させたいなあ、似合うしなー、と思っていたら、自然に「サンタの格好した栗田がヒル魔にプレゼントを渡す」てな風に。 ・・・どーやらち☆ のノーミソじゃ、「ヒル魔がサンタに扮して他人にプレゼント渡す」って図は、想像を絶するものだったらしい・・・(ーー;;;)ただ考えてみれば、形に残らないものだったら、ヒル魔も栗田に既に渡してるんでしょうけどね。(友情とか、信頼とか、他もろもろvv) しかし今回後悔してるのは、他のデビルバッツメンバーをほとんど出せなかったこと。特にムサシの出番が少なかったことですかね。でも、当初の案から比べれば、随分増えた方なんですよ? これでも。セリフが特に。 連載終了してからアイシのファンになったものだから、世間から思い切りズレてるのは自覚してます。けど、栗田さんとヒル魔のコンビが好きなのは、もうどうしようもないんだよなあ・・・v ちなみに、意味不明なタイトルについては・・・何も言わんで下さい。どーしてもふさわしい言葉が思いつかなかったし、出来たら「ペパーミントキャンディー」になぞらえたものにしたかったんだけど、失敗した名残です(T_T)
先日までネタバレ恐れて行っていた反転表示、解除いたします。そのままお読みくださいませ。 にしても、富山でも放映開始した「斬魄刀編」ですか、どうもこっちでも、コンは活躍できそうにないですなー。ルキアに縋りついて「姐さあ〜ん〜」って泣いてるだけが関の山、って感じで。 ただ、DVDのコメンタリー聞いてると、コンって色々と設定が美味しすぎて、逆にメインに扱えないのかもな、とも思ってます。原作に触れてもまずいだろうしな〜。
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