実は別所にて蒲生さんについての考察を書いている最中なんですが、ふと思いついてしまったことがあったので、書いてみました。 別名「仙人・蒲生の悲喜こもごも」。純くん(岸本寛)視点です☆ 実際はそこまでビデオテープを酷使しまくることはないのかな? とも思うんですが、ま、その辺はご都合主義、ってことでv でわ。 ****************** 僕たち競艇選手って、よく競艇のレースをビデオテープで録画したりするよね? 自分のレースを振り返ったり、これから戦う選手の力量を調べたりするために。それこそ何回、何十回も繰り返して、見たりもする。 だから当然、酷使され続けたビデオテープはそのうち画像劣化した挙句、切れたりして使い物にならなくなってしまう。 それに、保管場所だって案外取るし。 もう少しこの辺、どうにかならないかなー? とか思ってたんだけど、最近の文明の進化ってホント、凄いと思わない? もっとコンパクトに録画できるものが出来たんだから。 だからこの際その、ハードディスク内蔵型のDVDレコーダーを買おうかな、って考えてたんだ。 ハードにもそれなりに録画は出来るし、DVDディスクならそんなに保管場所も取らないし、ビデオテープよりは断然長持ちする、って話だし。 それで休みの日なんかに、あちこちの量産店へ行ってパンフレットを手に入れて。 今日の斡旋にもそれらのパンフレットを宿舎に持ち込んで、暇な時間に検討しようかな、って思ってた。もしDVDを使ってる人がいたら、その人の意見も参考にできるじゃない? 「へえ・・・今は色んなタイプのがあるんだなあ。面白えー」 早速ノってきたのは波多野君。もっとも彼の場合今のところVHS派で、DVDはまだ買っていないらしいけど。 「フンフン。こっちのは目次の参考画像に、好きなシーンのを選べるのかあ」 「波多野君・・・別に永久保存するわけじゃないんだから、そんなに目次に凝らなくてもいいと思うけど?」 「え? そうか? 目次ページの画像だけでも、結構楽しめるんだけどなあ」 波多野君たら、一体何の番組を録画するつもりなんだろう・・・。 「お取り込み中スマンが、こっちの席、ええか?」 「あ、蒲生さん」 波多野くんの声に顔を上げると、そこには両手に食事のトレイを抱えた香川の蒲生さんが、笑って立っていた。どうやら相席希望らしい。 僕は一向に構わないから、愛想良く返事をした。 「ええ、どうぞ」 「スマンの」 「蒲生さん、今日のレースもいい調子でしたねー」 パンフレットをめくりながら、波多野君は席に着いた蒲生さんに話しかける。 この蒲生、って人は以前までは一般戦にばかり出ていたんだけど、最近SGに復帰し(随分昔に優出したことがあるらしい)、頭角をあらわして来た人だ。波多野君はよく一緒のSGに出て、勝ったり負けたりを繰り返している、言わばよきライバルの一人・・・って言ってもいいのかな? 先輩だけど。 あいにく僕は、時々一緒のレースになったりはするものの、もっか連敗中。 強いんだよね、この人って半端じゃなく。 噂によるとその強さと来たら、あの艇王・榎木さんまで一目置いてる、って話なんだ。波多野君と一緒にこうやってたわいもない話をしてるの見ると、ちょっと想像つかないんだけどさ。 そんな蒲生さんが、食事を一段落させた頃、ふとDVDのパンフレットに目を留める。 「そういや、さっきからお前ら何熱心にやっとるんじゃ?」 「ああ、純がビデオやめてDVD買おうって言ってるんですよ。それでパンフレット見て検討してるんだけど・・・蒲生さん、何かお勧めの機種、ありますか?」 波多野君はお愛想ついでにそう言ったけど、実はさほど蒲生さんの意見を当てにしてたわけじゃない、と思う。 でも、だからって。まさか蒲生さんがこんなこと言い出すなんてことは、さすがに予想外だったんじゃないかなあ? 「でーぶいでー? ・・・なんじゃそら? 怪獣の名前か何かか?」 ・ ・ ・ ・ ・ 一瞬。 食堂内の空気が固まった、と感じたのは、絶対僕の気のせいなんかじゃない。 はじめの衝撃が収まったんだろう。波多野君は慌てて説明を試みてる。 「あ、あの、蒲生さん? でーぶいでーじゃなくて、DVD。CDみたいのにTV番組録画するヤツですって」 「はあ? CDにどうやって録画するんじゃ? どうやってCDプレイヤーで再生するんじゃ? テレビにCDプレイヤー繋ぐんか?」 「い、いえ、そうじゃなくてですね・・・」 ・・・ああ、みんなこっち注目してるよ。興味津々な顔で。見ないフリはしてるけど。 だって蒲生さんだよ? SG2つも獲ってる蒲生さんが、だよ? 今どきDVDを知らないなんて、何の冗談だって思っちゃうじゃない。 でも、だったら蒲生さんってどうやって、レースごとの作戦立てたりするんだろう? 「こっち相席、かまわないかな?」 僕が混乱と動揺で頭を抱えてたら、また頭上から声がかけられた。 慌てて起き上がったら・・・そこにいたのは艇王・榎木さん!? 「ど、どうぞっ!」 ・・・声が上ずってるの、勘付かれたかな? 波多野くんや洞口くんだと、よくSGで戦ったりしてるからそんなに気後れもしないんだろうけど、僕にとっての榎木さんって、まだまだ雲の上の存在だから。 榎木さんは苦笑らしきものをちょっとだけ浮かべ、食事のために席に着く。 と、さっきまで波多野君と漫才会話(にしか聞こえない☆)を繰り広げていた蒲生さんが、何の屈託も感じられない声で榎木さんに声をかけた。 「おお、榎木ー。ちょうどええところに来たわ」 聞いた話によると、蒲生さんって榎木さんの1期先輩で、新人時代から仲が良かったらしい。僕じゃ緊張するしかない榎木さん相手に、こうも自然体な会話ができる辺り、何だか納得気分だ。 それで榎木さんは、と言うと。 どうやら、蒲生さんが僕らと相席していたことには気づいていたみたいで、声をかけられたこと自体はそんなに驚いていなかったんだけど。 声につられて蒲生さんの方へ顔を向けた時、ちょっと怪訝そうな顔になった。 「・・・? 蒲生さん、一体波多野に何やったんですか? 随分疲れてるみたいですけど」 見れば、もはや説明に疲れ果てた、と言わんばかりの波多野くんがテーブルに突っ伏している。 気持ちは良く分かるよ。うん。 そんな僕らの気持ちを知ってか知らずか。 蒲生さんは再びこの場に、爆弾を投下してしまったのである。あっさり、しれっと。 「イヤ、何や分からんことがあっての。波多野に説明してもらっとったんじゃ。 なあ榎木、でーぶいでーって・・・何や?」 ・ ・ ・ 皆が固唾を呑んで見守る中。 榎木さんは予想通り、数秒間見事に固まった。 が、さすが艇王というべきか? 僕らよりは幾分か早く立ち直り、もう一度蒲生さんに確認する。 「DVD、ですか?」 「おお。よお分からんきに」 「・・・・・・。またですか、蒲生さん」 苦笑と諦めとがない混ざった、それはそれは複雑な笑みを浮かべながら、榎木さんはため息をついた。 その言葉に、今まで疲れ果ててたはずの誰かさんが、すかさず復活。 「あの・・・榎木さん?『また』って、どういう意味なんです?」 よしっ、波多野君ナイス! 僕らみんなが疑問に思ってることを代わりに聞くのは、君に一任したからねっv 「言葉の通りだよ、波多野」 どこか笑いをこらえたような顔で、榎木さんは波多野君に答えてくれる。 「私たちがまだルーキーの頃だったかな。やっぱり斡旋先の食堂で、こんな風に私を呼び止めて、この人が聞いてきたんだよ。『VHSって何か?』って」 その途端。 よせばいいのに僕の想像力ってば、「さっき僕らに聞いてきた表情そのまんまで、ルーキー時代の榎木さんに尋ねる蒲生さん」って言うのを、瞬時に頭の中で形成してしまったんだよね。 『なあ榎木、ぶいえいちえすって・・・何や?』 ・・・ぷっ☆ どうやら同じくその光景を、つい思い描いてしまったんだろう。食堂のあちらこちらで、失笑をこらえているのが聞こえてくる。 ・・・みんな聞き耳、立ててたんだな、やっぱり。 周囲の空気に気づいていないのか、榎木さんはチラと蒲生さんを見ながら、気安い関係の人間ならではの軽い、悪態をつく。 「今どき信じられないことに、この人と来たら、家にテレビもビデオも置いてない時期があったんだからね」 「ええ!? でも以前お邪魔した時には、ちゃんと置いてあったはずじゃ・・・」 「あの直前に買い揃えたんだそうだ。必要に駆られて」 「何じゃ? 波多野まで。そーんなに悪いんか? テレビとかビデオとか家に置いとらんのが」 すこーし気分を害した感じの蒲生さんが言葉を挟むも、この場の滑稽さに似た空気が拭い去れることはない。 「そういう意味じゃありませんよ。我々が競艇選手じゃないのなら、それもアリでしょうけど・・・」 「そ、そうか! だったら蒲生さん、どうやってレースの作戦立てたりしてたんですか? 相手選手の傾向とか、研究しようがないでしょ?」 至極ごもっともな質問を波多野くんがぶつけるも、蒲生さんはきょとん、としている。 「事前に作戦立てたりは、せえへんもん。その場その場でレース見て臨機応変に直感で、こうすればええか、って思うだけで。だからビデオなんか、いらへんやんか」 「・・・そういうことができるのは、蒲生さんぐらいですって・・・」 既に榎木さんは、笑いをこらえきれていないし。 波多野君と来たら、あんぐりと口が開きっぱなしになっている。 「そ、そう言えば以前、勝木と一緒の時言ってましたね?『エースペラ1枚あれば、あとはモーターをそれに合わせて整備すれば何とかなる』とか、何とか・・・」 「ええ!? 何だよそれ? じゃあ蒲生さんて、ペラの予備持ってないんですか!?」 波多野くんからの「証言」に、僕は思わず口を挟んでしまい、周囲の注目を浴びてしまう。 でも、幸いにも蒲生さんは、咎めたりはしなかった。 「おお、持っとらんかったぞ。ペラ作りっちゅうて何や、メチャクチャ苦手でのー」 「・・・威張れることではないと思うんですが」 「ギャグなんかじゃなくて、マジだったんスね・・・エースペラ壊したから『仕方なく』ペラ小屋行った、って言うのは」 榎木さんは苦笑で答え。 波多野くんは理解できない! とばかりにうんざりしたような顔になっている。 無理ないけどね。波多野くんって、ペラ作りの師匠として古池さんのところへ弟子入りするまで、結構苦労してるから。 おまけに、古池さんに弟子入りした後もしばらく『勝手にペラを叩くな!』って約束させられていて、その直後にエースペラを壊したりしてたっけ。 ペラがそこそこでもモーターを調節してレースに勝つ───なーんて蒲生さんの破天荒ぶりは、信じられないの一言なんだろう。・・・僕だって信じられないけど。 しかし、競艇選手って言ってもホント、色んな人がいるんだなあ。 妙に新鮮な気分で、食後のコーヒー中の蒲生さんを眺めていたら、こちらは食事中の榎木さんに、何故か声をかけられた。 「確か君、岸本くん、だったっけ?」 「は、はい、榎木さん。岸本寛って言いますっ!」 「波多野から、時々噂は聞いてるよ。努力家で、コツコツ地道に成績を伸ばして来た、自慢の同期だって。今節、随分頑張っているようだね?」 うわ、榎木さんが僕のこと知ってたなんて! それも波多野くんが、僕のこと自慢の同期だなんて言ってたなんてっ!! 二重の意味で感動していたら、榎木さんの表情が徐々に、何とも複雑なものへと変化していくのが見て取れて、首をかしげる。 「まあ・・・岸本くんが興味を示すのは、無理もない話か」 「は?」 「イヤ、レーサーとしての蒲生さんに」 「え、ええ」 「一つ、私から偉そうに忠告させてもらうが。 絶対、蒲生さんみたいになろうなんて、考えない方がいいよ?」 何やら榎木さんは、やけにしみじみとした口調で僕に言う。 「君には君の良さがあるし、他人のやり方を真似しようったって、身につかないのが普通なんだ。 天才を模倣しようなんて、止めておいた方が身のためだからね?」 ・・・イヤ、別に真似しようなんて考えていたわけじゃ、ないんですけど。 「そら、どう言う意味じゃ榎木。なーんか引っかかる言い方やのお」 「一足飛びに蒲生さんみたいになろうなんて、常人には不可能だ、って言う意味ですよ。時々分かってない若手がいるからなあ・・・」 「『艇王』のお前が言うても、説得力がないんと違うかあ?」 「俺はれっきとした努力型ですよ。蒲生さんを模倣しようなんて、そんなの恐れ多くって」 「だーかーら、そういう言い方が引っかかる、っちゅうんじゃ」 「誉めてるんですけどね、一応」 やいのやいの、と蒲生さんが榎木さん相手にじゃれてる(失礼かもしれないけど、そうとしか見えないのは何で??)のを尻目に、僕はついため息をつかずにはいられなかった。 榎木さん。僕は絶対、大丈夫ですって。 だって、さっきから聞いていて、所謂「天才」ってヤツには絶対、ついていけないって思いましたもん。努力が一番ですって、うん。 「? 何だよ純。俺の顔に何か付いてるか?」 「何でもないよ。たださ、『天才じゃない人間』と『普通の人間』って、同じじゃないよねって思って」 「は?」 そう。僕は普通の人間だ。だけど努力だってしているし、ちゃんとコツコツと上達もしている。 蒲生さんや、あるいは波多野くんたちとは違った道のりでも、きっと勝利はつかめると思うんだ。 「いつか追いついて見せるからね、波多野くん」 「???」 誰のものでもない、僕のやり方で。 《終》 ************************* ※何やら最後が、純の青春譚のよーな。ま、いいか。 ちなみにVHSが何たるかを知らなかった蒲生さんですが、別にビデオのことまで知らなかったわけじゃないです。単にビデオが「VHS」と呼ばれているのを、知らなかっただけですんで。念のため。(かつてのち☆ がそうだったんで)
※えーーー。約3ヶ月ぶりの、まともな更新になるかと。 今度更新する時は絶対小五郎ものだ! と思っていたのに、あくまでも予定は未定。同じサンデー連載ものでも、思いもよらないジャンルにハマってしまいました。 ・・・ええ。当初読んだのは単行本4巻の教習所時代の話で、ごくフツーに物語を楽しんでいたはずだったのに、全ては20巻から登場くれやがりました、あの男のせいです。おまけにアニメ声が松本保典なものだから(ガウリィ〜vv)、もうすっかりドツボ。声優さんのコメントを聞きたいがためだけに「V」のDVD第3節を買い、今またケーブルテレビで放映している「V」をセコセコ録画している真っ最中です。・・・ああ、もう既に連載は終わっていると言うのに・・・☆ ここのレンタル日記ではや○いなし、と決めているので、とりあえず蒲生さんと榎木さんの友情話を書いていきたいな、と思っております。でわ。 ************** 「こいつはやっぱり、水神祭だな」 今思い出そうにも、あの時一体誰が言い出したのかはっきりしないのだが。 チャンピオン杯優勝者のゆっくりとしたウィニングランを眺めていた時に、いつの間にかそんな話になったのは事実。 彼───蒲生さんは実に久しぶりのSG復帰にもかかわらず、そんなブランクなど露ほども感じさせない強さを発揮し。 今節のチャレンジ杯で見事、SG初優勝を遂げたのである。 ところで。 一般人にはおそらくなじみがないだろうが、我々競艇選手には「水神祭」なるものがある。G1初勝利、SG初勝利など、レース上でおめでたいことがあった時に、その対象たる選手を水の中に放り込む、いわば通過儀式だ。 むろん私も随分昔、G1初出場で初勝利を決めた時、先輩たちの手によって水神祭でびしょぬれになった記憶がある。 その時の、まるでいたずらっ子のようにはしゃいでいた先輩たちの中には、まだ髪を染めていない頃の蒲生さんの笑顔があった・・・。 『ひどいなあ、蒲生先輩。今の、率先して加わってたでしょう?』 『阿呆、こう言うめでたいことに加わらんでどないするんじゃ。ま、そのうちワシの水神祭に参加させたるから、そん時今回の恨み晴らしたれや、榎木よ』 『ええ、それはもう。期待して待ってますよ』 ・・・・・・。 「ちょ、ちょっと、蒲生さんに水神祭っスか? お気の毒ですよー。もう11月で水も冷たいし、それに、これから勝利者インタビューとかまだあるでしょ?」 さすがに、我々より年少者の波多野君は、遠慮がちながら反対論を口にする。 でも。 「何を言っとるんだ波多野。めでたいからこその水神祭だろが?」 「犬飼さん・・・何でそんなに嬉しそうなんですか・・・」 「あきらめろ波多野。我が身が可愛ければ逆らうな」 「お前が蒲生さんと一緒に飛び込む、ってんなら話は別だけどよ」 「和久井さんまでそんなこと・・・って、浜岡さん、何で負けた俺が水神祭なんスかあ?」 このチャレンジ杯はベテラン陣が揃い踏みなこともあり、そんな意見は少数派に過ぎない。・・・蒲生さんにとって極めて、お気の毒なことに。 そうこうするうちに、何にも知らずに戻って来た蒲生さんは、と言えば。 それは不自然なくらいなにこやかな笑みの諸先輩方々に、あっという間に囲まれてしまったのである。 「ってことで、蒲生、待ちくたびれたわ! SG初優勝の水神祭じゃーー!」 「どわあああああっ!? タ、タンマ、タンマーーーッ!!」 「逃げるな、大人しく捕まれ〜!」 「よくやりやがったなー、こんちくしょー!」 「可愛げがなさすぎるんじゃ、あの勝ち方はーー」 「か、勘弁して下さいよー! この後インタビューあるっちゅうて言われてるんにー! 年寄りに冷や水はキツいわ〜」 「何が年寄りだ〜。まだ三十代のくせによ〜」 大笑いする先輩たちと、引きつり笑いを浮かべるしかない波多野君たち。 さすがに彼らに助けを呼んでも埒が明かない、と踏んだのだろう。蒲生さんはとりあえず傍観者を決め込んでいた私に、声をかけてきたのである。 「おおい榎木、可愛い先輩の危機じゃあ、さっさと助けんかいーー」 一瞬波多野君が、すがるような目で私を見たような気がしたのだが。 それには構わずに遅ばせながら、先輩たちの手伝いに加わることにした私である。 「可愛い先輩だからこそ、めいっぱい祝福してあげたいじゃないですか」 「こらあ! 榎木、この薄情もん〜!!」 「大人しく祝福されてくださいよ、蒲生さん。・・・波多野君たちも、この人が何と文句を言っても耳、貸さなくて良いから」 「「「げっ・・・・・☆」」」 なるべく愛想良く告げたつもりが、その言葉で波多野君の顔がさらに引きつるのが見て取れた。・・・有無も言わせぬ、って気持ちがまともに口に出てしまったらしいな。ふむ。 そうして、情け容赦なく宙へと放り出された蒲生さんに、私は万感の気持ちを込めて叫んだのである。 「おめでとう、蒲生『先輩』!!」 「・・・・・・!!」 ゲラゲラ受けている先輩たちには、そして遠巻きにしてみているしかない波多野君たちには、聞こえなかったであろう私の、その言葉。 でも。 蒲生さんには確実に聞こえていたようで。 どっぽーーーーん☆ 大きく目を見開いたまま、彼は水面に沈んだ・・・。 ********************************* ───そうだ。 結局、G1初出場で初勝利を上げたあのすぐ後、私はレース中の事故で大怪我をして、A1級から落ちてしまい。 加えて蒲生さんがあの、悪夢のフライングでSGから姿を消して。 蒲生さんと私は、F明けの一般戦等で時々顔を合わせることもありはしたものの、まだ気安く挨拶できるような雰囲気にもなれず。 不運とタイミングの悪さが重なり続け、結果、私の蒲生さんへの「水神祭」返しは延々、9年も持ち越しになってしまっていたのだ。 蒲生さんもまさか私が9年間も、そのことにこだわっていようとは思ってもみなかっただろう。現に私も、実際に水神祭に立ち会うまで、実感できずにいたのだが。 けれど。 この「水神祭」返しは私にとって、蒲生さんのSG復帰を再確認させてくれる儀式、そのもの。 気が置けない良き先輩であり、また、手ごわいライバルでもある彼が、再び私と同じ舞台へと這い登ってきた証みたいな気がして、つい参加せずにはいられなかったのだ。 ・・・多少は蒲生さんに恨みは抱かれようが、そこは勝手に許してもらうことにしよう。 ********************************* 「かーーーっっ! 冷たさが目にしみりよるーー! ホンマ、後輩思いの律儀な先輩たちばっかじゃのお、SGはぁ!!」 全身ずぶ濡れで戻って来た蒲生さんは、口では悪態をつきながらも苦笑いしている。手荒な祝福の気持ちは、ちゃんと受け取っているのだろう。 私や観客だけではないのだから。「天才・蒲生」がGSに戻ってくるのを待っていたのは。 「先輩思いの後輩のことは、誉めてくれないんですか? 蒲生さん」 「なーにを抜けぬけと抜かしよるか☆ 見捨てたくせに」 それでも蒲生さんは、笑いながら答えてくれる。彼らしい、ざっくばらんな態度で。 そうして、大急ぎでインタビューへと向かおうと私の横をすれ違おうとした時。 彼は何とも言えない、困ったような笑みで、尋ねて来たのだ。 「で、榎木よ。待たせた恨み、晴らせたんか? 9年分の」 むろん、私は答えてあげる。 「ええ。それはもうすっきりと、9年分も」 《終》 ************** ※ラストのセリフですが、「水神祭を」9年待たせた、って意味ですからね? 深読みしちゃ、ダメですよお?(←言わなきゃ誰も気づかんだろ(^^;;;) どこぞのサイトさんだったか、「チャレンジ杯後、水神祭の蒲生さん」と言うイラストを目にしたことがありまして。そーいや蒲生さんはSG初優勝なんだから、それもありだろ! って話をここまで膨らませた次第です。 しかし、榎木さんも謎の多い人物ですよねえ。確か当時、デビューからSG優勝までの最短記録を持っていたと言う話ですが、9年前に怪我して半年以上休んでいたはずで。だから、怪我をしたのはデビューしたての頃だったのかなあ、と思いつつ、今回の話に盛り込んでみたつもりです。・・・今度ちゃんと年表書いてみよう・・・。 ************** 後日追加事項: 「紅龍館」の伊達炎さんに、この作品をお嫁入りさせましたv
世間でもてはやされている、今話題の名探偵・毛利小五郎。 だけど私はそれが、他の人間によって作られたカモフラージュだと言うことを知っている、数少ない人間の1人だ。 鋭い名推理を持ちながら腹話術師に甘んじねばならない「工藤新一」のためにあつらえられた、哀れな操り人形。それが、私の毛利小五郎像。 ───そのはずだったのに・・・。 *************** 久しぶりの母校で起きた殺人事件を無事解決した後、工藤君は倒れた。 それはつまり、私の作った解毒剤がまだまだ不完全品と言うことだけど、まだ効果は継続中で。「工藤新一」に戻った彼の代わりに、私・灰原 哀は「江戸川コナン」として、この家にやって来た。 この、毛利小五郎探偵事務所へ。 今ここにいるのは、家主で探偵事務所所長の毛利小五郎と私だけ。いつも「彼ら」と一緒にいるはずの蘭さんは、工藤君を心配して学校からそのまま工藤宅へと、同行しているのだ。 「・・・ったく、蘭の奴・・・。今までほったらかしにされてたくせに、いきなりあいつが久しぶりに現れたからって、いそいそと世話焼くなよ。これじゃあ、あいつを図に乗らせるだけじゃねえか・・・」 毛利氏の表情は不満たらたらである。 無理もない。何せ蘭さんは今、私たちのことより工藤君のことを最優先にしていて、もうすぐ夕食時だと言うのに帰ってくる気配がないからだ。 とは言うものの、不平を言っていても仕方がない、と彼はおもむろに電話そばにある薄いノートのようなものを取り出し、私に言う。 「ってわけで、久しぶりに出前でも取るか。コナン、お前何が食べたい?」 ───一瞬、私は困惑する。 何故なら食事をするのなら、変声機付きのマスクを外さなければならないからだ。むろん、たったそれだけで「今の江戸川コナン=灰原哀」だとバレる恐れはないものの、毛利氏の前で少しでも声を出せばたちどころに、私の正体が露見してしまう。 一番良いのは食べないことだろうが、それはかえって不自然だ。となると、あとは毛利氏の見えない場所で「処理」するしか方法はないだろう。運のいいことに今現在の「江戸川コナン」は、風邪を召しているのだから。 ・・・初日からこの調子では、後が思いやられる けれど私は、せいぜい子供の遠慮を装うことにした。 「ううん、ボク今は食べたくない。喉痛いし。レトルトのお粥とか、そう言うのあったら自分で暖めて後で食べるから、おじさん自分の分だけ頼んでよ」 すると毛利氏は少し眉をひそめ、手の中のメニュー───さっき薄いノートだと表現したもの───をヒラヒラさせながら言葉を続ける。 「・・・そう言うなって。知ってるだろ、お前も。この店本来なら、出前は2人前からってことになってんだ。だから以前、一人分だけ頼んだら露骨に嫌がられたじゃねえか。あの二の舞はゴメンだぜ」 「そ、そうだったね・・・」 確かに、一人前だけの注文を請け負っていたのでは、採算が合わないだろう。 昨今のデリバリー界のサービス悪化を心中で嘆きつつ、どうやってこの場をしのごうか、と悩み始めた私だったが。 「・・・お前、本当にいらないんだな? 今からその調子じゃ、食いっぱぐれちまうぞ?」 その、妙に低い声に。 何やら含むようなものを感じた私は、恐る恐る毛利氏の顔を見上げると。 私をしっかりと、正面から見つめている彼の目は、さっきまでのふざけたものではなくなっていた。 ───イヤな予感に。 背中に冷たい汗が流れる私に構わず、毛利氏は手の中のメニューをもてあそびながら言葉をつぐむ。淡々と。 「・・・この店はな、最近出来たばかりの、1人前でも笑顔でお届けします、ってのがキャッチフレーズの店なんだよ」 「え・・・・・?」 「大体、初めてこの店を利用した日のこと、覚えてねえのか? 確かあの時は、蘭の奴が学校での用事で遅くなる、ってんでお前の分と注文しようとしたら、たまたまお前が博士のところへ行くって日で。さすがに初めての店で俺一人の分を頼むのも何だし、って迷ってたらお前、言ったじゃねえか。 『じゃあ、蘭姉ちゃんの分も頼んでおけばいいよ。疲れて帰ってくるのにすぐ食事の用意、って可哀想じゃない。丼ものなら、後で暖めなおせばいいでしょ?』ってな。 ・・・何でお前、今日はそう言わねえんだ・・・?」 《続》 ************** ※ハハハ・・・ついにやってしまったぜい☆ 原作のどの話辺りを題材にしてるかは、分かりますよね?? コナンとして毛利探偵事務所にいるはめになった哀ちゃんだけど、大丈夫だったのかなあ? と思いまして。「風邪気味=お風呂は入れない」から性別はばれないものの、色々と気遣いしなくてはいけないでしょ。だからあるいはこんな可能性もありかな? とか思って書いた次第です。 もちろんちゃんちゃん☆ が、毛利小五郎氏を贔屓しているのも、執筆の理由の1つではあるんですけどね(^^;;;)とてもじゃないけど、ありえない話だし。 原作ですけど現在、とんでもない展開になってきているようで。まさか小五郎のおっちゃんが命を狙われる羽目に陥るとは・・・(T_T)ジンの言葉も気になるし。久しぶりに「コナン」アニメ録画、再開しましたわいv この続きは後日に。とりあえずこのレンタル日記が勿体ないのでここに置きますが、完結次第HPにも転載予定です。ご了承ください。
えー、このところずっと更新していない「ちゃんちゃん☆ のショート創作」を覗きに来て下さっている方々へ。 お久しぶりです。ちゃんちゃん☆ です。実は今日、ここへ大事なお知らせを書きに参りました。 本日2005年4月1日をもって、ここ「ちゃんちゃん☆ のショート創作」は削除いたします。皆様、長らくありがとうございました。 ・・・なんてね。ウソですよんvv 折角のエイプリル・フールだし、そのくらい書いても良いでしょvv とりあえずここは当分削除しません。更新はしないかもしれないけど(ーー;;;) ただ今日は、我らが愛しきキャプテン・ウソップの誕生日だと言うこともあり、こちらに久しぶりに小説を1本、UPします。 とりあえず、健全。(一応このコーナーの作品は、全部健全だって知ってます?)そのうちこっそり「来楽堂」にもUPいたしますが、よろしければ今月中DLFにしようかと。 ただ、HOMEへのリンクは各自の判断にお任せしますが、この作品がちゃんちゃん☆ 作だということだけは、明記してください。で、出来たら掲示板かメールで「持って行ったよ」とご報告していただけたら、尚嬉しいな、と。 (でもサンウソでもないのに、持って行かれる人っているのかなあ?) では。「ちゃんちゃん☆ のショート創作」初のOPSSをどうぞ。直書きだからかなりおかしな文章になるかもしれない・・・。 ************************* ☆宛名のない贈り物☆ 夜は俺様の誕生日パーティをするってんで、キッチンでサンジの手伝いをしていたら、外にいたナミに呼ばれた。 「はい」 そう言って渡されたのは、何やらボロい紙に包まれたもの。 「何だよこれ? お前から俺への誕生日プレゼント、ってわけじゃ・・・」 「ないわよ。大体、こんなボロっちい紙に包んだりすると思うの? カワイイ包装紙か、いっそのこと何も包まずに手渡すわよ、あたしなら」 「・・・だよなあ。それに他の連中だって、直接俺に渡すだろうし・・・一体何なんだ?」 「知らないわ。さっき新聞を持ってきたカモメと入れ違いに、カモメ便が来たのよ。宛名が書いてなかったからついあけちゃったけど、多分あんた宛だと思うわ」 「は? 何だそりゃ」 ちなみに、故郷からのカヤや元・ウソップ海賊団からは、誕生日にめがけての手紙をもらった。だからこの小包があいつらからのものである可能性は、低い。 首を傾げつつも、俺はナミがそっとはがしたであろうテープの跡から包みを開き───声も出せないくらい、驚嘆した。 そこに入っていたのは、潮風に侵食されないようにと油紙に何重にも包まれていた、パチンコ用のゴムだったんだ。 「・・・・・・」 ナミは笑うような、それでいて泣きそうなような、複雑な顔をしていたけど、俺様は気遣ってやれる心の余裕がなかった。 「サンジ! 悪いけど俺、1時間だけ休憩な!」 「ちょっと待て長っ鼻! てめえの誕生日パーティの準備だぞ! それを・・・」 「手伝いならあたしがするわ。1時間ウソップに休憩させてあげて、サンジくん」 「ナミさん?」 「ナミ・・・」 「これがあたしの、あんたへの誕生日プレゼントよ。何も思いつかなかったところだったから、ちょうどよかった。せいぜい感謝しなさいね?」 「・・・・・おう」 鼻をすすりながら俺様は、マストの上へと急いで登る。 ・・・こんなめでたい日に、涙なんて誰にも見られたくなかったから。 ***************** 贈られたパチンコのゴムに、俺は悪態をつく。 「・・・何だよこれ。今のパチンコには、もう短すぎるじゃねえかよ。2つ3つ結ばねえと使えねえじゃねえかよ。 ・・・いつまでも、俺が小さなガキのままのつもりで、いるんじゃねえよ・・・ろくでなし親父・・・」 便りなんてずっと、来たことがなかった。 お袋が元気だった頃も、病気になった頃も、そして───俺様があの家に1人、取り残された時も。だから「あいつ」の頭の中にはきっと、元気だったお袋と小さかった俺様が、やさしく笑ってでもいるんだろう。 どうやって俺様の所在を知ったのかは、知らない。 けれど、この贈り物をカモメに託した時、どれほどの勇気を振り絞ったのか───今の俺なら、分るような気がするんだ。 つき返されるかもしれない。 あるいはこのご時世だ、該当者不在で、帰って来る可能性だってある。 それでも、贈らずにはいられなかった者の気持ち、ってヤツが・・・。 「仕方ねえなあ・・・モノには罪はねえし、ちょうどゴムも切れ掛かっていたから、使ってやるよ。せいぜい酷使してやるからな。覚悟しやがれってんだ」 悪態をつきながら、俺は空を仰いでその人を偲んだ。 元気でいるんだな。 俺も、元気でいるぜ。 《終》
この度某所にて、こちらで発表した「茂保衛門様 快刀乱麻!」の縦書表示ものを公開することとなりました。まだ全部の編集は済んでおりませんが、どうぞよろしくお願いします。 http://www.denpan.org/book/DP-29fa-502b-1/ で、こちらの文章はと言うと、特に削除する予定はありません。ご安心くださいませ。 ところで、何でこの「茂保衛門様 快刀乱麻!」を縦書き表示することにこだわったかと言いますと、実は無断使用防止のためなんです。 「何を大げさな!」と思われるかもしれませんが、実は既に「はぐれ陰陽師」シリーズで、勝手に同人誌を作られてしまったことがありまして。・・・去ることもう3年以上前になりますか。 のっぺりも、掲示板でのカキコにてその事実が分かった時 「まあ、売れると思って作ったんだろうから、作品としては認められてるといってもいいのかもしれないけどなあ・・・」 と、半ば呆れてました。 パロディとは言え、一応はかなりの労力を使って執筆しているものですから、勝手に使われたくはないものですな。 と言うわけで、今更ながらの注意書き。 このレンタル日記にて書いている小説にも、れっきとした著作権が発生しております。筆者に無断での転載、出版等の行為は、断固お断りさせていただきます。 2005年11月29日記 ※ホントは以前のこの日付のページには、別の文章が書かれていたのですが、もう意味がないものなのでこちらの判断で、削除しました。
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