ちゃんちゃん☆のショート創作

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Darling(4)SD・流×彩?
2001年09月12日(水)

※ちゃんちゃん☆は、中学校でのバスケのルールは知りません。「スラムダンク」の原作で見知った知識だけで試合を進めているので、その辺大目に見てください(汗)。
悪者を作りたくなくって、こういう話の展開にしました。まあ、若い時には色々あるってことで。

**********************

 呆然。
 愕然。
 今、体育館を支配している空気は、まさにそういう形容が相応しい。
 バスケットの試合を見に来た誰もが、ただ1人の少年の動きに釘づけとなっていた。

「流川!」
 二階堂からのパスを受け、流川は猛然とドリブルを開始する。とっさに止めようとした1人を交わし、ゴール目指して突き進む。
「くそっ!」
 これ以上得点はさせない。そう思った相手チームの1人が、反則を覚悟で流川を止めに入るが、彼は既にシュートフォームに入っていて・・・。

 ピィイイイイイッ・・・!
 パスッ・・・。

 警告の笛が鳴り響く中、そのボールはバスケットへとすいこまれていた。

「うぉおおおおっ!バスケットカウント・ワンスローだっ!」
「これであいつ、1人で20点入れてんじゃねえか!?」
「何だよ、あの11番はよっ」

 誰もが流川のプレイに目を奪われている。その見事な点取り屋ぶりに。
 彩子はベンチで記録を取りながら、高揚しそうになる気持ちを必死でこらえていた。

───先輩抜きで勝てばいー。
───負けねーから。

 あれはこう言うことだったのだ。
 流川が言ったのは決してハッタリでは無い、頑張れば届く願いだったからこそ、あんな風に口にしたに違いない。
「すごい・・・」
 感嘆しそうになり、止まりかける手を慌てて動かす。
 そして冷静になるために、懸命に心の中で繰り返す彩子だ。

<勝てるって分かってたから・・・だから怒ったのね? 流川は。そうよ、別にあたしに気を遣ったとか、そう言う意味じゃなかったのよね。安直に物事を解決しようとしたあたしの態度に、怒ったのよね・・・そうよね・・・?>

 自惚れているな、と彩子は自分に苦笑する。ほんの少し、残念に思う気持ちはどうしようもないが。

 ちょうど今、流川がフリースローに入ろうとしている。
 多分きっちり決めるだろう、そう思って見ていた矢先、何故か流川の動作が急に止まった。
「?」
 彼の視線は、何故かゴールポストを通りすぎた、遠いところへ飛んでいる・・・。
「流川! 試合に集中しろ! 余計な事に気をとられるな!」
 が、主将・二階堂の声に我に返ったようで、すぐさまシュートフォームに入る。
 スパッ、と気持ちのいい音と共に、シュートが決まる。それを確かめた上で彩子は、流川の先ほどの視線の先を辿り・・・息を呑んだ。

 そこにいたのは、塚本だった。制服姿の。
 どこか淋しげな目でコートを見下ろしていた彼は、こちらが自分を見ていることに気付き、バツの悪そうなな笑みを浮かべる。
 そして、表情の選択に困っている彩子に向かって、口パクでこう、告げた。

 が・ん・ば・れ。

 それっきり、塚本はさっさと身を翻し、観客席から姿を消したのだった・・・。


 試合の前半が終わった。
 点差は20点。もちろん富ヶ岡中がリードしている。
 エース不在で苦戦するかと思われた試合が、こうも一方的な展開になるとは予想外だったらしく、会場はどよめきを隠しきれないでいた。
 ハーフタイム。
 彩子がみんなに、タオルとドリンクを渡している時である。
「・・・塚本の退部届けが本日、正式に受理された」
 部員全員に向かい、二階堂がいきなり爆弾発言をした。
 だがこれは、まだまだ序の口だったと言えるだろう。彼が次に口にした言葉こそ、部員たちを混乱に陥れるものだったから。

「実は・・・昨日聞いたばかりなんだが、塚本は転校したそうだ。県外の中学へ、父親の仕事の関係で」
「転校!?」
「今日、ですか? マジで!?」
 軽いパニックに陥った一同はそのうち、とんでもない事実に気がつく。
「それってつまり・・・初めから今大会には出場不可能だった、ってことじゃないですか、塚本先輩は!」
 本気かよー、無責任じゃないかー、と口々に言うのを押しのけて、二階堂は続ける。
「まあ・・・あいつも言いづらかったんだろう。俺達が勝手に期待して、『今年はいいところまで行けるかも』なんて言っていたんじゃ、な」
 ───その口調自体は極めて穏やかだったが、内容はそこそこ辛らつである。部員たちは気まずそうに、お互いの顔を見合わせるしかない。

 が、別の部員がもう1つの事実に気付き、声を荒げた。
「・・・って、おい彩子!お前、塚本さんからその話、聞いてたのか?」
「え? い、いいえ、全然・・・」
「何だよ、それー。あいつ転校の事隠して、彩子と交際するつもりだったのかよー。考えなしもイイトコじゃねえか」
「ああ! そういうことになるのか!? うわ〜、何かあちこちの街で現地妻見繕ってる、女ったらしみてー」
 下世話な言い様に彩子が言葉を返せずにいると、二階堂がわざとらしく咳払いをする。
「・・・だけど、もし転校することを前面に押し出して告白してたら、どうかな? 『転校するまでの短い期間の思い出作り』みたいで、ヤだと思うけど。よしんば彩子君がOKしたとしても、同情で付き合って『もらってる』って気分、ぬぐえないと思うよ? あいつプライド高いから、絶対そんなのはゴメンだったろうなあ・・・」

 だから、ああいう高圧的な告白しか望めなかったんだ。
 そう、遠まわしに言われたような気がする彩子である。まあ確かに、二階堂の指摘通りなのだろうが。
 どこか重苦しい気持ちになる彩子の肩を、流川が小突いたのはその時である。

「先輩、ドリンク」
「・・・あ、ゴメン」
 慌てて手の中の飲み物を手渡す彩子。二階堂の『報告』に驚いて、うっかり動作が止まってしまっていたのだ。
 流川は相当喉が渇いていたらしく、すぐさま口をつけようとしたが。
「?」
 急に思い直したようにこちらを見つめ返して来て、彩子をドギマギさせる。

「・・・気にする事、ねー」
「え?」
「予告もなしに、試合直前に抜けられるより、数段マシ」
「・・・」
「予行演習みてーなもんだったと、思えばいー」
「流川・・・」

 それからすぐに流川は視線をそらし、汗をふきつつドリンクを飲み始めたが、彩子にとってはその素っ気無さが逆に、ありがたかった。
 ・・・もしあのまま見つめられていたら、人前にも関わらず泣き出してしまいそうになったから。

 彩子はこれっぽっちも悪くない。
 告白云々のいざこざで塚本が退部したのも、今にして見れば部にとっては良かったのだ。
 エース抜きでの、エースに頼らない体制を、早くから整える事が出来たのだ。
 そう───言ってくれている様に思えたから・・・。

「・・・よし、それじゃあ後半も張り切って行くぞ! 新生・富ヶ岡中の本領発揮だ!」
 二階堂の掛け声に、部員は気合の入った返事を返したのだった。


≪続≫



JOJO小説についての誤り修正・・・(汗)
2001年09月07日(金)

小説書かないで、物置から発掘してきた原作の四部&5部初めを読みなおしていたら、とんでもない間違いが露呈。
康一が、承太郎からの電話を受け取った時に「1年ぶり」とか言ってますが、実は「2年ぶり」の誤りです。つまりこれ、第5部開始直前の話になってるわけですね。
(こう言うと、話の筋が大体見えてくるとは思うけど)
とりあえず、そう言うところは訂正いたしましたんで、ご了承下さい。
そして、話の中身でも結構記憶違いがたくさんあった事が判明。早人くん、自分の両親の事「パパ、ママ」って呼び方、してたんですね(汗)。でもまあ、あれから2年もたってるし、お母さんを支えて行ってもらいたいし、なら男らしくなってもらいましょ、と言う事で、ここはあえて直しません。確か康一も原作では、姉のことを「お姉ちゃん」って呼んでたような気もしますけど、同様の意味で無修正。
そろそろ再開しないとなあ。流×彩?の方もだけど・・・。


そして始まる日々(2)JOJO 広瀬康一 
2001年09月06日(木)

 この話でちゃんちゃん☆がもう1つ書きたかったのはどうも、第4部が終わってからの杜王町の日常だったらしいです。だから事件性はまるっきりない話になってしまって、ちょっとつまらないかも。
 本当は康一のことを、他のキャラがどんな風に見ているかを書きたかったはずなのになあ・・・難しいです。

******************

 次の日の朝、僕はいつもの通りに学校への道を急いでいた。とくに急ぐでもなく、ゆっくりとしたペースで。
「行って来まーす」
 ・・・聞き覚えのある声が、思わず僕の足を止める。
 声のした方向を振り向いた僕の目が、ちょうど角を曲がって来た、ランドセル姿の小学生のソレと、ぶつかって・・・。
「・・・早人くん・・・」
「・・・おはようございます」
 少しこわばった表情で僕に頭を下げたのは、川尻早人くんだった。

 2年前、彼はいつの間にか父親・川尻浩作を失っていた。
 事故ではない。あの吉良吉影が僕たちから身を隠すためには、別人になる必要があった。川尻氏はその標的にされてしまい、この世からこなごなに吹き飛ばされてしまったんだ。
 でも、いくら外見を繕っても他人は他人。早人くんは父親がいつの間にか違う人間になっていることに気付き、母親を守るために闘おうとした。
 彼にはスタンド能力がない。だけど、頭脳と機転で必死に戦って僕らに吉良の存在を知らせ、父親の仇を倒す事に成功した。
 でも・・・父親は帰って来るわけではなかった。
 母親が夕食を作って待ちわびている夫は、吉良が化けていたもの。本物の夫ではない。だけど早人くんにはその事実を伝える事は出来ない。
 早人くんは、父親を2度も失うと言う辛い経験をしながらも、誰にも心中を話す事が出来ずにいるんだ。
 そう、僕ら以外には。
 だけど・・・結果的とは言え川尻氏が亡くなったのは、僕らが吉良を追い詰めたせいとも言える。つまり早人くんにしてみれば、間接的な親の仇と言えなくもないのだ。
 だから僕は、彼への態度を決めかねている。

「・・・母さん、働きに出始めたんだよ」
 声をかけあぐねている僕を見かねてか、唐突に早人くんは話し出した。
「貯金とかはあって、しばらくは生活していくのには不自由しないんだけど・・・もし父さんが帰ってきた時に恥ずかしくないようにって、働くことにしたんだって」
「え・・・」
「僕もその方がいいと思ってるんだ。1人部屋の中で閉じこもって泣いている母さんを見るよりは」
「君は・・・寂しくないの?」
 思わず僕はそう言ってしまっていた。

 返事が返ってくるとは思っていなかったのか、早人くんは驚いた顔をしたけど・・・しばらくするとまた話し始めた。子供らしく、寂しさをあらわにして。
「・・・寂しくないわけないよ。学校から帰ってきたらいつも迎えてくれた母さんが、いないんだもん。だけど・・・ちょっとホッとしたのもホントなんだ」
「え?」
「1日中母さんといるとね、僕はつい本当の事を話してしまいたくなるんだ。もう父さんはいない、殺されたんだよって。・・・言って信じてもらえるわけでもないのにね・・・」
 
 それはそうだろう。スタンドが見えないのに事件の一連の事情を把握するのは、まず不可能だ。実際にスタンドに教われる事を体験した、この早人くん以外は。
「信じてもらえないけど、話してしまいたい。けど、話したら母さんが悲しむ・・・。何度も何度も考えて、胸が苦しくなって、頭がおかしくなりそうで・・・。だから、母さんが働きに出るって聞いた時、ホッとしてしまったんだ。変だよね? そんなこと。母さんの事、どんなことをしても守るって僕、あの時決めたのに。母さんを働かせてホッとしてるなんて、ひどい話だよね?」
「そんなことないよ!」
 僕は思わず叫んでいた。そのまま迷わず続ける。
「家族を亡くした人間が辛いのは当たり前の事だよ。君のお母さんもきっと、お父さんがいない寂しさを紛らわせたいって気持ちも、あったんじゃないかな? それに・・・君のためにもそうしたのかもしれないよ?」
「僕の・・・ため?」
 不安そうな早人くんの目に見つめられ、僕は一瞬たじろいたけど。でも言ったんだ。

「母親ってね、見てないようで案外子供の事をよく見てるもんなんだって。だから早人くんのお母さんも、君のことが見えていたんじゃないのかな? 理由は分からないけどお母さんの顔を、辛そうに見ている君の事を。・・・だから、君のためにも外に出る事を決心したんじゃないかな?1人の母親として、ね」

 半分はすがりつくような思い付きだった。早人くんを何とか慰めてあげたくて。
 だけど口に出して話しているうちに、僕は案外自分が真実をついているんじゃないかって、思い始めたんだ。
 子供が悲しそうな顔をしているのを見たい母親なんて、いないと思うから・・・。

 早人くんは、しばらく呆然として黙っていた。
 だけどそのうちに、ぽろぽろと涙を流し始めたんだ。
 ちょっとマズかったかな? と思ってオロオロしてたら、早人くんは涙ににじんだ声で僕にこう言ったんだ。
「ありがと・・・僕、そういう言葉を言って欲しかったみたいだ・・・誰にでもいいから・・・」
 その言葉に、僕ははっとした。
 早人くんはずっと独りぼっちだったんだ。誰かに欲しい言葉を言ってもらいたくて、だけど誰にもすがる事が出来ない、可愛そうな子供だったんだ。そしてそんな心を抱えたまま、ずっと苦しんできたんだ・・・。

「あの、さ、今度一緒に遊びに行かない?」
 ひとしきり泣いて落ち着くのを見計らって、僕は早人くんにそう言った。
「え?」
「僕だけじゃなくてさ、仗助くんとか億泰くんも一緒に。きっと気晴らしになると思うよ。言いたいことがあっても、僕らになら話しても大丈夫だし、さ」
 僕の言いたいことが分かってきたのだろう。早人くんの目に明るい光が輝き出す。
「うん! 行きたい!」
 そう答えた早人くんは、なんの曇りもない笑顔を僕に向けたのだった。



「へー、結構カッコイイこというじゃねーか、康一」
 早人くんが走り去るのを手を振って見送っていた僕に、後ろから仗助くんが声をかけて来た。
「仗助くん!? み、見てたの? やだなあ、声かけてくれたらよかったのに」
「いやー、別に盗み聞きする気はなかったんだけどよぉ・・・」
 仗助くんは少しバツの悪い顔をして、ごにょごにょと口の中で何かを言っていたけど。
「・・・・良かったじゃねーか」
 結果的には、そうとだけ言ってくれた。


(続)


Darling(3)SD・流×彩?
2001年09月05日(水)


 生徒指導室での話が終わった頃、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。学校に残っている生徒も、もうわずかである。
「もうこんな時間か・・・」
 急いで下校すべく、流川や彩子と一緒に廊下を歩いていた二階堂だったが、ふと思いついたように2人を振り返る。
「・・・そう言えば流川。彩子くんの家って、君の帰宅コースの途中なんじゃなかったっけ?良かったら彼女の事、送って行ってあげてくれないか?」
「え」
 どうしようか、と考えたのは一瞬だけ。
「あ、あの、キャプテンいいですよ。確か流川は自転車通学でしょ?2人乗りするのもどうかと思うし、自転車引かせて一緒に、って言うのももっと悪いし・・・」

 ───彩子が慌てて断ろうとしたのを見て、逆に決心が固まる。
「別にいーけど」
「そうか。助かるよ。やっぱり夜に女の子を1人で帰す、って良くないからさ」
「そんな、大げさですよ」
「こう言う時の好意は、受け取っておくもんだよ。な?頼んだよ、流川」
 何やら思わせぶりに、二階堂がこちらへ目配せをした事も、引き受けた理由の1つではあったが。


 とりあえず明るい玄関前で彩子には待っていてもらい、いったん流川は自転車を取りに自転車置き場へと向かっていた。くるくると指先で鍵を弄び、ボーッと何も考えないまま。
 が、自転車を引いて彩子のところへ戻ろうとした時、何やら騒がしい気配に眉をひそめる。
「どうして塚本さんをフったりしたんですか!?」
 そんな、怒りにも満ちた弾劾の声を耳にした瞬間、流川は走り出していた。

 状況は予想通りだった。何とか見覚えのある女子バスケ部員が、一斉に彩子へ詰め寄っている最中に、流川は到着したらしい。
「塚本さんがあんなに悲しそうにしているなんて!ひどいじゃないですか!」
「そうよ!どうして交際してあげないのよ!」
 全員、塚本の取り巻きっぽいことをしていた女子ばかりだ。彩子が言い返さないのをいいことに、かさにかかって一方的に責め立てている。
 二階堂が心配していたのは、きっとこの事に違いない。

「ちっ」
 どうして女というのは、こうもすぐツルみたがるのだろう。
 それに、立場の弱い1人を大人数でつるし上げるとは、卑怯もいいところではないか。
「おい!」
 流川は鋭く、そうとだけ言って割って入った。
「る、流川くん!?」
 突然の乱入者の存在に、今まで言いたい放題だった連中が一気にひるんだ。
「・・・流川・・・」
「遅れて悪いっす」
 言うが早いか、流川はむんず!とばかりに彩子の手を掴むと、とっととその場を抜け出してしまう。

 ───呆気にとられた一同が、予想外の、いかにも美男美女の取り合わせに大騒ぎするのは、それからしばらくしてからのことであった。


「・・・サンキュー流川。これで2回目ね、あたしのこと助けてくれたの」
 自転車を引き引き、家路を急ぐ流川に並んで歩きながら、彩子はそう、切り出した。
「何もしてねーっす」
「・・・じゃ、そういうことにしておこうっか」
 彩子は流川の無愛想さを気にした風ではなかった。それどころではない、と言う事もあるだろうが。

 ───うっとおしい女(ヒト)じゃねーんだな。

 そう、流川は漠然と感じる。
 今まで彼の周囲にいた女たち(母親除く)はみな、すぐに自分のペースに持って行こうとするのが常だった。何とかして口をきかせようとか、こうしてほしいああしてほしい、と行動を制限しようとするか・・・。
 が、彩子の場合、そういう押しつけがましいところはあまり見うけられない。正直な話寝ていない流川が、こんなに自然体で異性のそばにいられるのは、母親以来のような気がする。
 何故だろう? と考えて、その答えに思い当たった流川は、少しばかり憮然とした気分になった。

(先輩は、俺を男だって意識してねーからだ)

「どうしてなんだろ・・・どうしてこんなことになったんだろ・・・あたしは塚本先輩のこと、尊敬ならできるのに。それだけじゃ・・・どうしていけないんだろ・・・?」
 流川の心境を知ってか知らずか、彩子はいつしかそう呟き始めている。
「不思議なんだけど・・・どうしても考えつかないのよ。あたしがただ1人を応援してる姿ってものが。あたしが好きなのは、バスケットボールを追いかけてる『みんな』なんだもの・・・。ううん、ひょっとしたら、『みんなが』追いかけてるバスケットボールの方かも、知れない。ドキドキするの。ボールを掴む時の手に当たった感触。ボールが飛んで行くその方角に。・・・おかしいわよね、何だか、バスケそのものに恋してるみたいで・・・」

 流川は合点が行く。だから、あんな風に言ったのかと。

 ───あたしにとって・・・バスケは恋人みたいなものなんです。

 それは流川も同じことだ。だけど決して、自分がおかしいとは思わない。
 だから、彩子にもそう感じて欲しくはなかった。
 なのに彼女の独り言は、そのうち妙な方向へと曲がって行く。

「やっぱり・・・塚本先輩に言われた時、交際OKすれば良かったのかな・・・そうすれば、部のみんなにも迷惑かけずにすんだのかなあ・・・」
「ンなことねー!!」
 思いもかけず大きくなってしまった声に、流川は自分でも驚いていた。顔には出さなかったが。
「ご、ごめん、愚痴るつもりはなかったのよ」
 今まで無口だった後輩の反論がよほど信じられなかったらしい。どうやら彩子は「聞かせられたくもない愚痴を延々聞かされた事」で流川が怒っている、と解釈したようだ。

「そう・・・よね。流川みたいに真面目にバスケをしてる人間にして見れば、ものすごく不真面目よね、今の。もう言わないわ、安心して」
 その言葉通り、彩子は黙り込んでしまった。
 だが当然のことながら、問題が解決したわけではない。口に出さないだけ、心にためこんで苦しそうな彩子を見かねて、流川は思わず言っていた。
「・・・勝てばいー」
「え?」
「先輩抜きで勝てばいー」
「流川・・・」

 流川はゆっくりと顔を上げた。
 ちょうど同じくらいの高さにある彩子の目を真っ直ぐ見据え、流川は言う。強く。
「負けねーから」

 歩みは止まっていた。
 流川の言葉の意味をゆっくりと噛み締めた彩子は、ほんの少しだけ、泣きそうな顔になった。
 だけど、すぐに笑顔。
「・・・・ありがと」


 それから彩子を自宅まで送り届けた流川は、1人夜の道を自転車で走りながら考えていた。
 きっと彩子は、自分の言った事は単なる慰めだと思った事だろう。
 ちょっと手の届かない、誇大妄想みたいなものだと。単に彼女を励ますために口にした言葉なのだと。
 ───それでも彼女は笑ってくれた。今は・・・それだけでいい。
 流川は、そんな風に思える自分が少し不思議で、それと同じだけ誇らしかった。


(続)


そして始まる日々(1) JOJO 広瀬康一 
2001年09月04日(火)

わはは・・・☆ちょっと脱線。
PS2にて開発予定の『ジョジョの奇妙な冒険・第5部(仮)』に、ぬわんと愛しの広瀬康一が(多分チョットだけだけど)出演予定と知って、すっかりJOJO熱再発しちゃいましたわ☆(手元にコミックないのに・・・物置から発掘しないとな)
で、以前から読んでみたかった(そしてついに無かった≪涙≫)、第4部の他のキャラから見た康一、と言うのを書いてみようと思います。ただし、掟破りにも康一視点で。
むろん、いわゆる女性的な表現はなし!ですよ。
ではいざ!

*********************
 時々、『あの時』の戦いが夢だったんじゃないか、と思う事がある。
 でもあれは確かに存在した、僕らの誇りをかけた戦いだったんだ・・・。



 いつものようにボリスとの散歩を終え、汗をふきふきリビングに戻ってきた僕は、姉さんに声をかけられる。
「康一、あんたに電話よ」
「え?誰から?」
「クージョージョータローって男の人から」
 承太郎さんだ!
 僕は急いで受話器を取った。

「・・・康一くんか?」
 懐かしい声がする。2年ぶりだろうか。
「はい!お久しぶりです、承太郎さん。お元気ですか?」
「ああ。君も元気そうで何よりだ」
 あれ?承太郎さんの静かな声にかぶさって、雑踏の気配が伝わってくる。てっきり自宅から電話してるんだと思ってたけど・・・今どこにいるんだろう?
「ところで明日の放課後、時間が空いているか?」
「え?」
「・・・実は今、杜王町に向かっているところだ。明日には到着すると思う」
 ここで承太郎さんは一旦言葉を切り、思いもよらぬ事を言い出したんだ。
「君に頼みたい事がある。明日、杜王グランドホテルまで来てくれないか?」

 ・・・あの承太郎さんが僕に頼みたい事?一体どんな事なんだろう?
 彼は露伴先生とは違って、ワガママとか人を顎で使うとか、そう言った事とは無縁の人だ。よほどの事がない限り、何事も自分でやりとおすタイプだと思う。(吉良吉影を探していた時も、聞きこみみたいなことを自分でやってたし)
 その承太郎さんが、わざわざ僕を訪ねて来て僕に頼みたいことって・・・?
 疑問には思ったけど、断る理由はあまりない。できることなら、承太郎さんの期待に応えてあげたいとも思ったし。
「分かりました。じゃあ明日、何時に行けばいいですか?」
 手早く打ち合わせをし、承太郎さんは実に彼らしく、余計なことは一切喋らないまま電話を切った。


「康一・・・あんたの交友関係って、一体どうなってるわけ?」
 いつの間にか姉さんが、僕の後ろに立っていた。
 今の電話、立ち聞きされたかな?
「どうって?」
「だってあんた、高校に上がってから変な友達増えたじゃない?あの変な髪形した男のコとか」
「・・・姉さん、変な髪って言うの、絶対仗助くんの前では言わないでよ?」
 ここが家で、ホントによかったよ。友達に殴られるなんて、絶対ヤだよ僕は。
「それに、仗助くんたちのこと変な友達だなんて、ひどい事言うなあ。いい人たちだよ。優しいし」
「まあ確かに、あんたが苛められてるってわけじゃないのは確かだけど」

 ああ・・・そうか。
 姉さんは僕がイジメか何かに遭ってるかと思って、心配してくれてたわけか。
「心配してくれてありがと。でもそんなこと、全然ありえないって」
 死にかけた事なら何度かあったけど、人に言っていい話じゃないしなあ・・・。
「そ、そんなんじゃないわよ。自惚れないでよ。・・・たださ、さっきのコとかなら同級生ってコトで分かるんだけど、さっきの人なんて結構年齢、離れてたりしない?」
「承太郎さん?うーん確か28歳とか言ってたような・・・」
「でしょ?それに・・・」
 そこで何故か姉さんは、ちょっと顔を赤らめて口篭もった。
「あのステキな人とも、友達なんでしょ? 康一」

 ステキな人って・・・もしかして露伴先生のこと?そう言えば以前、母さんと一緒に露伴先生と会った時、そんなこと言ってたっけ。
 うーん、女の人ってああ言うのがステキって思うものなのか。よく分からないや。
「う、うん、まあ、そうだと思う」
 本当は『親友』呼ばわりされてるんだけど・・・言わない方がいい気がする・・・。
「だから不思議なのよ。普通、歳の離れてる人たちと友達づきあいなんてしないじゃない。一体どうやって知り合ったの?」
「・・・ま、人徳ってヤツでしょう」
 僕はそう言って、さっさと自分の部屋へ引っ込んだ。


 ───普通、歳の離れてる人たちと友達づきあいなんてしないじゃない・・・。

 そうなんだよな。
 僕はベッドの上に身体を投げ出して、姉さんのさっきのセリフを反芻した。
 これが仗助くんや億泰くんなら、学校が一緒だからまあありふれてると思う。
 だけど承太郎さんは海洋冒険家で、露伴先生はマンガ家だ。それもかなり有名な。ごくごく平凡に暮らして来た一学生が、知り合えるような人たちじゃない。
 それもこれも・・・。

『エコーズAct・1!!』

 僕の求めに応じて、久しぶりに姿を現したのは長い尻尾を持ったスタンド・エコーズ。
 それは決して普通の人間の目には見えることはない、自分の意思で動かせる守護神のようなもの。
 そして・・・これこそが、承太郎さんや露伴さんと知り合いになるきっかけを作ったものなんだ。


 ───2年前の下校中、僕は虹村形兆って人に『矢』で射抜かれた。何でもその『矢』は『スタンド』能力を引き出す道具らしいんだけど、万能じゃなかった。『スタンド』の素質がなくって、『矢』に刺されたまま死んでしまう人もいたから。
 その時の僕はと言うと・・・危うく死にかけるところだった。仗助くんが自分のスタンド、『クレイジーダイヤモンド』で治してくれたから、助かったけど。
 幸か不幸かそれから僕は『スタンド』能力に目覚め、杜王町に潜む殺人鬼を倒すべく、闘い始める事になったのだった・・・。


(不思議だよな・・・)
 あの時、『矢』に射ぬかれていなかったら、今の僕はなかった。仗助くんとはその前から友達だったけど、億泰くんや露伴先生と知り合ったのも、『スタンド』絡みだった。
 承太郎さんとは? 知り合った時期は仗助くんと同じ頃だけど、あの寡黙で孤高な雰囲気の彼と親しくなれるとは、ちょっと想像できない。
 だけど、僕らは巡り合った。そしてみんなと一緒に殺人鬼を倒し、この街を守る事が出来た。
 あの時の誇らしい気持ちは、未だに僕の心の中に生きている。
「・・・・・・」
 僕はエコーズを消して、パジャマに着替えた。ちょっと切ない気持ちになったから。


(続)



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