その時、私は布団の中にいた。 主人が隣りで本を読んでいて、私は灯りが眩しくて眠れないから早く消してくれと言っていた。 普通、地震が来る前には、何らかの気配がする。 地鳴りだったり、空気が揺れたり、他の事に特に気を取られていなければ、大体わかる。 しかし今回は、殆どいきなり揺れた。 そんな事は無い、直前に地震だと言ったと主人は主張するが、そんなのは無意味である。緊急地震速報だって、これでは役に立つまい。 結構揺れてるねえ、と最初は余裕だったのに、揺れは次第に強くなる。 台所で何かが落ちる音がして、恐怖を覚えた。 戸棚の中には、来客用の薄い湯呑み茶碗が積み上げてある。危険だと思ったが、場所を塞ぐので5個全部積み上げてしまったのだ。 あれが倒れたら、横の硝子コップや珈琲カップにも被害が及ぶだろう。 我が家には高級食器は殆ど無く、ブランド物は全て貰い物、足りない食器はどうせ普段使いだからと100均で揃えた。 それでも、勿体無くて使っていなかった食器が使わないまま砕けたら、それはそれで凹む。 食器棚の扉には、硝子が張ってある。あれが割れたら、硝子屋さんで直して貰えるのだろうか。 破壊音を聞きながら、そんな事を考えた。 「大きいな」 自然現象大好きで地震も平気な主人が、漸く起き上がった。 私は自分の人生で過去最大級の地震に、もう泣きそう。 「怖いよう怖いよう」 「大丈夫、大丈夫だよ。ほら、家具が1番少ないんだから、この部屋が1番安全なんだよ」 と主人が宥めるも、そんな事を言われたら、益々泣きそうになる。コドモか。 漸く揺れが収まった。一体どれぐらい揺れていたのだろう。兎に角永く感じられた。 「うっ、うえ、うええええ」 と泣きそうになっていると、主人に「ウルサイ。窓、開いてるよ」と言われた。 そうだ、TV見る!といきなり元気になって居間に行き、TVをつける私。地震速報で震度を確認するのが好きなんだよね……。 NHKは既に、スタジオからの放送に切り替わっていた。 震度5。やはり過去最大@我が人生。
我が家の被害は、思ったよりずっと少なかった。 食器棚の中で湯飲みが倒れ、冷蔵庫とTVの上の物が落ち、魔窟(居間の洋風押入れ)の中で小規模雪崩が起こったぐらいで済んだ。 湯呑み茶碗は倒れていたが、割れてはおらず、他の食器も無事だった。 TVの上の小さな置物は、目の縁がちょこっと欠けてしまい、変な顔になった。片目はポニョみたいにまん丸なのに、もう片目がまりもっこり……ウィンクにもなりゃしない。
暫くNHKを見てから民放に切り替えると、そちらもスタジオからで、見覚えのあるアナウンサーが地震の報告をしていた。 スタジオに向かう途中で心配そうに外に出て来る住民がいた、という事は、呼び出されたのか……ご苦労様。 でもこういう時、男性はいいよね。顔を洗うぐらいで、お化粧しなくていいんだもの。 そう言えば、男性アナウンサーの顔、一寸テカっている……? ちゃんと顔を洗ったのかしら。 他の民放では、アナウンサーの顔が、何だか斑だった。もしかして、アルコール飲んで寝ていた所を起こされたのかなあ。気の毒……。
地震で興奮してしまったが、警戒していた余震も無いし、明日の仕事もあるので、いつまでも起きている訳には行かない。 「僕の実家の被害も気になるけれど、今電話する訳には行かないからな。明日にしよう」 「あら貴方、こないだの地震の時、私には、すぐに電話して来たのに〜」 「だって、シオンが家に1人で泣いているかと思って」 ……それは、私を心配してくれたって事だと思っていいのかな。
何となく。 押入れの中に放置していた大きな瓶を引っ張り出した。 中の液体は黒に近い色になっている。 大丈夫か?コレ。
中身は何だったのか、覚えていない。 主人によると、花梨だとか。そうだっけ? 私はてっきり杏だと記憶していたのだが、よくある思い違いか。 6年前だったか、私の母が、梅酒を2瓶送ってくれたのだ。 果実酒用の大きな瓶だが、1瓶空けたところで、さてどうしようかとなった。 自分で梅酒を造る? 子供の頃から、母が梅酒を作る所を見ていたが、綺麗に水洗いしてぽちぽち穴を開けて、結構手間がかかったような気がする。 「花梨か杏なんてどう?」 と主人が言った。主人は飲まないのだが。 じゃあそれにする。 で、主人の親がこちらに来る序でに、買って来てくれたのだった。 2袋貰ったものの、1袋は傷んでいたので、無事な方で漬けたのだった。 傷んでいた袋は放置して、虫を湧かせたんだっけ。 という事は、5年前に作った果実酒か。(こういう時に日記は便利だ)
どうやって作ったのか既に覚えていないが、記念すべき私の初自作果実酒である。 1年経ったところで試してみたが、不味かったので、そのまま永き放置プレイに入ったのだった。そして今に至る。 並々と液体が入った瓶が重かったので、主人に頼んでコップに注いで貰った。 早速零していた。下手糞が! 酒の一滴は命の一滴だ。それを判らぬ下戸には、もう頼まぬ。 味見をしてみた。 「これは……」 なかなかいけるではないか。 飲み頃かと思うぞ。
もう少し甘くてもいいかなと思ったので、数年前に作って1年後に不味かったので下手に氷砂糖を足して甘くし過ぎてしまったお酒(「時間が味をつくる」シリーズ。サボリとかいうハーブが不味い素だと思ったので、これは途中で除いた。最初に捨てておけば良かった)をちろりと足して、飲んでみた。 いいよいいよー! 甘くて美味しい。食事には合わないが、実に私好みだ。 砂糖の入れ過ぎで失敗したお酒も、無駄にせずに済む。 小正の梅酒@一升瓶亡き今、暫くこれで行こう。 大事に飲んで来た母の梅酒2瓶目もそろそろ無くなるし、瓶が空いたらまた自分で作ろうかな。
問題は、瓶の底に残った実。 これだけで食べるにはお酒がきついし、捨てるのは勿体無いし、どうしたら良いのだろう……。
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