主人が仕事で余ったお茶を、1ダースほど持ち帰った。 お茶といっても、ペットボトル入りではなく、小さな紙パック入りなので、量は多くない。 ワーイと言って、飲んでみた。 「……何か、変な匂いがしない?」 「うん。貰って来たものの、僕は美味しくないと思った」 そんな物、貰って来るな! 「味じゃなくて、匂いがさ、身体に悪い匂いがする。飲んでウェッとなるの。何かしら、これ」 我慢して1パック飲んでみたが、やはり駄目だった。 「う……気持ち悪い」 「無理するなシオン。多分、紙パックの蝋の匂いじゃないかなあ」 私の気のせいではないようなので、販売元に電話してみる事にした。
どこの店で買った物かわからないので、製造元に電話すると、担当者がすっ飛んで来た。 残ったパックを差し出して、事情を説明した。購入元については、貰い物だからわからないと濁しておいた。 担当者は平身低頭して、検査に回して、結果が出次第電話すると告げると、お茶を持って帰って行った。
1週間後、結果報告の電話があった。 結果:異常無し。 「えっ? 本当ですか」 と思わず言ってしまった。 「それで、飲んで御覧になりましたか?」 と訊くと、特に何とも無かったと言う。本当なの? 吐きそうになるほどの変な匂いがしたのに、検査で以上が無かったのなら、私の通報は無駄だったのだ。 担当者と検査役の手間を考えると、非常に申し訳無い。 万一異常があって、他の消費者に何かあったら大変だと思って電話したのだが、異常が無かったなら、どうせ貰い物なんだし、棄ててしまえば良かったのだ。 今となっては結果論なのだけれど。 先日と同じ担当者は、これからお詫びの品を持って伺います、と言ったが、とんでもない。 私はお詫びの品を欲しくて電話したのではないし、却って手間をかけさせて悪かった、だから持って来なくていいと言ったのだが、向こうは何が何でも来るという雰囲気である。
30分後、担当者がやって来た。 ひとまず、私も謝った。無駄足を踏ませて申し訳なかったと。 担当者は、それでも商品に異常があっては大変なので、何かあったら電話を貰える方が良いのだと言っていた。確かに、万が一の事があって被害が広がるよりは、そうなのかも知れない。 そして、 「これはほんのお詫びです。どうぞお納め下さい」 と、箱を差し出した。 まるで私がクレーマーみたいだし、貰うのも悪いので断ったのだが、何が何でも置いて行くという雰囲気である。 貰ってしまったが、担当者が帰ってから箱を開けると、中身は箱一杯の同製品……。 到底飲む気になれないので、翌日、主人に職場に持って行って貰った。
余りのショックで、言葉も無い。
お気に入りの店が潰れた。 経済的な事情もあり、そんなにしょっちゅう外食する訳ではないが、この土地に来て数年、我々にとってお気に入りの店が幾つか出来た。 お酒(果物味のチューハイ)の美味しい創作料理店、中国茶屋、そして印度料理店。 辛い物は苦手だが、ここの南瓜カレーは絶品だった。 豆カレーも、タンドリーチキン(これは辛いが、表面の辛味は主人に取って貰ってから、食べていた)も、ナンも、全てが本格的で、非常に美味しかった。 田舎でこんなに美味しい本格印度料理が食べられるなんて、そうそう無いよ、と主人も言っていた。 遊びに来た妹も連れて行ったところ、非常に気に入って、今度来た時にはまたこのお店に来るんだ〜♪と言っていた。
それなのに。 今日、前を通りがかったら、看板が消えていたのだ。 確かに暫く前から、不穏な気配はあった。 料理店で矢鱈メニューの品数やサービスが増えると、大抵その店は危ないとうちの主人は言う。
経営悪化 ↓ 客足の増加&客層の拡大を狙って品数やサービスを増やす ↓ 味の質が落ちて客足が遠のく ↓ 益々経営悪化
という悪循環になるらしい。 本当かどうか私は知らぬが、経済を専攻したって人が言うんだから、そうなんだろう。 その料理店も、暫く前からバイキング・メニューを出していたのだ。 一応それも食べてみたが、味は落ちていた。 安く上げるためには仕方なかったのだろうが、ファンとしてはがっかりだった。 普通のメニューも食べたが、そちらは相変わらず美味しかったのに。
そんな事があったので、嗚呼この店もそろそろ危ないんだろうか、と思っていたら、これだ。 妹にメールすると、 「だからもっと頻繁に通って、私が行くまで潰さずにおいてって言ったでしょ!」 と返事が来た。 うう、そんなに怒らないでよ。 お姉ちゃんだって悲しいんだからさ。 もう食べられないとわかると、益々食べたくなるこの苦しさ。 もっと足繁く通っておけば良かった〜!
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