スーパーマーケットで買い物をしていると、どこかの子供がキャーっと言って騒いでいた。 子供が巫山けるのはよくある事だが、その子は、絶叫に近い叫び声を上げるのだ。 大声を出す事を楽しんでいるのか、それとも母親の「やめなさい」という注意に反抗するのを楽しんでいるのか、それは判らない。 しかし子供の叫び声は、遠慮が無い。 そして耳に突き刺さる。 1度目は我慢した。 2度目も何とか我慢した。 赤ん坊なら兎も角、その子の背丈は小学校1年前後には見えた。 知恵遅れでもなさそうだし、充分に人語を理解出来ると思われる。 (言葉を喋れない赤ん坊でさえ、ベビーサインで意思の疎通が出来る事はよく知られている) 周囲の冷たい視線が集中する中、母親はやはり「やめなさい」としか言わぬ。 何故、もっと強く言って止めさせない? 他の買い物客が迷惑しているのに、気付かないのか? そして、私の真後ろで3度目の絶叫が上がった時、 堪忍袋の緒が切れ、私は反射的に怒鳴っていた。
「煩い!」 周囲が水を打ったように静まり返り、後ろを向いているのに、今度は私が注目されているのが判った。(笑)。 ゆっくり振り向くと、吃驚した顔の子供が、私を見上げていた。 私はしっかりと子供の目を見て、静かにこう言った。 無表情で。 「静かにしなさい。お店で騒いじゃいけないの。皆に迷惑でしょ」 そして目当ての品物を籠に入れ、立ち去った。 後ろで子供が静かに泣き出し、母親が、 「だからやめなさいって言ったでしょ」 と言うのが聞こえた。
他の売り場も回って、レジに向かったところで、先ほどの親子と出くわした。 母親が頭を下げて、 「先ほどは有難うございました」 と言ったので、私も 「いえ、こちらこそ失礼しました」 と、軽く頭を下げておいた。 後ろの子供は、まだ涙をポロポロ流してしゃくり上げながら、恨めしげに私を見ていたのだった。 いきなり怒鳴って吃驚させたのは悪かったかな、と一寸だけ思った。 けどその前に、母親に止めて欲しかったかなー。
帰宅して主人にその話をすると、 「良かったね。逆切れされて刺されなくて!」 と笑っていた。 貴方ならどういう対応をする?と私が訊くと、 「どうもしない。我慢する」 との回答だった。やはりな。 でも私は我慢が出来ない性質なのよ。
着物を着て出かけた帰り、スーパーに寄った時の出来事。
買い物を済ませて駐車場に戻ると、 「すみませーん」 と、声をかけられた。 振り向くと、見知らぬ男性が車の助手席の窓から顔を出していた。 ワゴンタイプというのだろうか、箱型の大きな車の中には、背広姿のおじさん達が数人乗っている。 「この近くに、料亭はありますか?」 と訊かれた。 料亭……行った事無いから知らないんだけれど(汗)。 大きい車に大勢で乗っているって言う事は、お仕事なのかしら。 この土地の人じゃないのかも知れない。 そうすると、一応ここの住民として、知っている情報は与えないといけないと言う気持ちになった。 「ええと、この辺じゃなくて、駅の辺りか、橋を渡った街中にならあると思いますが」 知らないので、どんなに頑張ってもこれ以上の事は言えなかった。 主人なら職場で行くから知っていそうだけれど、私は料亭なんて縁が無いんだもん。 相手は一寸がっかりしたようだったが、 「じゃあ、そっちの方に行ってみます。有難うございました」 と走り去った。
何で私に訊いて来たんだろうと不思議だったが、主人にその話をすると、彼はこう断言した。 「あははは、それは料亭の人と間違われたんだよ。だってシオン、着物着てたんでしょ」 そ、そうだったのか! 確かに私が着ていたのは、料亭勤務と思われかねないような、地味な色合いの紬だった。 しかも殆ど無地。 習い事の先生(推定70歳前後)をして、 「随分地味な着物ねえ。そんなの私だって着ないわよ〜」 と言わしめたほどである。 好きなんだけどなあ、この紬の着物。汚しても目立たなさそうな色だし(オイ)。 着る時は、帯を選ぼうと思った出来事であった。
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