我が家では、電気ポットを使っていない。 お湯は薬缶で沸かして、魔法瓶に入れておく。
いつもは魔法瓶の中身が軽くなったら、お湯を沸かして注ぎ足すのだが、今日は魔法瓶の中が全くの空っぽだった。 そうだ、いい事考えた。 魔法瓶いっぱいの水を汲んで、それを薬缶に移して、火にかけた。
お湯が沸いたので、魔法瓶に移し替えた。 あれ? おかしいぞ。 「シオン、溢れてるよ!」 見ていたダーリンが声をかけた。 「火傷しなかった?」 「うん、かかっていないから大丈夫」 「どうしたの、そんなにお湯を溢れさせて。とうとう呆けた?」 失礼な。 「溢れているのは判ってたの! でもね、予め水の量を量った筈なのに」 そこで、あっと思った。 「ねえ! 水って温まると膨張する?」 「……シオン、義務教育受けた? 戦前生まれ? もしかして、呆け以前の問題?」 「……」 もう、何も言えなかった。
そう言えば、燗につけた日本酒も膨張するんだった。 うちの父が、徳利一杯にお酒を注いで、燗につけたら「零れた!」と騒いで母に馬鹿にされていた記憶が蘇った。 ……遺伝?
金曜の夜は夜更かし。 空耳好きの主人が「タモリ倶楽部」を見るからである。
鬼束ちひろが「僕らの音楽」に出演していた。 レコード会社と契約上のゴタゴタがあって、暫く現場から遠ざかっていたと聞いたが、復帰したのか。 私はこの人の音楽はそんなに好きではないが、この人はドキッとするような歌詞を書く。 主人が言うには、「彼女の歌は、シオンの心象風景と重なる」んだそうで。しんしょうふうけいって何? 彼女が消えた時頻りに惜しい惜しいと言っていた主人は、番組を見て、おお復帰か!と喜んでいたが、
歌が酷かった。
歌唱力が驚くほど落ちていたのである。 森昌子も吃驚だよ。 隠居している間、本当に歌っていなかったんだなーと思った。 「勿体無いなあ……」 と主人はがっかりしていたが、私もがっかりだ。 プロとして舞台に立つからには、聴くに堪え得るレベルまで戻しておいて欲しかった。
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