私が通っている総合病院の待合室は、診療科目毎に分かれておらず、色々な科を受診する患者が1箇所に集められている。 そこで、一組の夫婦を見掛けた。 年の頃は、多分ご亭主が70歳代、奥さんが60歳代ではないかと思われる。(他人の年齢を推測するのは、非常に苦手だ。元々人間に対する興味が薄いので) 私は持参した文庫本を読むのに熱中していたのだが、奥さんの声が余りに大きくて耳障りなので、顔を上げた。 太った奥さんは、隣に座った亭主に 「ほら、いつまでもお菓子持っていないで、さっさと仕舞って! もたもたしない!」 と大声で言っている。殆ど、怒鳴っているに近い。 白髪がぽやぽやと残った禿頭のご亭主だが、そんなに耳が遠いのだろうか。 それなら耳元で話せば良いものを、具合の悪い患者もいるであろう病院の待合室で大声を出すとは、何と迷惑な。 眉間に皺を寄せて見ている私に目もくれず、奥さんは尚も亭主を叱る。 見れば、ご亭主の細い腕は、ぷるぷる震えている。 脳外科の患者だろうか。 だとすれば、動作がもたもたするのは仕方ない事なのに……と思ってみていたが、奥さんは怒りっ放し。 怒っても、どうにかなるものでもないのだが。 確かに健康体からすれば、病人がもたもたするのは、もどかしくて苛々するのだろうが、余りに愛が無さ過ぎる。 見兼ねた看護婦さんが、 「奥さん、もう少し旦那さんに優しくして上げてね」 と声をかけていたほどである。 暫くすると受付番号を呼ばれて、その夫婦は診察室に入って行ったが(やはり脳外科だった)、小さい歩幅でよろよろと歩くご亭主に手を貸すどころか、奥さんは後ろから、まるで汚い物に触れるかのように、指で「早く行け」とばかりに突付いていたのだった。
……あんまりだよ(涙)。
夫婦の事は本人達にしかわからぬものだが、ああはなりたくないと思った。 夜、帰宅した主人にその話をし、 「私はなるべく(←絶対じゃないのかよ)、貴方がヨイヨイになっても大事にするからね」 と決意表明をしたのだった。 すると彼はこう言うのだった。 「そうだねえ。シオンが寝たきりになったら、僕は下の世話も何でもしてあげるつもりだけれど、逆の立場だと、おしめの交換は3日に1度ね!とか言われそうだなあ」 「流石にそこまではしたくないけれど、未来の事はわからないから、私より先に寝付いたり呆けたりしないでね。それに、もっと痩せてくれないと介護も出来やしないわよ」 いやホントに切実ですよ、そのお腹。
私が細々とウェブ日記を書いていると言う事を、主人は知っている。 興味も無いようだし、見せてと言われた事も無いので、彼にはURLどころか内容も教えていない。 いちいち検閲が入らない方が、私も気楽に思う存分書けるし。 見せたら怒られそうな事も、沢山書いてあるしな(笑)。
ある日、彼にこう訊かれた。 「シオンは、掲示板は付けていないの?」 「付けないよ〜。お返事付けるのが面倒臭いもん☆」 「そうだな、シオンは面倒臭がりだからな……」 そう言えば、彼はその昔、自分のサイトを持っていたのだった。 結婚してからすぐに、趣味より奥さんの方が大事だからと言って閉じてしまったっけ。 私は別に続けてもいいよと言ったのだけれど、PCに向かっているより、シオンと話している方が楽しいと言ってくれた。 それが今では、鬱陶しがられているような気がするが。 「貴方は掲示板を持っていたよね。管理が大変じゃなかった? どう返事していいのか困るような書き込みとかさ」 「ああ、そういうのあるある。適当にコメント付けたけれどね」 「それよ。私はその適当というのが苦手なの。宣伝コメントの削除とか、管理も大変だし、だから掲示板は付けないのよ。掲示板って、メールよりも塀と言うか、ハードルが低いでしょ? こう言っては悪いけれど、しょうもない書き込みの返事に費やす労力と時間があったら、私は自分の好きな文章を綴る方にそれを注ぎたいなあ。メールを貰う分には一向に構わないのよ。それだけ私に何か言いたい事があるという事なのだから、それは嬉しいし、ちゃんとお返事するもん。尤も偶にしか来ないけれどさ。それに掲示板って、どうしても管理人と同じ考えの人ばっかり集まっちゃうじゃない。類は友を呼んで、排他的になる、それが好きじゃないのよ」 と私が言うと、彼はプッと笑った。 「何よ」 「いや、だってシオンは、『私と違う考えの人間は許さなくてよキィ!』な人間なのに、そんな事を言うなんて」 なんかムカついた。
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