今年は暖冬で、もう雪掻きする事も無いかと思っていたが、昨夜から降り続いた雪がこんもり積もっていた。 「もう雪は終わりかと思ったのになあ」 出勤なのに……と愚痴る主人に、 「鼬の最後っ屁みたいね」 と言うと、シオンは喩えが汚いと言われた。 じゃあ何と言えば?
雪掻きをすると指の痛みがぶり返しそうなので、私は肉体労働を出来ない身。 ここで、屋敷しもべ妖精出動である。 妹に雪掻きをさせ、私は家の中の片付けと掃除。 「ドビーが来る前は、ずっと暖かかったのにねえ。お前が来ると雪が降るよね。雪女?」 「いいよ、どうせ私は下っ端だし。おうち(実家)に帰っても雪掻き要員だもん」 と己の運命を受け入れて、ドビーは外に出て行った。
それぞれの仕事が一段落着いてお茶を飲んでいると、ドビーがプンスカして言った。 「近所の斉藤さん(仮名)とこ、いっつもおじさんが雪掻きしてるんだよ。あそこの家、息子と大きい孫2人もいるのに、最年長のおじさんに雪掻きさせるってどうなの?」 斉藤家は、老夫婦と、息子夫婦とその子供達という家族構成である。 そして息子の嫁は離婚して出て行ったので、今の嫁は新しい嫁である。 「そりゃイカンね。大体あの家はなってないよ。おじさんもおばさんもいい人だけどさ、あすこは子育てに失敗したね。同居しているけれど、おばさんはお金の事でうちのお母さんに愚痴っていたらしいよ」 「へえ、どんなの?」 と体を乗り出す妹。 「息子家族はうちに少ししかお金を入れない、って。でもそんなの、ちゃんと2世帯で話し合って決めればいい事じゃん。他所の人に愚痴を言うなんておかしいよ。まああれだ、息子を下手に可愛がって駄目にしたってパターンじゃないかな」 「息子と言えば、うちに年賀状だけれど、結婚しました葉書送って来たの見て、ドン引きしたよ」 「うわ……そりゃ引くわ。いい歳こいて再婚で『結婚しました』葉書かよ。お嫁さんも、よくあんな大きい子供のいる家しかも両親と同居って悪条件の男と結婚しようなんて気になったよね」 「それがね、離婚後すぐの再婚だったから、お母さんは『前の奥さんがいた頃から浮気していたんじゃないの?』って言ってた」 恐るべし母の慧眼……当たっていればだけれど。 少なくとも、うちは老人に肉体労働を強いないようにしようと思った。 他所に何言われるかわからないし。
私と妹ドビーは、歳が離れている。 なので、私にとってドビーは、妹というよりも玩具であった。 一方、妹にとっての私は、何でも知っていて勉強も教えてくれる、自慢の姉だったらしい……歳が離れていればそれだけ長生きしているという事で、妹が知らない事を知っていて当たり前なのだが。 だから、うちのお姉ちゃんは学校の成績も優秀!と信じ込んでいたのだな。恐るべき誤解。
そんな、お姉ちゃん大好きの屋敷しもべ妖精だが、こいつはいつも、寒そうな格好でやって来る。 ここはお前の住んでいる所よりも寒いんだから、もっと暖かい服を着て来なさいと言っているのだが、お洒落優先な年頃なのか。 今回も例に漏れず、上はババシャツに薄手のセーターだけという服装だったので、ババシャツの上にこれを着ておきなさいと言って、タートルネックのカットソーを渡してやった。 これは私が縫った物で、一寸首周りが狭い。 もっと伸ばしながら縫うべきだったなあと、作り終わってから思ったのだが、首がぎりぎり入る程度である。 ところが。 「お姉ちゃん、頭が通らない〜」 「先にこれを被りな。摩擦が少なくなって、着易くなるから」 とスカーフを渡したが、それでも頭がなかなか出て来ない。 「うわーん」 「頑張れ、もう一寸だ!」 と応援したが、私は気付いてしまった。 黒いスカーフを被った丸い頭が、タートルネックの丸い穴から覗いている。 こ、これは……。 「わははは! お前のその格好、今まさに肛門から出ようと頑張っているウンコみたいだ! 写真に撮ってもいいよね? 一寸待ってて、今デジカメ持って来るわ」 と私が鞄を取りに行こうとしたところ、妹は激しく抵抗。 「駄目! 絶対駄目!! それより何とかしてよう〜」 格闘の末、妹の頭は何とかタートルネックから生まれて来たのだった。 「おめでとう。大変な難産だったね」 と私が言うと、妹は真っ赤な顔して憤慨していた。 「酷いよお姉ちゃん、人をウンコ扱いして! 大体何でこんなに首周りの狭いの作ったのさ!」 「確かに狭いけれど、私はそんなに苦しむほど……あ、そうか。背格好は同じぐらいだと思っていたけれど、ドビーの方が私よりも頭が大きいんだ」 うんこ扱いされた上に顔がでかいと言われ、益々顔を赤くしてキィ〜となる妹であった。
こんなに酷い扱いを受けても、私は妹のヒーローらしい。 小さい頃に可愛がっておくと、屋敷しもべ妖精はよく懐く。
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