「これが世界のスーパードクター」という番組を見た。 こういう最前線で働く医者は大変だなあ。 名誉もあるが、同時に大きな責任があるもの。
主人は、頭が良い。 少なくとも私はそう思っているので、訊いてみた。 「ねえ、貴方ぐらい頭が良ければ、医学部なんて余裕で行けたんじゃない? 何故行かなかったの」 「んー、人が痛がっているのを見るのが嫌なんだよね。血も嫌いだし」 ……詰まらんのう。 「それに、」 と彼は続けた。 「うちの親が言ったんだ。『医者や裁判官といった、他人様の生き死にに関わるような仕事に就くなら、それなりの覚悟をしろ』って」 ……それは、重い言葉だなあ。 確かに半端な気持ちで医者になられたら、患者は堪ったものではない。 勉強が出来る子供は取り敢えず医学部に、と考える愚かな親や教師がいるが、そういう人達に聞いて欲しい言葉だと思った。 しかしそれと同時に、こうも思った。 「なるほどつまり、貴方にはそれだけの覚悟が無かったって事か」 「うん、そう♪ 他人の命に責任なんて、怖くて持てないや。僕はシオンだけでイッパイイッパイだよ」 うむう。
番組に登場した医師の1人で、福島孝徳という脳外科医が印象的だった。 この人の手術は、「鍵穴手術」という手法を用いるもので、手術による傷口が小さい分、患者への負担が少ないという。 確かに医療技術は素晴らしい。 しかし人格的にというか性格的に、「うわーこんな人と一緒に仕事したくないわあ」と思ってしまった。 手術が終わって、スタッフと一緒に飲みに行く場面があったのだが、ここでもDr.福島オン・ステージ。 「全てはねえ、キーの穴、鍵穴なんだよ」 長広舌で鍵穴手術を自画自賛する福島氏に、箸も動かさずにじっと俯くスタッフ。 そして、食卓の上で放置される河豚刺し……。 「ああ〜勿体ねえなあ! 折角の河豚刺しが乾いちまうよっ」 「ああいうジジイは『そうですよね〜、先生は凄いですよ!』と適当に持ち上げとけばいいんだから、スタッフも『ほらほら、河豚が乾く前に食べちゃいますね』ってさっさと食べちまえばいいのに」 と、遊びに来ている妹と盛り上がっていると、主人がこう言った。 「誰かさ、5mm程度の穴の開いた紙を、『さ、先生、この穴からどうぞ』って言って、この人の前に出してやればいいんだよ。『おっ、難しいな。しかしこれが鍵穴の極意! あっ河豚が穴に引っ掛かって取れないぞ?』と1人でやって貰えばいいのさ。そしたらこいつも、ああ鍵穴が全てじゃないんだって、自分の愚かさに気付くだろうよ」 どうしてこの人は、こういう事を思い付くのだろう……。 勿論、私と妹は腹の皮が捩れるほど大笑いしたのだった。
「ところで、脳外科医ってどうしてこういう、俺が俺がって自己顕示欲の強い人が多いんだろ」 と妹。 友人の医学生のところの脳外科の教授もこんな感じの、俺様タイプなのだという。 その教授の目下の望みはテレビ朝日の「本当は怖い家庭の医学」に解説役の医者として登場する事なのだが、未だ叶っていない。 そして、「福島さえいなければもっと俺様が脚光を浴びるのに」と思っているらしい。 色々な逸話のある人で、周囲からはアスペルガーの疑いを掛けられているという。 俺様だから脳外科を選ぶのか、脳外科医をやっているうちに俺様になってしまうのか、それは謎である。
屋敷しもべ妖精がやって来たので、早速おニューの鞄を見せびらかす。 「凄い、本当に買ったんだ……。お義兄さん、優しいなあ」 と私の前では言っていた妹ドビー。 ところが主人の前では 「お義兄さん、お姉ちゃんを甘やかし過ぎですよ〜」 と来たもんだ。 それに対する主人の答え。 「まあ、世界で1人ぐらいはシオンに優しくしてやってもいいかなと」 「1人だけかよ!」 妹、大笑い。
朝、頭が痛くて起きられなかった。 出勤する主人を、布団の中からお見送り〜。 頭痛が治まった9時頃、漸く起きたのだった。 その晩、夕食の時に、妹に言われた。 「お姉ちゃんって、いい暮らししてるよねえ」 「何それ、どういう事さ」 と訊くと、 「だってー、朝ゆっくりしててもいいし、あんな高い鞄買って貰えるし、子供もいないし仕事もしていないのに、いい生活だなあと思って」 つまりニートって事か? すると間髪入れずに、主人が言った。 「僕もそう思うよ」 ぶはあ。そう来たかっ。 私も妹も大笑い。 「でもさ、家の中の事はちゃんとやってくれるし、まあ偶にはご褒美もやらないとね」 家の事……してるかなあ。 と一寸考える私の横で、 「でも私がいると、家の事半分しかやらないよね、お姉ちゃん」 とブツブツ言う妹であった。
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