| 2006年10月01日(日) |
人生の墓場へようこそ |
平均初婚年齢が高くなり、出生数は下がっている中、若者の結婚に対する意識調査結果というのをTVでやっていた。 恋人がいなくても別にいいし、恋人がいても結婚はしたくない、という意見が最近は多いらしい。 私はちらりと見ただけだが、結婚したくない理由の上位に来たのが、「結婚すると自由が無くなる」「相手に拘束される」などだった。 「ええー? 好きな人と一緒にいたいという気持ちより、自分の自由の方が優先されるものなの?」 と驚いて、私ははっとした。 「ねえねえ、もしかして貴方も、結婚してから自由がなくなったと思ってる? 独身の方が良かった?」 と主人に訊くと、彼は首を振った。 「ううん、今の方がいい。確かに自分の時間は無くなったけれど、それが惜しいとは思わないよ」 そう言われて、私はほっとした。 「ああ良かった。でも世間の独身者って、そんなに自由気儘に暮らしているものなのかしら。私は今の方が断然自由なんだけれど。独身の頃はずっと実家にいたから、夜更かしもぐうたらも出来なかったんだもん。結婚してから自由を手に入れた!って感じだわ。昼間の時間は私の時間だし、貴方のお蔭で自由を満喫しています」 「まあ、シオンはそうかもね」 色んな意味で今は自由だし、今までの人生で多分1番幸せだ。 結婚は人生の墓場だとよく言うけれど、多少の自由を失っても、得るものの方がずっと多いと思う。
主人が知り合いに頼まれたと言って演奏会の切符を買って来たので、午後から2人で出かける事にしていた。 バイオリン奏者は聞いた事が無い名前だが、ピアノの方は私でさえ知っている超有名世界的ピアニストの姉妹だそうで。 でも苗字が同じって事は、結構なお歳なのに未婚なのか、それとも芸名なのかしら……などとどうでもいい事を考えてしまった。
全席自由だし早目に行こうと、食事をしてすぐに車に乗り込んだが、何だか気分が優れない。 香水の匂いが気になって、胃の辺りがムカムカする。 先日買って貰ったばかりの香水を、今日は指に力が入り過ぎて大きく一噴きしてしまったのか。 会場に着いたらトイレで落とそうと思って、車中ずっと我慢していたが、口の中にどんどん、酸っぱい唾液が溜まって行く。 まずい、これは嘔吐の前兆だ。 「ごめん、具合悪いから先に行ってるわ」 会場前で車を停め、小走りでトイレに駆け込む。 濡らしたハンカチで香水を拭き取ると、幾らか匂いが取れたようで、少し楽になった気がした。 「大丈夫? 具合悪かったら帰ろうか」 ダーリンが心配してくれたが、 「大丈夫、もう治ったから」 と言って、ピアノの鍵盤が見える位置を探して座った。
しかし、鍵盤なんて見えなくても関係無かったのだ。 演奏会が始まって暫くすると、再び溢れるほどに唾が出て来るではないか。 治ったと思ったのは気のせいで、私は猛烈な吐き気と戦いながら、バイオリン・ソナタを聴く破目になった。 口の中は唾液で飽和状態である。 「何か悲しい事でも考えて、気を紛らわせるのよ、例えば……そう、戦争とか飢えた人々とか病気の子供とか」 ブリー・バン=デ=カンプの言葉を思い出すも、今の私には、演奏会の最中に客席で戻すという失態を仕出かす以外、悲しい事などあるだろうか、いや無い。(反語) バスの中ではないので、勿論エチケット袋など持っていないし、持っていたとしても客席で吐くのは如何なものか。 これは非常事態である。この場で席を立っても、緊急避難で許されるのではないか。 しかし常日頃、他の聴衆の態度が怪しからんと散々言っている私が中座するのでは、他人にとって顰蹙だ。それでは私が私を許せない。 だからと言ってここで戻したら、それこそ顰蹙なのだが。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、休憩時間まで私は生き抜いた。
ふらふらになってトイレから出て来ると、ロビーで主人が待っていた。 「さっきそこで、僕が券を買った先生に会ってさ、『大きくなったわね〜横に』って言われちゃった☆」 胃の中を空にしたら楽になって、そんな話にも一緒に笑えるぐらいには回復したので、結局演奏会は最後まで聴く事が出来た。 やっと音楽に耳を傾ける余裕が出来たのだが、バイオリンはボロボロだった。 主人がその先生から聞いた話では、どうやら今日は調子が悪かったそうで。私はてっきり、もう年齢的に駄目なんではと思ったのだが。 しかしピアノは流石だった。 どうせなら、最初からちゃんと聴きたかったが、粗相をしなかっただけでも良かったと思うべきだろう。
帰りに寄ったスーパーで再び具合が悪くなり、結局その日は3度吐いたのだった。 原因はどうやら、今朝の栗御飯だったらしい。主人はコーンフレークを選択したので、難を逃れたのだった。 昨日の朝炊いたものだが、暫く常温放置してしまったのが敗因だったか……混ぜ御飯系は、やはり危険である。
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