主人は犬が大好きだ。 しかし転勤族で、今はペット不可のアパート暮らし。 幾ら好きでも飼える環境ではない。 実家で飼っていた犬も死んでしまい、寂しい日々を送っている。
結婚1年目のとある休日、 「ペット屋に行こう」 と彼に言われた。 何しに? 金魚でも飼うつもりか? 世話は誰が?と思ったが、彼は犬を見たかったらしい。 彼にとっての無料の癒し空間、それがペット屋。
今日も買い物序でに、ペット屋に寄った。 休日という事もあるのだろう、人だかりが出来ている。 「可愛いなあ〜」 犬コーナーで、彼は早速メロメロである。 周囲の人々も、口々に可愛いと連発している。 「いいなあ犬は、皆に可愛いって言われて」 何故か彼が僻みっぽい事を言うので、 「あら、貴方も可愛いわよ」 と言って頭を撫でてやると、周囲の視線を感じた……変な人と思われたに違いない。 「シオン、変だよ」 と照れ隠しで彼は言うが、別に気にしなーい。 どうせ知らない人ばっかりだし。(仮令知人がいたとしても私は気にしないけれど)
パグを見て 「うわー、変な顔〜。しかも不細工の癖に値段高いし!」 と驚く私に、 「何を言うか。そこが可愛いんだよ」 と反論するパグ好きの彼。 「パグもブルドッグも可愛くないわよ。私はミニチュアダックスがいいなあ。ポメラニアンもかわええ〜毛糸玉みたいだ」 「ポメラニアンは煩いから駄目。すぐ噛み付くし歯が鋭いから痛いし。あっほら、ミニチュア・シュナウツァーだよ。昔飼ってた犬にそっくりだ。軍用犬だから賢いんだよ」 と彼は私の知らない薀蓄を披露するが、幾ら賢くとも私はあの犬種は好きではないのだ。 「ヤダ。あのバンダイク髭が、子犬の癖しておじさん臭いんだもん」 犬の好みも合わないのね、私達って……。
そこの店では、頼めば子犬を抱っこさせてくれるらしい。 「貴方も抱っこさせて貰ったら?」 と言ったのだが、彼は首を振った。 「抱っこしたら、そのまま連れて帰りたくなっちゃうから」 そうか、そうだろうな……。 特に犬好きでもない私でさえ、見ているうちに飼いたくなっちゃったもん。
結婚してからは、なるべくダーリンと一緒の時に服を買うようにしている。 服自体が気に入ったという動機だけでは自分とのバランスを考えられず、それが似合うかどうかを客観的に判断して貰うためだ。 しかし最近、少しだが服を縫うようになって、段々気になって来た。 自分には、どんな色が似合うのだろうか。 基本的には好きな物を着れば良いとは思うが、やはり合う・合わないがあるものだ。 同じ背格好でも妹は可愛く着られるのに、私には何故か、ふわりとしたスカートが似合わない。 これは歳以前の問題で、二十歳の頃から似合わないのだ。 どうせならこの際、自分に合う物とそうでない物を知っておくのも良いのではないだろうか。
そう思って、パーソナル・カラー診断というものを受けてみた。 ネットで探したら、幸い近くで受けられる所があったので、事前に申し込んで行った。 正しく診断して貰うためにすっぴんで行かなければならないのが少し恥ずかしいが、診断の後に似合うお化粧もしてくれるので、その後買い物などに行ってもOKなのが良い。 診断は、陽の光の下で行われるので、一応日焼け止めだけ塗って行った。
様々な色の布を首から下にかけ、顔色が明るく見えるものが似合う色なのだという。 わくわくして出かけて行った私だが、診断を受けるうちに、次第に気分が下向いて来た。 イエローベースなのはファウンデーションがそうなので何となく判っていたが、タイプ別に言うと、私は秋グループに属するらしい。 彩度が高く明度の低い、所謂アース・カラーが似合うのだという。 暗くて地味な色……私の嫌いな色ばかりである。 似合わないのは、青みの強い色や薄い色。濃い鼠色以外の灰色系も駄目。 嗚呼がっかり。
帰宅して、ダーリンにぶちまけた。 「抹茶色とか煉瓦色とかウンコ色とかが似合うんだってよ! 地味でババ臭い色ばっかりでつまんない。私は綺麗な色が好きなのに!」 流石にウンコとは言われなかったが、貰ったカラーチップにはそんな感じの色が並んでいる。 どれどれ、とカラーチップを見て、彼が言った。 「ほら、いつも僕がシオンに似合うって言ってるのばかりじゃん。シオンは顔が地味じゃないから、派手な色を合わせると煩くなって下品に見えちゃうから、こういう落ち着いた色が似合うんだってば」 「そうなのかな……」 彼の言い方は、非常に上手い。 流石、前世がソフィストだっただけある。(←憶測) これで私はいつも言い包められてしまうのだな。
アリスのカラータイプで言うと、スパイシー・リッチだと思われる。 香水は、森林やグリーンの香り、スパイシーな香りが良いと言われた。 となると、先日買って貰ったバニラは駄目なのか。 でもスパイシーって何だろう。胡椒じゃないよな? 全体の印象は、大人っぽくて知的、深みのある落ち着いた雰囲気のある人。 でも印象と実際の姿って、かなり異なるよね……。
|