お天気も悪くないし、今日こそ自転車で買い物に行こう。 そう思った私は、半日仕事から帰ってゴロゴロしているダーリンに 「今から買い物行って来るけれど、何か欲しい物ある?」 と声をかけた。 すると、スナック菓子が食べたいと言う。 「こないだはチリペッパー食べたから、今度は胡椒味がいいな」 「わかった。胡椒味ね……ええと、GABANだっけ?」 と私が言った途端、彼は笑い出した。 「ギャバンって何だよ、ギャバンって」 「え……そんな名前じゃなかったっけ?」 「ギャバだろ、ギャバ。ギャバン、シャリバンって言ったら、宇宙刑事だろ〜。全くシオンは面白いなあ」 そう言って、彼は益々楽しそうに笑うのだった。 あれ〜そうだっけ?? 確か、GABANって書いてあったような……違ったかなあ。 メモに書いた最後のNを消して、私はGABAという文字を見詰めた。 何だか違和感があるような気がするけれど、ダーリンは自信満々だ。 首を傾げながら私は出かけた。
「ただいま〜」 帰宅して居間に入ると、私は 「ありましたよ。多分これの事だと思うんだけれど」 と言って、買って来たお菓子をテーブルの上に載せた。
「でもこれ、どう見ても、GABANって書いてあるのよねえ。貴方は違うって仰ったけれど、本当にこれでいいのか私、自信無くってえ」 と私が意地悪げに彼の顔を覗き込みながら言うと、 「うん、仕方ないからこれで勘弁してやるっ」 と彼はそっぽを向いてしまった。 「一寸! さっきは宇宙刑事だのなんだの言って、散々人の事馬鹿にしておいてその態度は何よ? 私に何か言う事があるんじゃないの!?」 彼の頭を両手で鷲摑みにして、無理矢理こっちを向けさせると、彼は上目遣いをして言った。
「エヘ♪」
かっ…… 「カワイイ〜〜〜!! 萌えー!!」 思わず私が叫ぶと、彼に止められた。 「声がでかい! ボラギノールのCMか!?」 「ずるいよ貴方! 一寸可愛い振りをすれば、私の怒る気が失せるって判っててやってるんでしょ!」 「煩いから叫ばないでくれよ〜。わかった僕が悪かったよ。ハイハイごめんごめん」 初めから素直にそうやって謝りゃいいんだよ!
買い物に行かなきゃな、と思いつつ、結局行かず終いになってしまった。 今日はダーリンが車で出勤したので、買い物に行くには徒歩か自転車しか無い。 居間の窓から見える空はどんよりと暗く、今にも雨が降り出しそうだったので、どうしようかなあと思っているうちに午後になってしまった。 ところが昼過ぎに、反対側の和室の窓から外を見ると、空は明るく晴れていた。 しかし午後には着物屋さんが来る予定なのだ。 今から出かけたら、行き違いになってしまう。 着物屋さんが帰ってから買い物に行こうと思って待っていたのだが、なかなか来ない。 約束の時間をとうに過ぎてから、着物屋さんはやって来た。 着物屋さんが帰ってから外の様子を見ると、冷たい風が吹いて、寒くなってしまっている。 結局、私は買い物に出掛けられなかった。
何となく、出掛けたくなかったのかも知れない。
そろそろ晩御飯の支度をしなくちゃなあ、どうしようかなあと思っているうちに、玄関のチャイムが鳴った。 ダーリンが帰って来たのだ。 どうしよう。 いつもなら真っ直ぐ居間にやって来て鞄を置くのに、今日に限って彼はなかなか来なかった。 どうやら、トイレに行きたかったらしい。 どうしよう。 私はその場にスリッパを残して、そっと和室に移動した。 押入れの襖を開けて入り、内側から襖を閉めた。 ダーリンが居間の戸を開ける音がした。 いつこっちに来るかと、私はずっとドキドキしていた。
数分経っただろうか。 ダーリンが和室に入って来て、電気のスイッチを入れた。 襖の隙間から、明かりが見えた。 ドキドキ。 いきなり襖が動いて、私の足に当たったので、慌てて引っ込めた。 今度は反対側の襖が全開した。 「何隠れてんの」 襖を開けたまま彼が立ち去ろうとするので、私は押入れから身を乗り出した。 「待って〜ここから下ろしてよ」 「見付けに来てやらないと、シオンが可哀相かなーと思って探しに来たよ。ただいま」 「ええ〜。じゃあ知ってて放置してたの?」 「うん、パソコン開いて遊んでた」 酷いなあ! 押入れから下ろして貰いざま、そのまま首に抱き付いてうひゃひゃと笑い転げてしまった。 私は鬼がいつ来るかと思ってドキドキし過ぎて、押入れの中で不整脈まで起こしていたというのに〜。
晩御飯は、ダーリンが適当に作ってくれた。 適当な割には、美味しかった。
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