主人は、絶対浮気をしないと言ったし、私もそれを信じていた。 それなのに。 「今日、この子うちに泊めるから。終電に間に合わなかったんだって」 と彼は言って、職場の若い女の子を連れて来た。 彼女は小さく挨拶すると、彼に案内されて部屋に引っ込んだ。 「あら、そう。じゃあお布団の用意をしなくちゃね」 私がそう言うと、それは適当にやっておくからシオンは休んでいいよと言われたので、素直に従った。 翌朝目が覚めると、隣りに主人がいない。 彼は、彼女の部屋から出て来た。 唖然とする私を尻目に彼女はさっさと出かけてしまい、私は平然としている主人に噛み付いた。 「一寸、これはどういう事? 浮気したのね!」 「ああ、そうだよ」 「離婚するわ。私は貴方の事が大好きだけれど、こんな事されて悲しいから、もう一緒にはいられない」 と私が言うと、彼はそれは駄目だという。 「離婚はしない。それだけは許さない」 「何故? 許す許さないは貴方じゃなくて私が決める事でしょ」 幾ら私が言っても、いつもの彼とは全くの別人で、取り付く島もない。 余りに理不尽な仕打ちに、私は絶望した。
そこで目が覚めた。 隣りでは、主人が寝息を立てている。 夢で良かった〜とは思ったが、夢とは言え考えてもみなかった事態を体験し、まだ心臓がどきどきしていた。 起きてから、 「こういう夢を見たの。とっても悲しかったの。浮気しないよね?」 と彼に言うと、 「しないよ。そういう夢を見たのは、自分の願望の裏返しだよ」 との返事。 つまり、私の浮気願望がそういう夢になって表れたのだと言う。 でも私、浮気願望なんて無いんですけれど。 嫌な夢だったので忘れたいが、余りに強烈でトラウマになりそうなのでネットで調べてみたところ、浮気される夢というのは相手が自分に夢中だという事らしい。 つまり、主人は私に首っ丈なのだ。 ああ良かった〜これでやっと安心した。 全く、あの人の言う事は本当のようでいて結構いい加減なんだから。
実家の母から電話があった。 用件は、関西に住む母の叔母の見舞いに行こうという話だったのだが、 「あ、それから1つお願いがあるんだけれど」 と母が言うので何かと思うと、 「サラ金からだけは、お金を借りないでね」 だと……どんなお願いだ。 サラ金なんて、頼まれたって借りたくありませんが。
母の話によると、実家の近所の人がサラ金の返済で大変らしい。 家族構成は、老夫婦と若夫婦と孫2人。 そこの若奥さんがサラ金に手を出して返済が焦げ付き、家族の知るところとなってしまった。 しかもその奥さん、なんと自分の勤務先のお金にまで手を付けていたとかで、老夫婦や夫がその分を負担する事で、何とか刑事告訴は勘弁して貰ったそうな。 家計は火の車、長男は専門学校を中退する破目になり、家族で若奥さんの拵えた借金を現在返済中との事である。
「うわー、バッカでえ」 私も知っている人の事だが、思わずそう口から出てしまった。 フジテレビ系列で毎朝やっている「こたえてちょーだい!」(言っちゃあ悪いが最下層的な、頭の足りなそうな人々の体験談によって構成される番組。見ていると胸がムカムカして来る)ではよくある話だが、身近な所にもあるとは驚いた。 「お父さんは『うちの子達は大丈夫だ』って仰るんだけれど、心配になっちゃって」 ヘンな所で心配性の母である。 「私は大丈夫よ。亭主の稼ぎで充分やって行けるし、そんなに贅沢しなけりゃ困る事はないもの。それに借りるならサラ金に行かずに、まずお父さんお母さんに借りるから」 「貸してあげるわよ、億は無理だけど。ドビーちゃん(妹)も大丈夫かしら」 「あの子もサラ金に手を出すほど馬鹿じゃないでしょ。そんなに心配すると禿げるわよ、お母さん。で、何故若奥さんは借金なんてしたのかね。パチンコでもやってたの?」 と私は訊いた。 主婦がサラ金に走るパターンとして考えられるのは、財政難とギャンブルである。 あそこの家は、老夫婦も若夫婦も大人は全員働いている。 お金が無くてサラ金に走るというのは考え難い。 という事は、パチンコ中毒だろうと私は推測したのだ。 「パチンコはやっていなかったみたいよ。あそこの若奥さん、着飾るのが好きでね、ブランド物に注ぎ込んだんじゃないのかしら。それに人に物を上げるのが好きな人だったから、それで色々買っていたみたいよ」 「そっちかあ。要するに分不相応の見栄っ張りな訳ね。あの家も、とんでもない嫁を貰ったって思っているんじゃないの」 私ったら、知っている人に対して酷い言い様である。 「貴女も気を付けてよ。とんでもない嫁だって言われないようにね」 と母。 それはもう思われているから大丈夫、とは流石に言えなかった。
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