私が早々に脱落した日曜劇場「輪舞曲」を、何故か主人が観ている。 ドラマなんてあんまり観る人じゃなかったのに、この時間帯には他に見たい番組も無いし、まあまあ面白いと言う。 私は一寸でも解らない箇所があるとストーリーが繋がらなくて話に付いて行けずに脱落するのだが、主人はそれを頭の中で補う事が出来るらしい。 しかもそれで話の辻褄が合っているので、殆ど当たっていると思われる。 彼を見ていると、TV欄の粗筋を見ても理解出来ない自分がとってもお馬鹿さんのような気がして、一寸凹む。
「シオンって、チェ・ジウと少しだけ似ているよね」 出し抜けに主人がそんな事を言うので、吃驚してしまった。 「どうしたのよ。私が以前、母にそう言われたと話したら、貴方全力で否定なさいましたよ? 敢えて言えば身長が似ているぐらいだと言われた覚えがあるんですが」 彼の褒め言葉を鵜呑みにすると、持ち上げといていきなり落とされるという事があるので、そう私が警戒すると、彼が答えた。 「目袋が無い所とか、鼻の頭から上唇にかけてとかさ」 え……それって、似ているというよりは、単なる共通点なのでは? 何だか釈然としない。
お風呂上がりの私の顔をまじまじと見て、うーんと唸る主人。 「似ているって、この辺り?」 と私が自分の鼻の辺りを示すと、彼は首を傾げた。 「やっぱり違うかも……。人中の長さと眉と眉の幅の長さが同じかなあ、と思ったんだけれどな」 何ソレ。 人中の長さって、アンタ測ったんかい!
土曜日の22時なので、いつも通り「エンタの神様」を見ようか迷ったが、結局エンタは録画して、「サイエンスミステリー」を見る事にした。
第1部は、「恐怖と生きる家族」。 「恐怖遺伝子」と呼ばれる、兎に角全ての事に対して恐怖感を持つ男とその妻の苦悩の物語だった。 何がそんなに怖いの?と見ているこっちには訳がわからないのだが、家の外にある物事の全てが怖いらしい。 ええー、それなのにどうして結婚したの?と不思議だったが、この人、20歳の頃に発病するまでは明るい普通の青年で、奥さんとはずっと前からの付き合いだったという。 しかしこの病気は遺伝子レベルのものなので、親族の中にも2人ほどいるというのに、何故子供まで作っちゃったの?と疑問に思ってしまった。 遺伝病なら、子供やそのまた子供に遺伝する可能性がある。 呪われた血なら、絶やすべきではないのか?という私の素朴な疑問に、主人が答えてくれた。 「そりゃあれだろ、1日中家に籠っている訳だから、他に楽しみが無」 ゴン。 「どうして貴方はすぐそゆ事言うのっ」 「いや、それは兎も角としても、子供は欲しいだろ普通。この人だって子供の事は可愛いみたいだし」 「そうみたいだけれどさ、でも自分と同じ恐怖や苦しみを子供も受け継ぐかも知れないんだよ? 子供は発病しなくても、子孫の誰かに出ちゃうでしょ。それを考えたら、子供は諦めるべきでは?」 と私は思うんだけれどなあ……どうも彼と私の考え方は違うらしい。 それにしても、この奥さん偉いよ。 恐怖病とは言えヒッキーの亭主にかわって、家族を養うために働きに出ているのだから。 いい時はラブラブだけれど、崩れるとすぐ別れるカップルは多い。 健やかなる時は一緒にいられても、病める時も共に歩む事は難しい。 私は、主人がこうなっても、彼を支えて一緒に生きる事が出来るだろうか。
第3部に出て来た夫婦は、もっと悲惨だった。 脳の手術後、夫の性格が変わってしまい、芸術以外に興味を示さなくなったのだ。妻に対しても、全く。 夫の愛を失った妻は、それに耐えられなくなり、結局離婚してしまう。 愛が無くても一緒に暮らす夫婦は世間に沢山いるらしいが、片方に愛情が残っている場合は、辛くて一緒にはいられないだろう。 悲しい話だった。 しかし、この脳卒中爺さんの芸術って……爆発し過ぎて私には全く理解出来なかった。 と言うか、寧ろ禍々しい恐怖を感じた。 普通、芸術というものには神々しさを感じると思うのだが、この人のそれはとても悪魔的だった。 こりゃあ一緒にいたら、奥さんも具合悪くするわ……。
取り敢えず、うちの主人には元気に長生きして欲しいな。と思った。
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