天上天下唯我独尊

2006年01月20日(金) 正体不明な恐怖

お風呂から上がると、先に寝たかと思ったダーリンがまだ居間にいて、ニュース23を見ていた。
ニュース23って、金曜日もやってたっけか。
椅子に座ればいいのに、彼はTVの真ん前に突っ立っていた。
目が悪い彼はよく見たい時にはそうするので、何か面白いニュースでもやっているのかと思い、彼の肩越しに私も画面を見た。

何これ。

ダーリンに説明を求めると、その建物は脳性麻痺などの病気で障害を負った子供達の施設なのだそうで、ベッドに寝たきりの「子供達」が映されていた。
彼等は植物状態でチューブに繋がれており、その身体つきはあちこちが変形していて、中には瞬きが出来ないからなのか、半開きの瞼にテープを貼られている者もいた。
顔貌は明らかに普通の子供とは違う。
ダウン症とも全く違い、言葉も喋れなければ意思の疎通も出来ないのだ。

「怖い」
私はダーリンにしがみ付いた。
正直言って、可哀相というよりも、それは恐怖だった。
肉塊としか思えない人間達。
生きているのだろうか。
自分が生きているという自覚があるのだろうか。

施設の医者は言う。
「昔なら治療の施しようが無かった患者さん達が、医療の進歩によって亡くならないんです」
現代医療が半端に進んでしまっているため、患者が死なないで、ずっとこのままだというのだ。
昔なら死人が出れば空床が出来、そこに新たな患者を迎えていたのが、それが出来ないために、多くの人が空きを待っている状態らしい。
別の施設は障害児用なのに、子供の頃からそこにいるのか、57歳の入所者もいるという。
そう、彼等はずっと子供のサイズではなく、生きている限り成長するのだ。
20歳を過ぎた子供の面倒を自宅では見切れなくなり、施設に入れた母親もいた。
それでも母親は職員と一緒に、大きくなったのに動けない子供をお風呂に入れていた。

57歳には驚いたが、20年も永過ぎる。
母親は何を思って、このような子供の面倒を看るのだろう。
愛情? 義務? それとも意地?
それとも回復という奇跡を待っているのだろうか。
中には、全く子供に会いに来ない親もいるという。
普通に生まれても親に殺される子供もいれば、生まれ付き植物状態でも親に可愛がって貰える子供もいる。
どちらが幸せなのだろう。
そもそも、この「子供達」には、幸せという感覚がわかるのだろうか。

画像が強烈過ぎて、何を言いたい特集だったのかさっぱりわからなかったが、あのような所で働いている職員達の精神が気にかかってしまった。
砂漠に水を撒くような徒労感に襲われないのだろうか。
こうして一寸TVで見ただけで凹むのに、毎日平気なのか、それとも慣れるのか。
比較するべきものではないが、五体満足に生まれただけでも幸せなのだと、つくづく思った。



2006年01月19日(木) 光合堀菌リターンズ

別のホリエモンの話。
こっちは強制捜査ではなく、裁判である。
昨年夏に糖尿病で死亡した女子中学生の両親が、次世紀ファーム研究所の堀洋八郎代表に対する損害賠償請求訴訟を起こしたのだ。

事件当時、少女の素性は伏せられていたが、今回の提訴で、両親は娘の名前と写真を公表した。
少女の名はマサコ。
糖尿病だが成人病とは違うので決して太ってはいないし、なかなか可愛い子だ。
それなのに両親は、自分達の顔も名前も伏せたまま。
私はこの親に対して、すっきりしないものを感じた。
両親にはこれからの人生があるし、現実の生活があるから仕方ないのかも知れない。
可愛い顔をした娘の写真を公表すれば、その分世間の同情も集まるだろう。
しかし自分達は顔も名前も隠し、死んだ娘だけを世間の目に晒すというその姿勢に、私の同情は半減してしまった。

民間療法、特に宗教がらみのものは、実に難しい問題である。
民間療法全てがインチキではなく、実際に効果があったという人もいる。
しかし似たような症状の全ての人に同じものが効くとは限らない。
何故この科学の時代に、それでも人は民間療法に頼るのだろうか。
現在、医療技術は格段に進んだが、それでも万能ではない。
この少女はインシュリン注射が無いと生きて行けない体だった。
今の医療では、彼女を注射無しの健康体には出来ない。
しかし彼女は、注射無しでも暮らせる普通の健康体になりたかった。
だから真光元に頼ったのだが、不幸な事にそれは彼女を救えるものではなかった。
彼女に真光元を勧めたのは母親で、母親は雑誌か何かを見て真光元を知り、その講演会に参加して相談した事から、真光元神社に通うようになったらしい。
堀代表はどうか知らないが、彼女の母親も他の信者も、誰もこの少女を死なせようという意思は無かっただろう。
それでも少女は、インシュリン注射をしなかったがために死んでしまった。
責任は誰に?

堀代表は勿論悪いが、怪しい健康食品に傾倒する妻を見て、夫は一体何をしていたのだろう。
訴状で、少女の父親は、少女が死んで病院に運ばれるまで登場しない。
娘の病気について、両親できちんと相談していれば、悲劇は避けられたのではないだろうか。
それは当の両親が1番悔いているだろうし、遣り場の無い感情の矛先を次世紀ファームにぶつけるのも理解出来る。
だが、やはり親の責任も大きいと私は思うのだ。
提訴の報告を聞いて、堀代表は、
「何を言うとるのか、この糞馬鹿が! どちらが恥をかくのかやってみればいい」
と言った。
両親にしても、恥は覚悟の上での提訴なのだろう。
提訴する事によってこの事件の悲惨さを再び世間に知らしめ、新興宗教がらみの同類の事案を防ぐ事になれば、提訴も社会的に役に立つだろう。

親も半分は気の毒だが、1番気の毒なのはこの少女だ。
彼女はあの世で親を恨んでいるだろうか。


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