日々是迷々之記
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2005年09月04日(日) さらばバカめと言おう

仕事は結局辞めることにした。派遣会社の担当者が翌日に会社にやってきて、協議した結果、Aさんとウマが合わないのなら更新はしませんとのことになったのだ。そんなもの、合わせる気もさらさらないので、じゃ、結構です。ということで話は決まり。

何かすうっと楽になった。今月中頃でもう辞められる。それからは一生Aさんと顔を合わさずに済むのだ。

Aの使っていたパソコンがネットワークから見えなくなったときに、私に何かやったんじゃないのと言ってきたことまであった。私に画面キャプチャの方法を聞いてきたので、こうやってキャプチャして、ペイントを開いて貼り付けて、というように教えながらやって見せたのだが、その直後にネットワークから見えなくなった。画面のキャプチャ操作をすることがネットワークの問題に関係があるわけないのに、私が触ったあとだから、私のせいらしい。幸せな頭だ。

その後もAの愚行にぐったりさせられた。事務所の模様替えでキャビネットの置き場についてAともう一人の女性が話し合いをしたあと、Aは口を出されたのが気に入らない様子でずかずかと私の後ろを歩いていった。「ふざけんな、くそばばあ!」とつぶやきつつ。私は唖然としてしまった。43歳。大学生、高校生、小学生の子持ちの母親が、職場の先輩に対して言う言葉だろうか。こんな女でも親になれる。何だか暗い気持ちだ。

ここからは私の勝手な感じ方かもしれないが、私の目にAはひどく下品に映る。マニキュアが中途半端にはげた指先。書類を指すときなどはいつも中指。男性と話すときはいつも小首をかしげている。素足のくるぶしは白く粉を吹いている。ヘビースモーカー特有の顔色、ヤニの付いた歯。そして青みがかかったピンクの口紅。全盛期の中森明菜のようなサイドにかっちり流した前髪。



悪寒が走る。

とまあ、こんな毎日だったわけだが、こういうとき派遣は気楽である。あと10日もすれば自由の身。せいぜい日記のネタでも提供してもらおう。


2005年08月31日(水) それが幸せ

朝起きたらちょっと吐いた。頭の左側がずきずき傷む。ああ、だめだ、と思いつつ会社に休みますと電話をした。それから淡々と眠る。淡々と、という表現はおかしいかもしれないが、そんな感じ。トイレに行きたいときに目が覚めるだけ。結局夕方4時まで眠った。

外は雨が小降りだった。まあこんな機会でもなかったら行かないし、と思い、地下鉄で母親の入院する病院へ向かう。驚いたことに快適だった。電車は涼しいし、駅のホームもほどよく風が吹いている。バイクなら50分くらいかかるのに、地下鉄だと30分ほどで着いてしまった。

入院代金の支払いを済ませ、エレベーターを待っていると、花束を乗せたベッドを運んでいる白衣のおじさんがいた。誰か亡くなったのだろう。神妙な表情でエレベーターを待っている。地下の霊安室へ向かうようだ。

母親の病室へ向かうと、今から食事だった。食事と言っても口から食べるのはちいさなゼリーひとつだ。ほとんどは鼻に通した管から胃に流し込まれる流動食で栄養を採っている。左手だけを使って器用に食べる。その様子を見て、何だかほっとした気持ちになった。

食べながら話し始める。話に一貫性はない。おばちゃんが持ってきたすいかが美味しかった。JRの事故で誰かが亡くなった。銀行に行きたい。暗証番号を考えて欲しい。半分は意味をなしていて、半分は意味がない。

でもこの人はこれで幸せなのかもしれないと思った。涼しい部屋。優しい看護婦さん。お金の心配もせず、テレビを見て、来た人間に好きなことを話して眠る。小さなボロアパートでせこせこ暮らしていたころとは違う。何も心配することのない世界で、母親は幼児のような顔で話しながらゼリーを食べている。

この人にはもう、人を恨む気持ちがないんだ、と思うと不思議な感じがした。生きているときはまるで他人を持ち駒のようにして動かし、小さなお金に右往左往していたのが嘘のようだ。楽しかった頃の思い出、知っている人のいい部分だけを反芻して日々暮らす。

幸せならそれでいいかとも思える。子供のような顔を見ていると、私も生き方を変える時期なのかなと少し思った。33年間、私は少しあきらめた気持ちで生きてきたように思う。親だって私のことが好きではないのに、他の人が私のことを好きになるはずはない。ずっとそう思っていたから、なるべく気持ちを見せるように、人を嫌な気持ちにさせないように、と思い、その反面、誰にも嫌いとも嫌とも言わずに来た。他人をけなすのはこの日記の中くらいだ。

しかし、私のこんな性格の原点を作った親はもう、そこにはいない。死んだりボけたりして、子供の頃の親ではない。私が縮こまる必然性はもうない。

地下鉄のホームに立つ。電車が来ると風に吸い込まれそうになる。吸い込まれるように落ちてゆけば楽なのかなと思うことはよくある。が、どうせきれいには死なないのだろうな、とも思う。

でもこれからは落ちることを考えなくてもいいかなと思った。母親が過去を忘れてしまえば、わたしさえそれに縛られなければなかったことだと思える。その他の悩みは自分でどうにかできる。仕事だって嫌なら辞めればいいからだ。でも、生きてきた人生自体をやめることはできない。

「忘れる」っていう解決方法もあるんだな、と思った。明日は今日よりちょっと自由だ。きっと。


2005年08月30日(火) 生きていくために引いた線

大阪は朝から涼しかった。久しぶりにカブでなく大きい方のバイクで通勤した。加速がいいから気持ちがいい。しかしいい気分なのはホンの数十分で、会社は居心地が悪かった。Aさん(43歳・女性)の機嫌が悪いのだ。

いつのまにか外は雨。事務所の中も不穏な空気だ。夕方ぼちぼち帰る準備をしていたら、いきなり、「今日の午前中寝てたやろ。」と来た。今日の午前中は検数といって、数をかぞえる仕事をしていた。例の、2,3,2,3で10というやつだ。手でめくりながら数えているので手は動いている。それでどうやって寝ろというのだ。やんわりと寝てません、手を動かしながら寝ることはできませんのでと、伝えた。するとテキは無言になり、今度は今日何部仕上げたか訊いてきた。普通に何部と答えると、「仕事、遅いわ。スピード、ちょっと問題やから○○さん(人事の人)と相談させてもらうわな。」と来た。

その物言いにさすがに苛立つ。するならすればいいし、わざわざ私にそれを予告して何になるのだろうか。私は分かりました、とだけ伝えた。やりかけの仕事があったので、どこに置けばよいのか尋ねたら、無言であごをしゃくって帰れという仕草。その瞬間終業ベルが鳴った。

ふざけんなよ、クソババアと思いつつ、にっこり笑って失礼しますと言ってその場を離れた。

激しくいらいらしながら着替えて病院に向かう。今日はメンタルクリニックで薬をもらう日だ。途中で涙みたいにはらはら雨が降ってくる。むかむかしつつも涙が出そうだったが、泣かない。

雨模様のせいか、病院は珍しく空いていた。ほどなくして名前が呼ばれたので診察室に入る。先生はいつものようにやわらかい物腰で私の話に耳を傾ける。母親の言動、そして今日の出来事について話してみた。そしてAの人となりを表すエピソードとして、口に出すのもはばかられるが、「なあ、何で子供おれへんの?作ってるのにできひんの?それともせえへんの?」と下卑た質問を投げかけられて言葉に詰まってしまったことも先生に話した。(しかし、字にしてみると本当に下品だ。)

先生は、その人は確かにちょっと立ち入りすぎだが、普通の人同士でも10人いたら5人は気が合わなくて当たり前だと言った。そんな中では「当たらず、触らず、従わず」の精神でやってゆけばいいらしい。「仕事の現場では仕事をこなすだけでもう評価は80点になっているのだから、それだけで十分ですよ。それ以上のことはしなくてもいいです。」とのこと。そこからの20点は人によって評価が違って、人の輪とか、仕事の成果とか、はたまた扱いやすいかどうかなど、色んな評価方法があるから、それは気にしなくていいらしい。「仕事をしただけでもう80点」その言葉はわたしをほっとさせてくれた。

そうだ線を引こう。帰り道でバイクにまたがってそう思った。たいがいの人は私のことを「おっとりした人」だと思っている。確かにその一面もあるが、それだけではない。しゃきしゃき動くこともあるし、怒りを表すこともある。世の中には、そういう「おっとりとした人」など一見強い意志を見せない人を踏み台にして自分自身を強く正しいように見せようとする人たちがいる。

会社のAがそうだ。本人は姉御肌でざっくばらんなつもりのようだが、私には言動に品がなく、思慮が浅くてその場の感情で物を言い、しかも「私は女の人ってちょっと苦手やねん。」「よく相談をもちかけられるねんけどな、」「若いときはやんちゃしたけどな、」などの言動に見られるようにナルシストの傾向がある。まさしく私が苦手なタイプでこうは絶対なりたくないタイプでもある。

このように軽薄な人というのはわりとどこにでもいて、私のように一見とろそうな人間をおとしめることによって自分の偉さを誇示してくる。

そういう人間は、反逆すると水をぶっかけられた犬のようにおとなしくなることが多い。はむかうとは思っていないからだ。

ここらへんで線を引こうと思う。黙って観察するのはここまで。ここからは私のやり方でやることにした。まず派遣会社の担当者に電話。派遣先の社員の態度があまりにも失礼なので仕事を一所懸命とりくめないと伝える。担当者はびっくりしていた。重ねて仕事内容とその他の人たちとは円満にやってゆけていることを伝えた。前述した「子供を作る作らない」の話はその担当者もちょっと引いていた。まぁ、若い男性だから女の世界のそういった開けっぴろげな話には免疫がないのだろう。今週中に一度訪問するので、とりあえず今までどおり勤務してくださいと言われた。

私は別にやめる気はない。Aがその品のない口を閉じてくれればそれでいいのだ。私はおっとりしたただのデブキャラではない。


nao-zo |MAIL

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