夕暮塔...夕暮

 

 

塞き止めて - 2004年04月08日(木)

感情の回路をひとすじ塞き止めて目を細め深く闇は黙する



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何もかも - 2004年04月06日(火)

死んでしまいたいなどとぼんやり考えながら淡々とコピーを取る自分の手もとを見下ろしていたら、見知らぬ少年が真直ぐに私の顔を仰いで尋ねてくる。「コピーって、どうやるんですか?」 小学校高学年くらいだろうか、左手に握り締めた保険証を複写したいらしい。細々と手順を教えてコピーを済ませれば丁寧にお礼を述べられて、随分躾がいいなあと感心しつつ別れる。きっと弟といくつも違わない、あの子にもきっと父親がいて、その存在を病にもぎ取られることなど想像もしないだろう。まだ父親を十分に必要としている年頃だ。…違う、あんなに幼くなくても、母も私も妹たちも必要としている、愛しているなんて言葉を使えば救いようもない程陳腐になるけれど、必要で、大切で、大好きで、かけがえも無い。だからこんな風に世界が終わってしまうような気持ちでいる。入学式に胸ふくらます弟はまだ知らない、父の心臓がもういつ止まってもおかしくないのだという残酷な現実を、誰からも伝えられていない。嘘みたいだ、そうでなければ悪い夢だ、数百キロ離れたこの土地で、当たり前のようにアスファルトの上、目の前が暗い、どこででも生きられると思っているのに、何もかも捨てたい。




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どこへでも - 2004年04月02日(金)

風きよく緑凪ぎ淡く花揺れるその渦に巻かれどこへでもゆく



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どこへでも飛んでゆけると勘違いしてしまいそうだこんな陽春



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二日前の天気予報では雨になる筈だったのに、土の底の石1つまで暖まりそうな光が注がれている。駅までの道を遠回りして勾配のきつい坂道を選ぶと、見事な枝ぶりの染井吉野が、道路を挟んで隣の家の窓まで届きそうなくらいのびのびと腕を広げて咲いている。同じ通り沿いにある桜たちはどれも電線にひっかかって剪定されているのに、これだけは運が良かったらしい、遮るものもなく枝を切られる事もなく、のびのびと空を覆わんばかりの気配。その花の下をくぐるのは、もう毎春の通過儀礼のようになっている。


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千鳥ヶ淵へ - 2004年04月01日(木)

夕暮近く、千鳥ヶ淵へ。仕事帰りに現地で落ち合うはずが、行きの電車の中で偶然出会う。花の雲を透かして月の光。何度訪れても、きっと飽きることはない。


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薄墨の - 2004年03月31日(水)

薄墨の花風に背中押されれば逡巡は脆く流れ過ぎゆく



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湯船にも - 2004年03月26日(金)

外に陽が射し始めた昼休み、「面白いものを買ったんですよー」と同僚に声をかけると「えっ、何なにー!?」と乗ってくれるので、ネットで検索して見せる。彼女は目を丸くして驚く、「あー! これ、私とクミちゃんも買おうとしてたやつー!」 お風呂に沈められる卵型のライト、照明を落として入浴するとお湯の底でゆったり七色に変光する。どう?楽しい!? と尋ねられたから楽しいですと答えたけれど、本当は、楽しいというよりはうっとりする感じかなと思う。



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1日におやすみと告げる湯船にも柔らかな光揺れる十二時


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この雨 - 2004年03月25日(木)

薄墨に浮かび上がりたる顔(かんばせ)を濡らしては落つる弥生この雨



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蛸 - 2004年03月24日(水)

このお店のお刺身は相変わらず涙が出そうな位新鮮でおいしい、今日はソイと黒鯛の活け造りをメインにあらゆる魚介類が並んでいる。お料理が減ってきた頃に「蛸の踊り食い食べる人ー」と言われて、周りに合わせて何となく手を挙げてみたら、数分後にとんでもないものが(本当にとんでもないものが)届く。うわあー、お皿の上が大変なことに、と思いながらじっと見ていると、お酒のまわった友人が真っ先に箸をつける。 「ぎゃー!! 唇の裏に吸いつかれた! 痛ー! 痛い!!!」 と悶えるのを隣で傍観しつつ、恐ろしいやら面白いやら申し訳ないやらで、何だかとても複雑な気持ちになる。


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導かれ - 2004年03月22日(月)

導かれゆく路は深い霞にも似ていると思うどの方角も



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まだ春は不確かなままでいるらしい 君のいる方を向いているけど


君のいる方を向いてはいるものの まだ春は不確かなままらしい


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結ばれた指を - 2004年03月18日(木)

結ばれた指を離せばささやかな魔法が解ける(ほどける)ことは知ってた



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気付かないふりで歩くことの方が易しかった、多分。


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