夕暮塔...夕暮

 

 

声だけで - 2004年03月12日(金)

声だけで繋がることの悲しさと虚しさを知る父の声から





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大学病院の個室に入院中の父に何度目かの電話。専用の電話がついているので、割と時間を気にせずに気兼ねなく声を聴けるのがありがたい。何をしてたのと尋ねると、「消灯後だからほんとはいけないんだけど、映画観てる。みやびが持ってきてくれたんだ」と、ギャルのほうの妹の名前を挙げる。不幸中の幸いと言ったらいいのか、入院が春休みの時期にかかったので、母だけでなく妹や弟も頻繁に会いに行っているらしい。思春期真っ只中の少年が父親と病室でどんな話をしているのか、想像するとちょっとくすぐったいような気もするけれど。
電話を切る時、弟との電話を切る時みたいに「お父さん、いい子でね」と半分冗談で言ったら、「ハイヨー」と明るい返事。
あの快活でいかにも頑健そうな父が、静かな個室にひとりでいる所を想像したら、何だか悲しくて、やるせなくなる。


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春嵐 - 2004年03月11日(木)

この間着た大振袖に風を通して埃を払い、さらりと乾いているのを確認したあと、洗いたてのシーツを広げた上で丁寧に畳む。クローゼットにかけっぱなしだった白銀の帯もそろそろ仕舞わないといけない、柄の部分が重なり合って傷つかようにくるくると巻いて畳み、たとう紙の大きさぴったりにおさめた。処分する雑誌をまとめつつ、前回友人が来た時はどこまで読んでいたのだったかなと記憶をたぐる。外はまるで春の嵐そのもの、窓硝子がびりびりと音を立てそうなくらいの強風が街中をかき回している。


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ミモザアカシア - 2004年03月10日(水)

しなやかに揺らされるまま春風を受けいれるミモザアカシアの花



しなやかに揺らされるまま南風受けいれるミモザアカシアの春




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鞘ばかり - 2004年03月09日(火)

鞘ばかり厚くなるこの来たるべき日の為の刃は未だ抜かれず



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西はまだ透いて見えるような茜色をとどめている、帰宅を急ぐ人波と逆方向に歩くと、唐子咲きの椿が大輪をつけて迎えてくれた。今日は偶然にアナウンサーの方が多くいらしていて、個人的には大変喜ばしい。きれいどころ大集合、目の保養、とか思っているのはもちろん秘密で。


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深々と - 2004年03月08日(月)

嵐吹く薄闇を脱けてそのあとに深々と来たる春をいざよう




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「あなたにも反抗期とかあった? あんまりそういう風に見えないっていうか、想像できないんだけど…」 パーティションに隠れて二人きり、自分の思春期の荒れ模様とその極端な収束を語ってくれていた同僚が、ふっと真剣な顔でこちらを見る。ありましたよ、と私は笑う。もう大荒れです、夜中に学校忍び込んで窓ガラス割ったり。「盗んだバイクで走り出す…」そう、そう、そういうような。ひとしきり笑いあった後で「荒れるべき時期に、きちんと荒れておいたほうがいいのかもね、多分ね」と同僚は言い、私は十年前のことを懐かしく思い出している。もちろん実際にはそんなバイオレンスな出来事はなかったけれど、雪の嵐みたいに何もかも真っ白になればいっそ楽なのにと思って脳を乱されるような混乱を味わいながら、気が付けば我ながら不思議なくらい穏やかな大人になっていた。
屋外での煙草休憩から戻ってきた彼女が「月がもの凄く大きくて、真っ赤だった」と教えてくれるので、別の同僚と連れ立って、十六夜を見るべく夜七時の非常階段をのぼる。


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明日は - 2004年03月06日(土)

まだ浅い春の夜風の冷たさに目を細め仰ぐ明日は十五夜



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休日前夜 - 2004年03月03日(水)

明日はお休み、マンションの近辺で過ごすことだけは決まっていて、具体的に何をしようかとあれこれ考えているうちに、もう既に楽しくなってきてしまった。暖かかったら大きな公園で梅を観てから泳ぎに行きたい、そうでなかったらこの間輸入家具屋さんで見つけたフラワーベースを買いに行くことにしようかな。時々行くインド料理屋さんでランチしたいし、お気に入りのパン屋さんでマーガレットの花みたいな形のフランスパンを買ってきて、焼きたてをママレードで食べるのもいいと思う。休息日の朝に飲むコーヒーはどうしてあんなに美味しいんだろう、いつもと同じように淹れているのに、全然違う。 …お腹が空いたのか、食べ物のことばかり思いつくようになってきた。うーん、もう寝よう。


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東から - 2004年03月02日(火)

東から風が来て香るこの道で また巡り揺れる春を見つめて




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住み慣れたこの街に何度目かの春が来て、色んな事が少しずつ動いていく。心配な事も喜ばしい事も、こうやって人は心揺らしながらゆく他ないのだと遠まわしに教えてくれる。
単調なはずの私の春にも少しだけ変化が訪れて、花見の温泉に行こうと提案してくれた人を逆に悲しませてしまった。どうにかして報いたいと思うけれど、新年度から夏が来るまで、土日の連休は取れそうにない。


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沈丁花 - 2004年02月29日(日)

沈丁花香りたつ清かこの街を四年に一夜の月が見守る



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1年に溢れる時間は5時間48分46秒、それが4年分積み重なって如月の晦日が1日だけ長くなる。静かな雨が上がり南風の吹く午後も過ぎて、月齢8の半月が昇る。





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住む人も - 2004年02月26日(木)

住む人もなくとも君は咲き誇り春を知らせる歌の通りに




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主なくとも春を忘れるなという悲しい歌の通りに、住む人を失った木造の民家の庭で、一本だけ残された白梅が花開いている。花の主はいつもその花自身だ、人間は時々自らを司ることさえ忘れて時計を狂わせるけれど、花はこうやって、世話されずともすっくと立ったまま水ぬるむ時を迎えている。


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