夕暮塔...夕暮

 

 

鐘の音 - 2003年12月25日(木)

数多度 通い来たこの道さえも今は鐘の音にふれて賑わう



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ご銘はどうしたものかしらと戸のこちら側でしばらく考えてから「鐘の音」と付けると、美しい師範が「ジングルベルと、除夜の鐘ね」とにっこりなさる。何年お会いしていても本当にお変わりなく綺麗で、そのうち私のほうが外見年齢を追い越してしまいそうな気さえする。


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7色目 - 2003年12月21日(日)

ずっと昔、虹の7原色の7色目は「ひかり」だと思っていた。一向に雪の降る気配もない東京で、懐かしい何かに濡れたような夕暮を見ながら、ふとそんなことを思い出した。


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羽音 - 2003年12月19日(金)

まどろみの夕雲よいつかこの先を彩って震わせる風になれ





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ほんの十数分の間、何もかもを鎮めてまどろませるような夕雲が流れる。広い池で鴨が泳ぐのを茫洋と眺めながら、水面を揺らす羽音を聴く。こういう時、いっそ自分がはかなくなってしまったらいいのにと微かに思う。手元に届くメールはきちんと現実的に、私に走れと告げている。こうやって引っ張りあげてくれる人がいるから何とかやっていけるんだなとわかっているのだけれど、少しわずらわしいような気がするのも事実で、それはちょっとだけ困る。





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夕暮れの魚 - 2003年12月16日(火)

帰宅しようとすると、守衛さんが大事にしている三毛猫が鳴きながら現れてこちらへ寄って来た。ごめんね、今日おいしいもの持ってないの。しゃがんで言ってみるけれど、通じていないのか最初から食事の世話など期待していないのか、にゃーんと鳴いて私の腰のあたりに身体を摺り寄せる。背中や肩のあたりをそっと撫ぜると、柔らかな毛並みが僅かに冷えているのがわかる。
北の地平近くは桜と薄色を混ぜたような色で霞んでいる、この時期特有の、不透明水彩みたいな白っぽい暮れ方だ。西は淡い金色の光にどこまでも透かされながら暮れてゆくけれど、空の高いところはもう澄んだ青紫をゆったりと広げている。一片の雲もない空を進む飛行機の痕跡は雲にならないうちに消えてしまう、夕陽に照らされてピンク色に染まったそれが、細い紡錘形の魚が泳いでいるように見えるので、視界から消えるまで夢中になって見上げていた。


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左手首 - 2003年12月15日(月)

左手首内側の肌のなめらかさ 確かめてなぞるきみの指先




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自分でも触ってみたら、本当に柔らかくてすべすべしているので驚いた。何か塗っているのかと尋ねられたけれど、特別な意味のある場所ではないし、何も手を加えていない。誰の手もそうなのだろうか。


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月と同じ - 2003年12月14日(日)

月と同じ色をした花の蕾む夜思い出す声の音のいとしき



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侵食 - 2003年12月11日(木)

久々に頭の中で数字が巡り始める、ベクトルの傾きを変えては数列を回転にかけ、整然と並んだかのように見える(あくまで、見えるだけの)数値の波間を探索する。もう私何回同じ事を説明したんだろうとぼんやり考えたら、だんだん無力な気持ちになってきた。同期は酷く苛々した様子で、2人きりになると「疲れた、本当にいやだ、自分が1つか2つの言葉しかしゃべれないオウムになったみたい」と怒りを滲ませ、私もそれに頷いて応える。
眠る時、数列が頭を駆け巡らないことを確認して僅かにほっとする、よかった、大丈夫、まだ侵食されてない。





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明滅するベクトルに浚われないよう鎮まった波の端を眺めて


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巡らない - 2003年12月10日(水)

一度しか巡らない星を摑まえる 冴えた空の中揺れる遊光




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それでも何ひとつ - 2003年12月08日(月)

ためいきを逃がしてそれでも何ひとつ変わらないことを確かめている



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ためいきを湯舟に伏せても何ひとつ色褪せぬことに安堵する冬








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賞味期限と品質保持期限 - 2003年12月07日(日)

大学時代の先輩と食事に出かける。フレンチをご馳走になったので、その後のお茶は私が。
「賞味期限っていうのと品質保持期限っていうのがあるんだよ。賞味期限ってのはこの日まではおいしく食べられますって期限で、それを過ぎても一応まだ食べられるの。品質保持期限は、この日を過ぎたらもう食べられませんってことなんだけど。…で、同期の女の子に、そろそろ賞味期限がやばいよってよく言ってて」
………そういうことを女の人に言うのはまずいんじゃないだろうかと思いながら、濃厚なチョコレートケーキを切り分ける。いや、やっぱりどう考えても良くない。この人そのうち闇討ちされないといいけど。確かに時々、男兄弟しかいない人独特の女性へのデリカシーの無さが垣間見えるけれど、基本的には善人で親切だし、女性を上座に座らせるとかの礼儀はきちんと身に付いている。そのあたりのバランスと、本当に害意がないことをどの程度理解して貰えるかが難しいところかもしれない。


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