夕暮塔...夕暮

 

 

曇った硝子の - 2003年10月29日(水)

ほんの少し曇った硝子の優しさで夕暮れて終わる今日よさよなら




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夢の痛み - 2003年10月28日(火)

年に一度あるかないかというレベルで心がささくれ立っていたせいか、細い蛇に腕に絡みつかれて咬まれる夢をみた。あまりに設定が奇妙で長い夢だったのでショッキングな場面しか覚えていないのだけれど、少なくとも私は二度は咬まれた筈で、そのどちらの時にも明らかな痛みが走った。「あ、来る、」と思った時には、予測通りのタイミングで咬み付かれた。私はじっと気持ち悪さと痛みに耐えるだけで蛇を振り払おうともしなかった、現実の私は爬虫類がもの凄く苦手で、姿を認めただけでパニックに陥って悲鳴をあげそうになるのに、夢の中では嫌悪感を感じながらも腕に絡みつかせていた。あんなことが実際に起こったら、多分失神してしまうと思う。二度目の時にはもう自分が夢の世界にいることを知っていた気がする、お願い早く醒めてと願ったようなおぼろげな記憶がある。
小さなフットランプだけが点った部屋で目醒めて、誰にとも無く責めるような気持ちになる。…夢に痛覚があるなんて、ひどい。本当のことじゃないのにあんな風に生々しく痛いのは辛い。私の夢は多分わりと鮮やかなほうだろうと思う、触覚も味覚も嗅覚も痛覚もあるからおいしいものを食べて幸せなこともあるけれど、ごく稀にこういう負の恩恵を受ける。


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杜の朝 - 2003年10月26日(日)

杜の朝 砂利のこすれる音さえも天高く響くきよらかな秋




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朝から日が落ちるまで水屋でこまごまと働いた後、慶弔用のネックレスを渡すために妹と待ち合わせて駅前のカフェに入る。妹は甘口、私は辛めのスパークリングワインを、それぞれ3杯ずつぺろりと飲み干す。疲れた時に飲むアルコールは本当に心身ともに潤うような心地、気を許した相手となら尚のこと。上機嫌で別れて、その足で私は大学時代の仲間とのお酒の席へ。


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甘い - 2003年10月25日(土)

何もかもいとしくて甘い愚かさへ変わってくみんなきみの声から




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自分の唇から漏れる言葉が酷く愚かしいことくらいわかっている、その程度のモニター機能ならまだ生きているのに、どうして気が付いたらこうなってしまうんだろう。うまくなんていかない、絶対的なものに跪くようにして伝えるしかないこの甘ったるい感情を、どこへ持っていったらいいのかと思いながら瞼を閉ざす。


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またあした - 2003年10月24日(金)

終わる筈の予定だった仕事が思いがけず続くことになって、帰り際のソファの上で走り書きを眺めながら「もういや」と暫く一人でごねたりするけれど、状況が変わるわけではないので早々に諦めて書類を持ち帰る事にする。
お疲れさまでした、と背中を向けようとした時、「水色と黒の組み合わせ、よく着てるよね」と路子さんがこちらをじっと見る。私の今日の服装は、淡いサックスブルーの綿ニットと黒のパンツ。「見ているうちに好きになった」と言うので、わざと期待した感じで「えっ!?」と振り向くと、「あなたをじゃないよ!! 色あわせよ! 今勘違いしたでしょうー」 路子さんは色白のベビーフェイスで無邪気に笑う。なあんだ残念ー、と私も一緒に笑って、それではまたあした。





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鈴懸 - 2003年10月23日(木)

ひといきに桃色の雲は翳りたり 鈴懸を揺らすこの夕時雨
 



夕時雨去りて星々の光澄む 君の肩ごしに山茶花の白





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切り取ったように美しいと思うことがある、窓の向こうに影を作る遠いスズカケの木、さっきまで薄く桃色に凪いでいた空が見る間に雨音に満ちて、荒れ狂うような一時の後には冬の星座が静かにおさまっている。雨に濡れた山茶花が香り立つ、その隣をゆったりと歩いて食事に向かう。


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ステレオタイプ - 2003年10月20日(月)

「りさちゃんが結婚することに」 と上の妹が言う。学部の時に私も何度か会ったことがある彼女、今時ちょっといないくらい善良な子なのになぜだか男性の趣味だけが著しく悪かった。とうとういい人に巡りあったのねと思ってほっとしつつ「良かったね、どんな人なの」 と尋ねると、少し言いにくそうにしている。
前に聞いた、「お前のような○○大の女が東大の俺を馬鹿にするな」 とか怒った銀行マンじゃないよねえ、と確認すると、「いや、その人なんだけど……」。 何なんだそれは、どうしてそんなことになるのかと思って呆れ返りながら不安になる。しかも彼はつい最近まで社内で二股をかけていて、もう一方に振られたので彼女にプロポーズしたらしい。
「りさちゃんは、その人のどういうところがすきなの?」
「…………目が大きい所、かな!!」
「それ、本人が言ったの? 推測したの?」
推測しただけ、と妹が笑う。そうでなければ色が白いところかなーとうそぶくので、推測じゃなくて事実に基づいてしゃべってください、と私は冗談交じりに問い詰める。
「本人にのろけ話とか聞いていれば、どういうとこに惹かれているのかわかるでしょう?」
「うーん。東大卒なところ。…これは本当だよ。りさちゃんは、ほんとにステレオタイプが好きなんだよ。信じられないくらい好きなんだよ」 電話越しの妹の声が真剣になるので、眩暈がしそうになる。
婚約指輪はティファニーで、プロポーズはお台場の観覧車の中でその後フルコース食べて、結納は帝国ホテルの一室を借り、もちろん本人たちは振袖・袴姿で他の家族も皆お着物で……と続けるので、ついに耐えられなくなって「…どうしてそんな安っぽいステレオタイプを」と洩らしてしまう。
りさちゃん、なんでもいいから幸せになってほしい。聞けば聞くほどもの凄く心配になる。「その人、結婚したらきっと浮気するんじゃ…」 ぐったりしながらつぶやくと、妹は「そっちに百万円くらい賭けてもいい、だって本当酷い人だもん」。賭けにならないよ、とわたしはため息をつく。


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ただ優しく - 2003年10月18日(土)

ただ優しくするだけのぬるい幼さをいつの間に捨ててここにいるのか




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描く軌跡の - 2003年10月17日(金)

いつまでも色褪せぬ夢の端を泳ぐ夜になる 月の船が浮かべば



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月の船描く軌跡のやわらかさ


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私のものでは - 2003年10月16日(木)

あなたには私のものではない夜があるというただそれだけのこと




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「また週末に電話する」 そんなものいらないと返しそうになったのを我慢して、とりあえず黙って微笑んだ。それをどんな風に受け取ったのかは知らない。


母に送ってくれるよう頼んでおいた着物が届いたので開けてみる、去年作った紋付の色無地と雨用のコート、伯母から貰った紅梅色の付け下げと、昔一度だけ着た山吹色の訪問着が収まっている。それから其々の長襦袢。色無地以外は私が成長しすぎて丈が合わないので、「呉服屋さんに丈を直してもらって着たら」と母が言っていたのはいいのだけど…いいのだけど、お母さん、この訪問着を着れるほど私はもう若くないような。うーん。


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