夕暮塔...夕暮

 

 

衝撃的瞬間 - 2003年05月02日(金)

「ごちん」と、不自然な音がリビングに響いた。ワックスでぴかぴかに光ったフローリングの上、私の右足の下で洗濯物を干すプラスチックの器具がずるりと滑ったかと思うと、視界は思いきり回転した。私はその勢いで、左眉の上を小さなテーブルの角に強かにぶつけてしまった。角が丸い形状だったのと、ぶつけたところが額なのがまだ救いだった、瞼だったら確実に失明していただろう。一部始終を目撃した父が複雑な顔をしている。「何やってるんだ…」 わからない、こっちが聞きたい、だけど痛い、痛いの。もう泣いたらいいのか笑ったらいいのかわからなくなってきて床にうつ伏せる。見る見るうちに左の額が膨れ上がってきて、親指と人差し指で作ったくらいの瘤ができた。



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ぎこちなく - 2003年05月01日(木)

生活の一部だった自転車を盗まれたのをきっかけに、仕方なく徒歩であちこちと出歩いているうちに、ひとつ前の駅から歩いて帰ってくる癖がついた。癖というよりは趣味がひとつ増えたと言うべきなのかもしれない、西に向かってまっすぐに続く道を淡々と歩き、霞みながら消えていく薄紫の光を追いかける、時々お店に立ち寄りながら自宅への道を辿るうち、世界には静かに夜が降っている。今日からは5月。明日は実家へ。




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花の頃はぎこちなくいつも必死さが張り詰めているうちに終わるね


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てのひらの - 2003年04月25日(金)

てのひらの上にのるような煩憂を抱きしめて春は暮れてゆくのに



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この間、ごめんね、代わってくれてありがとう。なんかお礼言うのも思いつかないくらいダメになってて。
PCに向かいながらの彼女は白い首を傾げてかすかに笑うけれど、どう見ても本調子じゃない。ぎこちない笑み。電話対応の声の調子が冷ややかで、少し痛々しくなる。使う言葉はあんなに丁寧なのに、音が冷たいのだ、ぞっとするほど。

「大丈夫です、いいんです、わたしは。…大変でしたね」
この人に上手な言葉をかけようと思っても、多分うまく響かない。だから可能なかぎり誠実に、率直に、少しくらい拙くてもそうしようと思っている。

「さっき薗田さんに言われちゃった。ストイックなのはいいけど、自分を大切にする方にもっとストイックになってもいいんじゃないって。本当に、そうだと思って…」 






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いつまでの熱 - 2003年04月21日(月)

肌を打つ春の鼓動よたそがれよいつまでの熱を我に与えん



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春なのに - 2003年04月18日(金)

夏の夕暮れ時みたいですねと雲を見上げて呟くと、本当だねと彼女がのんびりした調子でささやいた。
あの人は、復帰できるでしょうか。 おそるおそる尋ねてみる、美しい物を眺めながら不安を確認するのは怖ろしいけれど、どうかそうであって欲しいと思う。繊細で難しい人だと思う事はあった、だけどこうして失いそうになると祈るように望むのだ、彼女の元気な時の姿に、もう一度会いたい。






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あの夜に - 2003年04月10日(木)

「この春最後のスイートピーです」と値札に書き添えてある10本500円の束、衝動買いしたいなと思うけれど、出がけである事を考えたらどう考えても現実的な選択ではない。今日は帰宅がきっと遅い、私が駅前に着く頃、花屋さんはとっくに閉店しているだろう。簡素な紙に包まれた薄くやわらかそうなスイートピーの花弁を横目で流して、駅前の交差点を渡った。春はこういう穏やかで寂しいことばかり。桜ももう終わってしまう。




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あの夜にあなたの笑った声の色 鮮やかで痛い 今もいつまでも 


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チゲ鍋の会 - 2003年04月05日(土)

午後三時まで働いてまっすぐ電車に乗り、雨の中地元の改札で友人を待つ。今晩はうちで3人でチゲ鍋を囲む事になっている、なんだか人と会ったり招いたりが多い週だなと思いながら、改札の向こうの人波に見知った顔を探す。久々に見た彼女の髪はふわふわと柔らかいパーマがかかって、かなり明るい色になっている。
「一応半分くらいは国の機関なのに、その色、許されるの?」と問うと、「上司に、不良が歩いてるって言われてるわあ」 とさらりと返してきた。私は彼女のゆったりした京都のイントネーションが好きだ、いいなあ、とても可愛らしい。


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待ち合わせ - 2003年04月04日(金)

井の頭線の改札前で待ち合わせる、もしかして待たせてしまったのではないかと思いながら時間ジャストに到着すると、まだ姿がないのでもの凄く安心した。5分程待ったあたりでその人は淡い色合いのセーターを着て現れる、改札をくぐる格好は少し猫背、カジュアルな綿布の手提げ鞄、誰もこの人が新進気鋭の研究者だなんて思わないだろうと思うと少し楽しくなってしまう。卓球が極端に苦手とか、そういう些細な弱点があって、笑顔がとてもかわいい。きっとそこが素敵なのだ。もてるでしょうねと言おうかと思ったけれど、考えてみたら二人きりで話すのは初めてなので控えておいた。


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薄紅の闇 - 2003年04月02日(水)

眠りからさめる薄紅の闇の中 君はあたたかな星に似ていた



君だけが静か君だけが暖かく君だけが甘い美しい夢




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私の自宅で、ささやかな送別会のようなものをする事になった。台湾料理講習会と言った方が近いかもしれない。台湾人の秀さんを先生に、餃子と、鶏肉とカシュナッツの炒め物、海老マヨネーズ、黒酢を使った具沢山のスープを作る。私は専ら餃子の係、手動のフードカッターを高速でぐるぐるまわして、1つ年下のゆかちゃんを驚かせては笑い合う。台湾からわざわざ送って貰ったという餃子の皮が、日本のよりずっともちもちしていて、前に作って頂いた時も素晴らしいと思ったのだけれど、やっぱり触っただけでも全然違う。「いいなあ、これ、どこかで買えないんでしょうか?」と口々に言っていると、「そういう仕事、しましょうか」と秀さんが笑う。






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風は君の - 2003年04月01日(火)

風は君の暮らす方から来るようで 揺れる前髪の影も嬉しい



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