「硝子の月」
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「わたしは、知りたいだけ。 ……『御方』にはわかるのでしょう? わたしの紡ぐ運命を捻じ曲げるものが」 白い少女が囁くたび、白い布がさらさら波のように揺れている。 「わたしは、知りたいだけ」 繰り返す。知りたい。赤き運命のしるべとなるもの。 (あの女は嫌だ) あの女は嫌だ。嫌だ。――だい、きらいだ。 わずかなりと劣ることなどあってはならない。まして敗北など。 「……古来、月は人を惑わすもの」 部屋のあるじはふっと吐息のような微笑を漏らした。 「潮の満ち欠け、方向の指針、時の数え、そして人の狂気や魔力の支配。 ……遠く離れ地上からいくらそれらを支配しようとしても、完全にはゆかぬ」
「妾を」 『永き者の寵を受ける御方』の金の双眸がすうと細められる。 「疑っておるのかえ?」 気を悪くしたのではない証拠に、唇には何とも楽しそうな笑みが浮かんでいる。 「いいえ」 『白き紡ぎ手』は首を横に振る。
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