「硝子の月」
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2003年02月19日(水) <発動> 瀬生曲

 呟いたけれど、自分の声がやけに耳についただけだった。
 何も見えない。目を開けているはずなのに。
 目を閉じる。
 やはり、白い。
 それがひどく不快だった。目を閉じてまで視界が白いなど有り得ないはずである。

『ようこそ』

 不意に、声がした。実際には声ではなかったのかもしれないが、ティオには他にそれを表せるような言葉がない。
『来たね。来るべくして来た者よ』
 感情のない声だった。


2003年02月18日(火) <発動> 朔也

「外でおかしな気配がするわ」
  アンジュは憂えた目でそっと遥か外を見遣る。
 ここからでは街の様子を伺うことはできない。けれど、リディアの感覚には目で見える以上のものが鮮明に視えている。
「……何か……とても大きななにか」
「……お嬢様」
 リディアは気遣うようにアンジュの横顔を見遣った。
「動き出してしまった……?」
 アンジュは尚も独りごちる。眉宇はひそめられ、小さな不安のようなものを感じさせる。
「何かが、動き出してしまった」


 音が聞こえない。
 何も聞こえない。
 熱さもない。
 寒さもない。
(ティオ)
 それはなに?
(ティオ、駄目よ。起きて)
 この声は誰?
 何も見えない。
 光だけが見える。
 白い光。
 しろいしろい、ひかり。

「ここは――どこだ?」


2003年02月08日(土) <発動> 黒乃一三

「リディア・・・」
 気が付くと、アンジュのすぐ隣に雪のような麗人がいた。
 礼服に合わせた白地のマントを羽織り、腰には細剣(レイピア)()いている。ところどころに嫌味なく施された金糸の刺繍とペリドットのブローチが目にも鮮やかで、鞘と護拳には微細な花蔓が彫金されていた。建国祭に合わせた盛装である。
 あくまで従者としての立場をわきまえ、華美から一歩引いた服装だが、そのセンスは典雅の一言に尽きた。
 アルティアの第8王位継承権保持者。アンジュ・アルティアート・クリスティンが従者にして、心寄せる親友とも
 彼女の名を、リディア・ニースと言った。
「ご無礼を・・・。私にも、外の異変が感じられましたので」
 貴賓席に立ち入れないリディアは離れて控えていたはずだが、その鋭敏な感覚は主の危機を素早く察知したようだ。
 軽捷けいしょうなること隼のごとく。第一王国が尊ぶ美徳の一つを、彼女は若くして持っているらしい。
「無礼だなんて・・・。ありがとう、リディア」
 掛け値無しの感謝に微笑みを添えて、アンジュは友の働きを労った。


紗月 護 |MAILHomePage

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