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090608
2009年06月08日(月)




 施設の方の外出に付き添って行った先の大きな公園で、遠足に来た小学生の一群と鉢合わせになった。大の大人すら好奇の眼差しを向けずにおれない奇形を前に、小学生が反応を見せないはずはなく、行く先々で雷に打たれたように呆然と立ち尽くしていた。であれど、子供の好奇心は見上げたもので、遠巻きに眺めていた輪が徐々に狭まり、やがて一方的に質問を投げ掛けるまでになった。一旦越境する子供が現れると、堰を切ったようにあとからあとからやってくる。気付けば僕の隣りはもちろんのこと、肩や背中によじ上って会話を求める子供で溢れていた。引率の教師の恐縮そうな顔が見えた。





 『オリバーは父親の傷を癒している。この父親も、息子を遠ざけること
 で傷ついていたんだ。「オリバー、君がまだ生きているうちは、みんな
 のエサになるんだ」』

 『ネガとポジのあいだの闘いとバランス。物事には善悪があり、明暗も
 ある。だからこそ物は、その形と色を現すのである』





 ハートビートを送る。長いシャットアウトの期間を経て数年振りに連絡をした友人には子供があり、別の友人は長く付き合っていた女性と結婚をしていた。Hっちは「今日、電話がくると思ってたよ」と神懸かり的なことを言い、Hは「あの頃はお互い、もがいてたよねー」と出産を経た貫禄で言う。Oさんは、ようやく冬眠が終わったの?といった風情で呆れた様子だった。連絡がつかなかった友人達も皆元気にしていてくれると良い。

 花に水を遣るのが苦手で、しばしば枯らせてしまう。人間関係は砂上の楼閣のようなものだと思っている。いや、思っていたと言うべきか。別れたAがHと連絡を取り合っていると知って思わずくらくらしてしまった。けれどそれは、思うままにならないことをあらわすと同時に、地上で崩れたものが地下に流れてそれぞれ結びつき合っているのだということの象徴でもあった。皆どこかで誰かとつながっている。小さな流れが合わさって行き着く先はどこだろう。





 『リオは黙って父の手を握ると、病室の壁を吹き飛ばし、ベッド以外の
 全てを海に変えた。父は見渡す限りの水平線を眺めるとため息をつき、
 目を瞑ってから、もう一度周囲を確認した。「どうしてもっと早く言わ
 ないんだ」「どうしたらいい?」』





 起きがけにNさんの温かな感触を思い出した。スカイビルの屋上で大阪を見晴かした帰り、遅い遅いと思っていたらば、二人分の飲み物を手にNさんが現れた。そんな些細で突拍子もないことからふくふくと幸せな感情が思い起こされた。翻って、タクシーの運転手に告げた場所で降りるとそこは山の起点だった。この先に本当に目指す店があるのかといぶかしみながら僕とTは歩く。「今晩は一組だけなんですよ」と、客より多い従業員のおばちゃん方にもてなされる。愛想は良いが人間不信気味で人の話を聞いているように見えて聞いていない僕と、打ち解けるのに時間がかかるが好人物でちゃっかり者のTが囲炉裏を前に斜向かいに座っている。日が暮れて表の闇は益々色濃くなる。Tは、おばちゃんと漬け物のことをあれやこれや話している。酒が入ると外面を良くしておくのが面倒になるので、対外的なことはTに任せてしまう。浸けダレが赤く熱した炭に滴って香ばしく匂う。相槌を打つ変わりに僕はただ阿呆のように笑っていた。ずっと昔からこうしているような気がした。


 『タツ子はしまいまで、一言も口をきかなかった。口をきかないものに
 変化してしまったのかもしれない。それはきっと、とても柔らかなもの
 だ。苔とか、降り始めの淡雪とか、春昼のかすかな風とか』





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青山ブックセンターでレベッカ・ブラウン、柴田元幸「妄想の贈り物」

三鷹市芸術文化センターでサンプル「通過」

ギャラリー小柳で「内藤礼『カラー・ビギニング』」
「鈴木理策『WHITE』」
INAXギャラリーで「西澤諭志 展 -写真/絶景 そこにあるもの-」
ギャラリー戸村で「高松和樹 展 距離感主義」
ナディッフで「鷹野隆大<おれと>」
上野の森美術館で「ネオテニー・ジャパン-高橋コレクション」
アラタニウラノで「西野達『バレたらどうする』」
国立新美術館で「野村仁 変化する相-時・場・身体」
BLDギャラリーで「森山大道写真展『光と影』」
セルバンテス文化センターで「チェマ・マドス:詩意」


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橋口亮輔「無限の荒野で君と出会う日」
池澤夏樹「骨は珊瑚、眼は真珠」
ジム・トンプスン「残酷な夜」
吉田篤弘「つむじ風食堂の夜」
川上弘美「龍宮」
恒川光太郎「秋の牢獄」

読了。





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