群青

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090220
2009年02月20日(金)




 痛みだけの世界。僕はストレッチャーの上でのたうちまわっている。理不尽なまでに暴力的な痛みは、人の人たる尊厳をもぎ取る。獣のような雄叫びを押し留めることができない。誰もこの痛みは理解できない。泣き叫んだところで痛みは直ぐに癒えない。自己の同一性を保持することができない。平時の、体裁をひどく気にする自分と、恥も外聞もなく泣いて懇願している自分とがうまく共存できない。これは今まで慣れ親しんできた孤独と決定的に違う。居ながらにして、驚異的な早さで別所に押し流されて行く感覚は、かつて経験したことのないものだ。流れて行く先の深さと冷たさに愕然とした。





 夢の中で収まっていれば良いものを。自分の身を守るのに必死で、締め上げた首がTのものだと知ったのは眠りが中断されてからだった。Tはそれを覚えていないと言う。ありったけの痛み止めを懐に押し入れて、這々の体でやっと辿り着いたというのに、僕のやったことと言えば親しい者に歯を突き立てることだけだった。






090218
2009年02月18日(水)




 Nさんが現れる。抱いているのか抱かれているのか分からない半身の融け合ったやたら親密な夢だった。その間にTは何処にいたのだろう。夢の中で鉢合わせたことが一度とてない。眠りながら見ているものに意味を求めるのも馬鹿げたことだが、しかし。

 光に包まれた眩い列車に、知己が続々と乗り込んで行く。僕は乗り込むことなく、ここで手を振っている。見送ることには慣れている。それにしても、僕のいない世界のなんと眩しいことか。


 『あんたは及川さんのことを愛してなかったと全部否定して女房に走っ
 て、その女房が自分を裏切ったら今度は、女房があんたのことを愛して
 なかったと全部否定する。あんたの人生は、いつもそうやって過去にあ
 ったことを消し去って成り立っているんだ。だからあんたは……いつも
 ひとりぼっちなんだよ』





 早食いは病気、という文を目にした。端的な表現であり、なおかつ与えられる病名のないことは自明だが、まさに当を得ていると思った。ひとつところに拘束されるのが嫌で、息つく暇なく一気呵成に平らげる自分をさもしいと思う。待つことができない。味わって食べる精神的な余地がない。

 「あなたは完璧に仕事をこなす。聞かれれば何でも答えられるし、一人で何でもやろうとして、それができてしまう」けれど、それでは同僚や後輩が育たないのだそうだ。この敵愾心は。この苛立ちは。Sさんに愚痴をこぼしながら、もう一人の俯瞰している自分は愚痴をこぼしている僕をせせら笑っていた。予め見下してかかってしまえれば楽だろうに。それを誠実でないと思うほど僕はまだ若いらしい。間が持たなくなって仕事の話を始めた自分にまた苛立った。これだから冬は。


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渋谷HOMEでひょうたん
「LessThanTV presents『another channel#18』」

NTTインターコミュニケーション・センターで
「ライト・[イン]サイト -拡張する光、変容する知覚」
エプサイトで「森永 純写真展『瞬〜揺』」
山本現代で「西尾康之“DROWN”」
資生堂ギャラリーで「佐々木加奈子展『オキナワ アーク』」
ヴァニラ画廊で「デパートメントHの全貌展
~ゴッホ今泉とアンダーグラウンドパーティーの表現者たち~」
プンクトゥムで「倉田精二 都市の造景」
東京国立近代美術館で「高梨豊 光のフィールドノート」
「コラージュ -切断と再構築による創造」
「特別公開 横山大観《生々流転》」


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柴田よしき「聖なる黒夜」
宮部みゆき「龍は眠る」
種田山頭火「山頭火句集」

読了。





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