夕暮塔...夕暮

 

 

夕ご飯 - 2003年05月29日(木)

「こんばんは、今日は何にする?」 にこにこした店主のおじさんの声、こじんまりとした八百屋さんで、卵とお豆腐、それから水菜を買った。帰り道は優しい夕映え、ゆっくりと坂を上りながら夕ご飯の献立を考える。もの凄く単純な欲求だけれど、食べ物のことを考えるのは本当に幸せだと思う。
水菜はゴマ油と塩胡椒ををまぶして混ぜておく。そこに玉葱と茹でたシメジ、絹豆腐をのせてゆずぽんがドレッシング代わり。さっぱりと簡単な夏のサラダ。ジャコとかアスパラがあったらもっといいかもしれない。次はそうしてみよう、アスパラとシメジは一緒に茹でたらいいし。
鶏ムネ肉の中華スープに玉葱と茄子とシメジを加えて少し煮た後、といた片栗粉を入れてあんを作る。火を強めて、空気を入れながらふわふわに混ぜた卵を回し入れたら、くつくつとやわらかい卵色が広がっていく。わあ、きれい、嬉しい。 同時進行で作っていたチャーハンに小鍋のあんをかけたらできあがり。ご飯にちょっと焦げ目を作ってみたのがよかったらしい、なかなかよくできていると思う。おいしい。少し残ってしまったから、残りはまた明日。


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粛々と - 2003年05月25日(日)

粛々と重なりて蕾むうすべにの奥深く闇は円かなりけり


粛々と重なりて蕾むうすべにの奥深き闇の円かさに酔う




…………




満開時の絢爛さから考えると、芍薬の蕾は不思議なくらいコンパクトだと思う。徐々に花開いていく様子をじっと正面から覗き込めば、花弁の奥には甘い香りの影がひっそりと息づいている。







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サボテンの花 - 2003年05月23日(金)

サボテンの気高く真白き花歌う時来たるらし五月雨のあと



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いつも通る歩道の端に出されている数個の植木鉢はいつもその家の人に丁寧に世話されていて、私は毎年そこに咲くサボテンの花をとても楽しみにしているのだけれど、どうやら今日、今年最初の花が開ききったらしい。両手のひらを広げたような形がゆったりを首をかしげているのは本当にたおやかでいい姿だと思う、クジャクサボテンの花には虹の7原色がすべて揃っていると図鑑に書いてあったけど、やっぱり白が一番すてきだ。儚げなのに、一瞬で目を奪われるような圧倒的な存在感がある。
そういえば大学の時、部の後輩の男の子に月下美人の苗を貰ったことがあった。残念ながら育たなかったと伝えたら 「そうですか、難しいらしいんですよ。うちも今年は咲かなかったけど、一斉に咲いたら家中が月下美人の匂いになります」 と言っていた。真剣に羨ましいと感じたことを思い出す。


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でも今も - 2003年05月19日(月)

「どうして、電話、くれなかったの?」 拗ねた声が電話の向こうでねじれかかっている、「ごめんね、鷹男さんとのとの出発前最後の蜜月だろうから、お邪魔かなって思って」 「そうだったんだあ…」 寂しそうな返答、何だか申し訳なくなってくる。少し弱っているんだろうか。「見捨てられちゃうような感じがした?」 「したよお…」 
茶化してはいるけれど、かなり本気なんだろうな。あのね、鷹男が乗る飛行機が決まったの、と伝える声はひそやかで暗い。彼女が十代の頃から付き合い続けてきた恋人は、再就職のために今週末香港に向かうことになっている。いつ帰ってくるのかもわからない、最低三年という期限だってあてにならない。船出という言葉を連想するような旅立ち方かもしれない、再び戻ってきて定住するかどうかもわからないけれど、とにかく彼女は彼の成功を祈って送り出すのだと言う。彼はもともと外国を転々としながら生まれ育った人で、悪い意味ではなく特定の国への帰属意識が薄いのだと思う。



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未来など約束できないでも今もあしたもあなたのことを好きです




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呼ぶ時のこと - 2003年05月09日(金)

君の名をもう一度呼ぶ時のこと思う昼下がり茉莉花の風




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ジャスミンの白い花が咲いている、空気が通る度に風が香り立って、繁るみどりが性急に夏に向かう事を知らせている。東京にいると、ここから先が寂しいくらい速い。


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温泉ホテル - 2003年05月05日(月)

温泉ホテルの日帰りプランに出かけることに。出発直前、思春期で親とは出かけたがらない弟が「やっぱり行く」と階段を駆け下りてくるので、私が車中でホテルに電話をかける。連休の繁忙期を過ぎたホテルは、ひっそりと静か。入浴して、お部屋で懐石料理とお酒を頂いた後のんびり過ごす。両親は和室でうとうとして、私と弟は縁側のソファで足ツボマッサージごっこ、「ここが痛い人は脳がまずいんですヨー」と渾身の力で足裏を押してはバカみたいに笑い転げる。お腹がこなれてきた頃にもう一度温泉に入ってから帰宅して、お土産に買ってきた牛肉を、父が上手にステーキにしてくれる。楽しくて気持ちのいい連休最終日。


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散歩 - 2003年05月03日(土)

犬に急かされて、日暮れ時に弟と散歩に出た。連休1日目、まだ苗の入っていない水田はひたひたと潤って隣町の山影と夕陽を映している。かすれたような茜と紫、太陽を抱いた清涼な水の鏡、冷んやりした風が吹いて微かにさざなみが立つ。秋にはここが見渡す限りの金色に変わるのだ。 
「ここで一度だけ、本気で喧嘩したこと、おぼえてる?」 「…おぼえてない」 年の離れたきょうだいは争わないものだけれど、私と弟もその例に漏れず、からかい合う事はあっても諍いの経験はごく少ない。「1人で釣りに行かないでって言ったんだよ。こんなところじゃあなたが川に落ちて叫んでも誰も気付かない、だからお願い、1人では絶対に行かないで、って」 ふうん、と背の高い少年は目線を伏せて面白そうに笑った。

振り返ろうとしない子供の背中を追いかけた、あれは夏の事だった。本当に憶えていないならそれでいい、私の中ではどちらかというと苦い思い出だったから。
大切な人に言葉が届かない事はひどく悲しい、それは相手が子供でもなんら変わりない。お願いわかってと縋る自分を俯瞰すればみっともないと思うのに、他に手立てもなく。


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衝撃的瞬間 - 2003年05月02日(金)

「ごちん」と、不自然な音がリビングに響いた。ワックスでぴかぴかに光ったフローリングの上、私の右足の下で洗濯物を干すプラスチックの器具がずるりと滑ったかと思うと、視界は思いきり回転した。私はその勢いで、左眉の上を小さなテーブルの角に強かにぶつけてしまった。角が丸い形状だったのと、ぶつけたところが額なのがまだ救いだった、瞼だったら確実に失明していただろう。一部始終を目撃した父が複雑な顔をしている。「何やってるんだ…」 わからない、こっちが聞きたい、だけど痛い、痛いの。もう泣いたらいいのか笑ったらいいのかわからなくなってきて床にうつ伏せる。見る見るうちに左の額が膨れ上がってきて、親指と人差し指で作ったくらいの瘤ができた。



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ぎこちなく - 2003年05月01日(木)

生活の一部だった自転車を盗まれたのをきっかけに、仕方なく徒歩であちこちと出歩いているうちに、ひとつ前の駅から歩いて帰ってくる癖がついた。癖というよりは趣味がひとつ増えたと言うべきなのかもしれない、西に向かってまっすぐに続く道を淡々と歩き、霞みながら消えていく薄紫の光を追いかける、時々お店に立ち寄りながら自宅への道を辿るうち、世界には静かに夜が降っている。今日からは5月。明日は実家へ。




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花の頃はぎこちなくいつも必死さが張り詰めているうちに終わるね


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