みかんのつぶつぶ
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寒い寒い冬だった。梅の花が咲き始めたと思ったら、桜の蕾が日に日に大きくなりはじめ、ちらちらと花びらをのぞかせ始めている。 職場で、今年の開花は早いねと話題をふられる。5年前もとても早かったのよと、私が返事をする。そうだったかしら、そういえば早い年があったわねえと、気に留めることなく相手は流す。桜が早く咲いた年、5年前、それは人知れず私が心の奥底に抱えている日常的な痛みのキーワードだということに気づくこともない。どことなく身体の調子が悪そうに見ることがあるらしく、元気がないねと声をかけられる。春が嫌いなだけだと即答をする私に、戸惑った笑顔を返してくる人々。 私も、困っているんですよ、本当に憂鬱でと、心のなかで呟く。
彼岸の混雑を避けて私は、彼岸入リの前日、平日に休みをとり墓参へ行った。 風が強く、線香がよく焚きあがる様子をぼんやり見つめ、この風で花が飛ばされやしないかと心配になり、挿した花をもう1度取り出して丈を短く切りそろえて見たりと、30分ほど墓のまえで時を過ごした。彼の分に、2本目の煙草を点けた。国立病院のベンチで、煙草も吸わずにぼんやりと座って私を待っていた姿が浮かんだ。あのとき、元気のないことを何とか紛らしてあげたくて、早くに咲き始めた桜と一緒に写真を撮ろうと誘い、お互いで桜の木々の下に佇み撮り合った。満開にはまだ程遠い桜の花だった。間もなく彼は、がんセンターへ転院した。転院の朝、がんセンターへ向かう道々の桜の下、通勤通学の人々の姿が、あった。柏尾川の水面がキラキラと光り輝いて、春の街の何気ない風景をタクシーのなかから眺めていた。 国立病院の桜が満開に咲き乱れている様を見ることができたのは、私と娘だった。がんセンターへ見舞いの帰り道、国立病院へ書類をとりに咲き乱れる夜桜を見上げながら立ち寄った。娘の複雑な表情が印象的だった。言葉にならない微妙な。
コンビニの帰り道にあまりにも気が重くなったので空を見上げてみた。 いつものように真上を見上げて思った。 空は、その先が見えないじゃないかと。 あの青い青い色のその奥先に何があるのか見えないじゃないかと。
梅の香りが風に混ざり合い、春の予感は不安になり、冬の終わりに目を閉じる・・・そんな季節だ、私にとって。
ただせつなくて、 やっぱり、せつなくて。 吹き抜ける風に身をまかせて道端に立ち止まり、
ああ、疲れちゃった
と、悲しみまぎれに吐き出す。 だって、 悔やんでも悔やんでも、 前へ歩いていくしかできないからね。
ごめん、ごめんね、本当に。 私もつらかったけど、 きみは、 本当に苦しんだ。
本当に。
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